破壊と全知全能の兄妹
オルティは兄のソラリスにシンの決定を伝えに行っていた。ソラリスは神界とは別に自分だけの世界を創っている(ただし、神界に比べると規模はかなり小さい)。名前は魔界。この領域は並の神程度では入ることはできない結界が張られている。天使程度では、触れただけで死に至る。妹のオルティは実質フリーパスだった。
「…ということよ。」
「…お前は納得しているのか?」
ソラリスがオルティの目をじっと見る。アレンが亡くなってから会う機会がかなり減ったが、それでも兄妹。目を見れば嘘を言っているかお互いにわかってしまう。それを知っているため、正直に答えた。
「どんな決定でも関係ないわ。私は人と関わりさえしなければ、どうでもいいの。」
「…。」
「だから、もう人には手を出さないで。私は、それほど気にしていないから。」
これだけ聞くと決定したから手を出さないでという意味で捉えてしまうが、ソラリスは決定以前に関わりたくないから手を出さないでという意味を正確に理解した。
「残念だがこれは私怨だ。お前のためではない。」
それを聞いて項垂れる。
(やっぱり…ね。)
全知でわかっていたが、やはり説得は成功しなかった。そもそも説得する気もほとんどなかったが。それとオルティには言いたいことがあった。
「それとアレ…じゃなかったわね。シオンとフィオナに手を出さないでくれない?二人は…」
「前世が甥と精霊姫だろ?知っている。」
平然と答える。その答えに意外感が隠せなかった。
「だったら!どうして、殺そうとしたの!?ラヴァから聞いたわよ!本当に死ぬところだったみたいじゃない!」
ソラリスは表情を崩さない。
「その方が好都合だろう?二人が死んだ後魂を回収し、その魂を以前の体に入れてやればいい。体はもう造ってある。」
その言葉に驚く。神は自分の力に相反する力も多少使える。ソラリスの場合は破壊の反対である創造の力もシン程ではないが使えた。エリシアの『消去』もここからきている。オルティも創造の力が使えるが、精々ハムスターサイズが限界だった。
「そ、れは…」
「なあ、オルティ…。俺は…」
ソラリスはその言葉を続けることができなかった。心が揺れているのを感じたオルティは慌てて帰ってしまったからだ。
「…上手くいかないものだな。」
ソラリスは溜め息を吐いた。
(それとネズミを始末しておかないとな…。)
ソラリスは何か握るしぐさをすると一人の天使が爆発し消えた。残ったのは灰だけだ。
「そいつは、ラヴァの天使だったやつだ。掃除しておいてくれ。」
堕天使にそう命じ、自室に帰った。
(…!そう…、逝ってしまったのね。やっぱりもっと別の方法にするべきだったわね…。)
ラヴァはいち早く自分の天使が殺されたのを知り、後悔していた。元々潜り込んでいた天使が再三志願し、折れたせいだったのだが。
ラヴァはあの世に向かい始めた。亡くなった天使の魂を回収し、もう一度天使にするためだ。
(創造神様に使い魔を造ってもらおうかしら?)
ラヴァは歩きながら、次の策を考えていた。