きっかけ
グルンッ、グチャ!
アンがアレンに刺さったナイフを捻った。
「が、は!」
アレンは慌ててアンから距離をとる。
「な、んで、君、が?」
「ごめんなさい。元々私はこちら側なの。」
そう言ってアンは王の隣に立った。
「精霊なら聞いたことがあるだろう?精霊を狙う組織を。他の種族にもそうした組織がいるようだが、アンは人間の組織のメンバーなのだよ。」
その言葉にショックを受ける。部屋に入る前に見た未来の通りになってしまっていたからだ。
「流石にここまで深傷を負うと逃げられないだろう?大人しくしたまえ。」
(むー。あいつ、アレンって言うのね。)
エリナは、歌に全く興味のないアレンについて調べていた。理由は勿論リベンジするためだ。そこから、どんな歌にすれば良いのか路地裏を歩きながら考えていた。
(何が良いのかしら?)
思考に耽っていると、何かにぶつかった。そこには、血塗れのアレンがいた。
「き…。」
悲鳴をあげそうになったエリナの口を慌てて塞ぐ。
「いたぞ!こっちだ!」
「ちい!」
あの後、アレンは必死に逃げ出し、魔法で傷をある程度治している。しかし、グチャグチャになった内臓までは治せていない。しかも、出血が酷く、意識も朦朧としていた。そのため、路地裏に隠れながら逃げていたのだが、エリナの僅かな声で見つかってしまった。
(二十人か!数が多すぎる!)
囲まれてしまったため、アレンはエリナを守りながら戦っていた。
「こいつ、化け物か!」
「女の子を守りながら戦っているぞ!彼女を狙え!」
エリナの背後で剣が振り下ろされようとしていた。
「キャアーー!!」
そこをアレンが身を呈して守るが、背中を大きく切り裂かれた。
「あっ…あっ…。」
エリナは血を見てショックを受けているではない。それも多少あるが、自分のせいでアレンが致命傷を受けたと思っているからだ。アレンはそれに気づきエリナに語りかける。
「気にするなと言っても変にプライドの高いお前のことだ。どうせ気にするだろう。だから、課題を与える。お前にやってほしいことがある。歌のことはよくわからないが、上手いんだろ?お前の歌で戦争で疲弊した心を癒してやってほしい。ぐほっ!」
アレンが血を吐く。
「もう…、喋らないで…。」
しかし、出血のあまりアレンの目も耳も機能していなかった。
「わかっていると思うが、人間だけじゃないぞ?エルフや…ドワー…フといった…他種族…の心も…癒せよ?」
エリナは、王の目線で言うなら戦争を起こすために民衆を煽るための駒だった。彼女を殺し、他種族に殺されたと広めれば、多くの人間は戦争に賛同するだろう。しかし、王の息子はエリナに一目惚れをし、将来結婚したいと父に申し出た。そのため、生き長らえているのだが、エリナはそのことを知らない。
アレンは能力を使い、エリナの未来を見た。アレンは課題と言ったが、気にしすぎて声が出せなくなることと将来嫌々結婚させられるエリナを救うためにこう言っている。そうすれば、結婚させられる前に彼女は人々の心を癒す旅に出ることになる。それを能力で知ったからこそアレンは最後の力を振り絞って言っている。
(はは…、まさか、最後の最後で自分の力に向き合うことになるとはな。)
死を感じた時、アレンの能力がまた機能した。精霊姫やメンバーの一部が後を負う。母親が壊れていく。そんな未来が見えた。
(まだ…、死ねないのに…!せめて!)
そこでアレンは倒れた。倒れながら、魔法と血で紙に文字を書き、魔法でその手紙を精霊姫に向けて飛ばした。そして、アレンは動かなくなった。
「ねぇ…、寝てるだけなんでしょ!私の歌を聞いてたときみたいに…。ねぇったら!」
いくら揺すってもアレンは起きない。この時点でアレンはすでに亡くなっていた。