結末
精霊姫は『同調』で遠くからアレンの様子を見ており、アンが裏切った直後から駆けつけようとしたが間に合わなかった。死の瞬間を『同調』から間接的とはいえ見てしまったため、ショックが大きかった。そのため街中で膝を折り、放心していた。
そんななか、鳥の形に折られた手紙が精霊姫の目の前に着地した。アレンが死の間際に書いたものだ。書いてあることは二つだった。
人族をつくってほしいこと、後を負おうなどと考えないことだった。
人族をつくってほしいと書いたのは、課題を与えることでその間少しでも長く生きていてほしいと願ったから。勿論、純粋な願いでもあった。
精霊姫はその日は、魂の抜け殻のように帰った。『ピース』の拠点に着いた頃、時期感情の神が精霊姫の様子に気づいた。精霊姫は時期感情の神にだけ話した。時期感情の神のなかに憎悪が沸いたが、それどころではないと首を振り、ある手段を話した。オルティなら生き返らせられるかもしれない、と。
時期感情の神は急いでオルティのもとへと向かった。事情を話した時かなり動揺していたが、『体と魂の二つが揃えば可能だから、私が魂を探す。貴女達は体の方を探してきてほしい』と指示を出した。
そのことを精霊姫に伝えると目に光が戻った。そして、必死に探しだした。精霊姫は『同調』で全ての精霊と視覚を共有できるため、時期感情の神は魂を探す方に手伝いに行った。
時期感情の神は魂を死神に回収される前に見つけた。きっと私みたいに激しい憎悪が沸いているだろうと時期感情の神は思っていた。しかし、アレンの魂は自分の能力にもっと向き合えていれば、戦争の無い世界になれば母様を楽させてあげられたり、精霊姫と一緒に平和に暮らせたのにという、後悔と親や恋人に対する思いやりだけだった。時期感情の神は、優しすぎると彼の魂を補った。
時期感情の神はこれで生き返らせられる、そう思っていた。そして、精霊姫と合流した。しかし、アレンの体は指一本しか残っていなかった。その他の部分は既に人間が魔法を使えるように多くの人間に遺伝子を与えた後だった。精霊姫はオルティに『これで生き返らせられますか?』と力無い声で訊ねた。自分でもわかっているのだろう。オルティは正直に無理だと答えた。その後、精霊姫は木にぶつかりながら帰っていった。『ピース』のメンバーからたくさんの死者が相次いだ。種族の溝を埋める一筋の光を失い、絶望し彼の後を負っていった。死に場所は虹色桜。虹色桜はその血を吸いすぎたため、紅桜に変わった。
オルティはショックのあまり精霊姫を娘と呼ぶようになった。精霊姫を娘と呼ぶことでアレンが亡くなったためにできた心の穴を埋め、ようやく平常心を保っていた。シンは、精霊姫が後を負わないように『この世とあの世の間』を地上に設置したが、精霊姫は一度しか使用しなかった。それも、自分が亡くなったら、アレンの生まれ変わりの側にいられる関係に生まれ変わりたいと閻魔に言い残しただけだった。
人間に魔法が浸透していった頃、人間がエルフに戦争を仕掛けた。ただでさえ、能力が人間よりも劣っているのに魔法まで加わりエルフは一方的にやられていった。このままでは、アレンの遺言を守れないと考えた精霊姫は、エルフに精霊の力を借りられる能力を与えた。後にエルフはドワーフと同盟を組み、人間を返り討ちにし、半ば脅迫という形で人族ができた。しかし、精霊姫は力を与えた際に体を完全に壊してしまった。そして、『ようやくアレンに会える…。』そう思いながら笑顔で亡くなった。
それからも地上では戦争は絶えなかった。主に被害者は人間。他の種族も魔法を欲していたため、人間を襲っていた。そして、全ての種族に魔法が行き届いた。しかし、それでも戦争は絶えなかった。殺し合えば良い、時期感情の神はそう考え人に『スピリッツ』を授けた。そのせいで、戦争の規模は大きくなった。そこで、ようやくこの戦争は不毛だと気づき、終結した。
オルティは二人が亡くなったため、幻を見るようになった。二人が仲睦まじく平和に暮らしている世界。オルティは、その幻を受け入れ、夢の世界に逃げた。
現実に引き戻そうとソラリスが何度も試みるが、現実に目を向けたくないオルティはその度にソラリスを殺そうとした。ソラリスは、自分ではできないと悟り、時期感情の神に頼み、方法は問わないから妹を助けてほしいと頼んだ。そして、時期感情の神はオルティに魔法をかけた。
妹の心をズタズタした地上人を許せなかったソラリスは、閻魔と戦いあの世を制圧した。それから一年の間、地上では地獄の日々が続いた。人が生まれてこないのだ。生まれてくるのは、魔物、魔物。ゴブリンが生まれると母親を犯し、オーガが生まれると母親のお腹を食い破って出てきた。アランだけは例外で無事だったのだが、貴重な子供だったため拐われ、後に魔族退治の駒として利用されることになる。地上の異常事態に気付いたシンはソラリスと戦い、あの世を再び閻魔に任せ、地上は元に戻った。
数週間後、オルティは陰を差した表情ながらも正気に戻った。オルティに同情した神々はシンに地上人は本当に必要なのか?と訊ねるようになった。シンはこれから判断すると言い、自分の分身を造ることにした。
数千年後、オルティはシンは何もしないと判断したため、人類殲滅の計画を立てた。だが、本能では息子に人殺しをさせたくないと思っていたため、最弱の種族である人間に魂を洗わず転生させた。騙されたために亡くなったので、『真実の眼』というスキルまでつけた。これでシオンとフィオナが結ばれると良いなと思っていたが、オルティは知らなかった。神々では血の繋がった者と結婚することは珍しくなかったため、人は姉弟で結婚できないことを。それと魂を二つに割った際に、精霊姫から生まれ変わったフィオナに対する恋愛感情はシオンは少ししか受け継がれず『憧れ』に変わり、シーナは多く受け継ぎ『依存』になっていたことを。
「やっと会えるのね…。」
青髪のロングに抜群のプロポーションにまで成長した彼女。時期感情の神は今ではシンから『ミラ』という名前を頂き、正式に感情の女神となっていた。