夢魔法
「いたたたたた…。」
『破滅閃光』を放った反動で地面には巨大なクレーターができ、飛ばされないように踏ん張っていたため両足が折れていた。『ジェネレーション』もとっくに切れている。
シーナは二つの杖剣を杖代わりにしてやっと立っていた。
「うわあ…。空間メチャクチャ…。閉じないと…。『空間修復』。」
このままだと何が起こるかわかったものではないので、空間を直す。
(シオン…。交代…。)
(うん。)
((チェンジ。))
空間を直したところでシオンに戻す。例えシーナの体が重傷でも、シオンの体にダメージはない。魔力も空っぽで『魔力補充』はまだアレンじゃないと使えないため比較的ダメージが少ないシオンに戻したのだ。
植え付けられた恐怖も『融合』により、シーナと分け合い緩和され少しずつ治まっていく。
(まだ終わっていない…。)
「げほっ!がほっ!」
ミラが血を吐きながら、こっちに向かってきていた。右足は折れ、右腕は千切れそうになっている。
ミラは、直撃する前に咄嗟に魔力の壁を千枚近く張り、僅かに軌道をずらしたのだ。そのため、右半身だけで済んでいる。
「…貴女の負けです。」
「そ…うね。」
ミラが倒れるふりをする。
未来を見ているため、体を支えようとしたらどうなるのか知っている。近くまで行ったところで最後の力を振り絞り、シオンの背中に腕を回し背骨をへし折る。動けなくなったシオンを地面に寝かせ、『心波動』で消し飛ばす。最後に『精霊姫も一緒だから安心して…。』である。
しかし、シオンはいっそ殺された方がいいのかもしれないと思っていた。
ミラは倒れてしまう前に昆で体を支える。
「…ひょっとして未来を見た?」
「…。」
シオンは、答えない。
「でも!ぐほ!…あき…らめない!」
重傷といえど、シオンとやり合う力が残っていた。けれど、先程までの動きのように見えないというほどではない。未来を見たことによりわかる最善の方法で攻撃をかわし、殺さないように加減しながら追い詰める。
「ぐっ!…ふふ。そっか…。私の負けか…。でも、」
彼女が何を企んでいるのかシオンは知っている。
「止めてください!お願いします!」
「やっぱり、見てたのね…。」
ミラの左手に魔力が集まっていく。『魔力玉』。どれだけ魔法の才能が無くても、魔力さえあれば詠唱も無しで使える魔法。魔力の込め方で威力の調節も可能でポピュラーな魔法でもある。
ミラは国一つ消し去れるだけの魔力を込めている。
「生きていたい理由が無くなれば自分で死んでくれるでしょ?」
ミラの標的はコテナだ。止めたいが、動いた瞬間に放たれてしまう。動かなくても放つが。だから、必死に説得している。無駄だとわかっていても。
「お願い…します。止めて…ください。」
涙を堪えながら、説得する。
「じゃあ、こっちに来て。殺してあげるから。」
シオンは迷った。自分と姉の命か。国一つの国民の命か。
ミラは、立ち尽くすシオンを見て拒否と受け取った。シオンはそれに気づき止めようとする。が
「やめ…」
ビュン!
ついに放たれてしまった。ここから先は何が起こるのかシオンも知らない。
「我が前に起こる事象は幻。我らを現実へと引き戻せ!『夢戻』!」
そこで、二人は目を覚ました。
「どう…いうこと?確かに『魔法玉』を放ったはず。今まで夢を見ていたとでも言うの?げほっ!…でも、この傷は間違いなく本物。…いったい…。」
ミラの左手に『魔法玉』が残っていた。
「せい!」
突然現れたマリアが『魔法玉』を蹴り飛ばした。
「危なかったわね。シオン!よく頑張ったわね!この子をラヴァに引き渡しましょう。」
マリアがシオンの頭を撫でる。
((ええー!何ですか(何なの)、その魔法!))
夢魔法は数千年の時を経て変異した魔法のため、シーナも知らなかった。出来事を巻き戻されたため、未来を見ることができなかったのだ。
「いや!捕まりたくない!捕まったら、また謹慎になっちゃう!」
スピリッツを人に与えた時にミラは謹慎処分を受けていた。その年月は1000年。神といえど辛く、ミラには目的があるため捕まるわけにはいかなかった。
すると、突然堕天使が三人現れた。
「ミラ様!今のうちに!」
「うん。ありがとう…。私は、絶対諦めないからね!」
そう言い残し、ミラは去っていった。
「仕方ないわね…。取り合えず堕天使だけでも捕らえようかしら。」
そして、マリアによるワンサイドゲームの開始だった。