明日もまた、生きていくために。
ゆっくりと目を開く。夕日は既に沈んでいて、今の格好では少々寒い。氷を溶かし、日傘をしまう。メアの姿は既に無い、恐らく家の中に戻ったのだろう。
見上げた月の光に照らされる。夜になったからか、体の調子はすこぶる良く、夜空を飛び回りたい気分になった。メニューから時間を確認すると、7時より5分程前。
そういえば、結局昼飯食べてない…。
まぁ最悪夜食代わりにしたらいいか、と思いながら、服を少し上にずらし、縮めていた羽を開放する。欠伸をする時に身体を伸ばすように、広げたくなったからだ。索敵してみても周囲に他の人気は感じなかった為、問題ないだろう。
羽でうまく調整しながら、ゆっくりと玄関の前に下降する。
そして扉を開けようとすると…扉がひとりでに開いた。…いや、中からティアが丁度、扉を開けたのだった。
ティア「あ、フィアお姉ちゃん!タイミングピッタリだね!…あ、ちょ、ちょっと待っててね!」
そう言うとドタドタと居間へ行き、フィアお姉ちゃん帰ってきたよ〜!とだけ叫ぶと、すぐに戻ってきた。
「…??えっと…?どうしたの?」
ティア「え、えへへ…さ、入って入って!」
ティアに腕を引かれ、廊下を進む。…なんだかとても、いい匂いがした。
普段なら横を歩くティアが扉を開けるだろうに、今日は何故か、扉を開けるよう促された。違和感を覚えながらもノブに手を掛けーー扉を開いた。
シア「フィアさん!おかえりなさい!!」
「「「「おかえり!」」」」
扉を開けた先に…あの時の最期のメンバー、海、ライ、リア、クロ、メア、そしてシアがいた。それぞれが持ったクラッカーが、パンパンパン!と紙吹雪を飛ばしながら鳴り響く。
部屋の中はリボンやら何やらで綺麗に飾り付けられていて、テーブルの上には凝ったたくさんの料理が並べられ、皿がいくつも積み上げられていた。
…メア、リア、ライの照れくさそうな小さな声も、全てちゃんと聞こえた。
「…これは…どうしたんだ?」
海「みんなで話し合ってたんだ、お前が起きたら何かしらしたいって」
ライ「まぁ、そういうわけだ」
それで…パーティ、か…。その発想の源は恐らく…少女達の幼さからなのだろう。それに付き合って手伝ってくれたらしい友人達の優しさも、空いた胸の穴へと届いた。
リア「三日ぐらい前からずっと準備してたんだから…メアが変なところで拘るから余計疲れた」
メア「う、ぁ…う、るさいわね!やるっていうなら完璧なものにしたいじゃない!」
先程の夢のことを引きずっているのか、赤みを帯びた頬に、何も知らないリアは小さく微笑んだ。
シア「…フィアさん?」
ポツンと立ち尽くし、やがて下を向いたフィアに不安を覚えたのか、シアが覗き込んでくる。後ろにいたティアも雰囲気を感じ取ったのか、後ろから回り込んで来た。
…枯れた筈の涙の存在が、彼の心を表していた。…痛かった。穴を塞がれていく感覚は…居心地の良さを含んでいたが、同時に気持ちが悪くなりそうにもなった。
心に空いた穴は、彼の心の風通しを良くし、彼を生きやすくさせていた。突き刺さる筈の言葉の槍達が、穴から通り抜け刺さりづらくなっていた。
…明日も良いことはないだろう。それでも…そういうもんだろ?人生は、世界は…。
そう言い聞かせていたのに…、そんなことはない、そう今、証明されてしまった。
メア「あ、治ってる」
「ああ、治った」
本に心を渡して弱っていた心が、元の…いや、それ以上のモノへと変わった。
心がそうなった瞬間に、メアがそう呟いた。そしてそれに反射的に、フィアも小さな声で答えた。
誰にも気づかれないように自然に涙を拭う。涙に気づいた2人が心配そうに見上げていたが、フィアは2人の髪の毛をくしゃくしゃにするように撫で、顔を上げた。
「…ありがとう。…今なら…死んでもいい」
心からの、最上の本心をそう告げた。
クロ「…主が言うと、冗談に聞こえない」
思わぬ所からのツッコミに吹き出したのはリアとライで、それにつられて海、フィアも笑みをこぼした。
メア「…あら、残念ね」
メアの言葉に?を浮かべながら彼女の方を向くと、もはや吹っ切れた、とでも言った様子でドヤ顔で語り出す。
メア「この先は、もっとわたしが」
シア・ティア「私が幸せにしてみせます(してみせるんだから)!」
楽しませて…まで聞き取れたが、それを言わせてなるものか、とシアとティアがメアの言葉の間に割り込んだ。割り込まれたことに目を見開くと、メアは拗ねたように溜息をつき、やがて妹の成長を見た姉の様に、小さく微笑んだ。
ライ「モテモテだなぁおい」
遠目からライがそう茶化す。
海「…クロは行かなくていいのか?」
クロ「…クロはもう、伝えたから」
わぁお…と口を開けた海と、やれやれ…と首を振るライ。リアは聞こえない振りに入っていた。
…それは男のセリフなんじゃ…。
プロポーズに近いその言葉を告げられ、言葉を失った。
「信じて」そう自信満々な瞳が語っていた。
ふとメアと目が合う。照れた様子で頬をかく彼女に、口の動きだけで、「聞こえた」と告げる。以心伝心したのか、メアは穏やかで優しい笑みを見せた。
そして更にチラリと目線を動かすと、クロと目が合った。クロは3人の言葉を聞きつつも、何も語らず胸に手を当て、やがて静かに微笑むと、小さく手を振った。
「…約束する。この世界で……俺はまだ、生きていく。だから…ずっといっしょにいてくれ」
満面の笑顔で頷いたティアと、安心した様に笑みを浮かべたシアを抱き締めた。
…今日は、忘れられない1日になる。だから…目一杯楽しもう。
明日もまた、生きていくために。
ここまで読んで下さりありがとうございました。一応今回で最終回となります。(続くとしたら7.8年後)次回作の予定はありますが、もう少し修行してから始めたいと思っているので、一年は少なくとも帰ってこないと思います。
そして、後書き+おまけという形で少し予定があります。しかし、設定やら今後どうしていく予定だったとか、そういう話でして、世界観を著しく崩す恐れがあるため…あまりお勧めしません。
今作を通しての感想等あれば宜しくお願いします。
ここまで読んで下さってありがとうございました!




