テリトリー
(くっ!堂々と観客席で高みの見物ってわけ!)
クリスとエリシアは見覚えがあった。コテナ襲撃の時にいた堕天使である。右手には黒い杖が握られている。
(くそ!姿を隠してねぇから、返って対処が難しい!)
ランドがそう考えるのには理由がある。審判や一部の観客は相手の様子がおかしいことには気づいている。だが、ここで一般人に攻撃すれば、こちらの正気も疑われてしまう。
たとえ、堕天使がいると言っても世は堕天使の存在はしんじられていないので、やはり正気を疑われる(何故信じられていないかというと、神の使いが堕ちることなどありえないというのが人の常識であるため)。
(こっちから攻撃するのは難しい…。とりあえずあの杖を奪えば…、エリシア!)
ランドがアイコンタクトでエリシアに頼む。
(言われなくても…!『空間転移』!)
エリシアの空間魔法により堕天使の手元から杖が姿を消し、エリシアの手に渡った。
「なっ!?」
「よし!」
その瞬間、操られていた相手は人形のように倒れた。
「エリシア!壊せ!」
エリシアが拳を振りかぶる。
「させん!」
堕天使はたたんでいた翼を出し、拳が振り下ろされる前に杖を奪った。だが、これでステージに誘い出せた。
「堕天使!?」
堕天使の登場に審判も観客もざわめく。堕天使が杖を振るとまた五人が起き上がった。
(また振りだし…。いや、これで堂々と堕天使と戦える!)
「ランド!クリス!エリシア!僕と姉さんで五人の相手をします!その間に倒してください!」
「お、おい!?お前ら弱ってるだろ!」
シオンはランドの声を無視して五人の方へ突っ込んだ。
(だが、確かに俺の盾技も攻撃がすり抜けてしまって通用しない…。俺では二人を守れない…。せめて、クリスかエリシアを…)
「聞け!」
「!?」
滅多に怒らないシオンが珍しく丁寧語ですらない言葉で怒鳴る。何を迷っているんだ!信じろ!と副音声で聞こえた。
「わかった!死ぬなよ!」
シオンが時間稼ぎ組にまわったのには理由がある。堕天使の狙いはあくまで自分と姉の命。仮にクリスやエリシアをまわしても、無視されてしまう。ランドの盾技もすり抜けてしまう。ということは、後ろを気にしながら堕天使とは戦わないといけなくなってしまう。
確かにさらに誰か一人いた方がいいかもしれないが、相手は操られているに過ぎない。エリシアやクリスだと加減を間違えかねない。既に相手は限界を超えている。となると、姉と一緒に守りに徹した方が良いと考えたのだ。
だから、三人を堕天使組にまわした。
「姉さん!時間稼ぎに徹しますよ!」
「ええ!」
(まだ、数分しか使えませんが…)
「『テリトリー』!」
シオンを中心に約半径十メートル辺りの世界の色が変わる。
これは魔力と気を織り混ぜ、辺りに撒き散らす魔技。人によって効果が変わり、シオンの場合は相手の動きの早さだけを十分の一にする効果がある。
(これで数分…。)
その間に決着がつくことを祈った。
「『スピリッツⅣ』!『一閃』!」
ランドが大剣に持ちかえて突っ込んだ。堕天使はランドの攻撃を杖で受け流す。
「「『スピリッツ』!『共鳴!』」」
「『剛力』!」
「ちい!」
魔力で強化された拳で堕天使を吹き飛ばす。
「『限界魔砲』!」
吹き飛ばされた先にクリスが先回りし、魔法を放つ。
「くあああーーー!!」
「いくわよ、クリス!」
「もちろん!」
「「『魔掌砲』!」」
クリスとエリシアの魔力を小手に流し込み、放つ。
「く、おおおーーー!!」
杖で防ごうとする。堕天使自身には、ダメージはなかったが、ついに杖が壊れた。
「やった!」
「そのセリフは倒してから!」
エリシアはチラッとシオンとフィオナの方を見る。相手五人は地面に倒れていた。
「はあ、はあ。加勢に…いけない。」
「まだ…慣れてなかったから…吐きそう…です…。」
よく見るとフィオナは両足を射貫かれて立てなくなっており、シオンは顔色が悪かった。
「杖が…、貴様ら絶対許さんぞ!」
「それはこっちのセリフだ!クリス、いくぞ!『魔力活性』!」
ただでさえ、魔力を多く保有するクリスの魔力が強化される。
「受け取った!いくわよ!シオン直伝!『全魔放出』!」
(直伝って…、自分の魔力を全て吐き出す力技って説明しただけなんですが…。)
シオンは半ば呆然としたまま、それを眺める。
(できてる…、クリスがやると凄いんですね。)
現実逃避気味に。思わず目を閉じてしまいそうになるほどの魔力の輝きだった。劣化版『破滅閃光』と言っても差し支えがないレベルである。
「アストラ…ぐあああーーー!!」
何か防御魔法を使う前に堕天使を消し飛ばした。
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クリス
魔法
『全魔放出』new !
『テリトリー』new !
ランド
魔法
『大結界』new !
シオン
魔法
『テリトリー』new !