dream world of tia
ティア「お姉ちゃん!おはよー!!」
カーテンを思いっきりめくられ、朝日が部屋に差し込む。降り注ぐ朝日が憂鬱で、光から逃れるように頭から布団を被る。
「まだ…ねむいんだけど」
普段なら、それでも起きなきゃな…となんとか起きるところだが…今日は何故か、そんな気分じゃなかった。
ティア「もう!しょうがないなぁ…。起きないならーー」
ティアが何かを言っていたが、それを最後まで聞くことさえ出来ず…睡眠欲にされるがままになっていた。そしてそのまま眠りにつこうとしたところで、ゴソゴソと…何かがフィアの足に、次いで腰に触れ、のしかかってきた。一体何事かとなんとか重い瞼を開き、腹の上に乗ったそれを見る。…そして彼女と、目が合った。
ティア「…えへへ」
布団の中に入り込んできたのは勿論、ティアだった。不意に目が合い顔を赤くした彼女の顔を眺め、パチクリと瞬きを数回した後、今ある自分の状況をようやく認識した。
「抱きごこちの良さそうないい抱き枕があるな…」
寝ぼけたふりを決め込んで、乗っていたティアを腕の中に閉じ込めた。スラリとした小さな体はぴったり丁度、腕の中に収まった。
ティア「抱き枕じゃないのに…も、もう…ちょっとだけだからね」
そう言いつつ、気分良さげにえへへとティアが笑顔になっていたのを見て、フィア懐かしくも、何故か悲しい思いを感じていた。
ティアの頭を撫でながら、起きもせず、眠りもしないでのんびりしていた。ただ、微妙に残った眠気に揺らされて、腕の中にある愛らしい少女とずっとこうしていたくて、流れる時間を忘れて、何か大事なことも忘れて……何時までそうしていたのだろうか。
ティア「ねぇ、フィアお姉ちゃん」
「ん〜?」
ティア「…ずっと、こうしてていい?」
「…ああ。俺も…ずっとこうしてたいよ」
フィアの答えに、以前のような、闇の無い、水を得て喜ぶ花のような笑みをティアが浮かべた。それと同時に…フィアの視界が徐々に黒く染まっていく。それが、瞼を閉じようとしているからだと気づく頃には…既に彼女は、夢の中で夢を見ることになっていたのだろう。
…彼女が来なかったのなら。
??「待ちなさい!!」
声が世界に響き渡る。携帯電話のアラームのような、大した音量でなくても反射的に飛び起きてしまう声に、視界は再び光を取り戻した。
ティア「…メア。やっぱり入ってこれるんだ」
布団から立ち上がり、フィアからは見えないように顔を背けてメアを睨みつけた。
メア「当たり前よ!私を誰だと思ってるのよ!」
何処からともなく入ってきた霧が一箇所に集まり、やがてそれらはメアの姿を取った。
メア「フィア!思い出しなさい!!貴方は今何処で何をしてるの!本当にずっと寝てていいの!?貴方は…貴方の名前はーー」
ティア「邪魔しないでよ!!!」
ティアが言葉を遮ると同時に、部屋の窓が割れ、壁が吹き飛び、部屋の外、壁が剥がれて見えるようになった空間にあるブラックホールが、家具やら何やらを吸い込んでいく。そしてメアも…なんとか抗おうとしていたが、その強大な力に吸い込まれようとしていた。
メアの告げた言葉が頭に響く。
「俺は…何処にいるんだ?ここは何処なんだ?俺の部屋じゃないのか…?ずっと寝てちゃ駄目なのか?何か、やらなきゃいけないことがあったのか?…俺は、俺の名前は…」
ティア「止めて!お姉ちゃん、ずっとここに居よう!?私と、二人でずっと…」
メア「フィア!思い出して!!!じゃないとみんながーー」
ついにメアも、言葉を伝えきること叶わないまま、ブラックホールの中へ吸い込まれてしまった。メアを吸い込み満足したのか、ブラックホールは閉じられ、吸い込まれた家具達も、部屋に霧が立ち込めやがて、何事もなかったかのように元通りになっていた。
ティア「…ごめんねお姉ちゃん。一回、目を閉じてくれない?」
上半身を起こしたフィアの上に乗り、背中に腕を回し目を合わせようと上目遣いで見上げる。
「…どうして?」
ティア「いいから」
「…解った」
何故か逆らう気になれず…いや、深く考えることができず、理由を聞かないでも瞳を閉じてしまう。
……あれ?そういえば…私はいつから《俺》なんて一人称に…?
一つを思い出せば、全てを一気に思い出すことがある。今回は当にそれだった。
閉じていた瞳を急いで開く。伸びてきていたティアの腕を弾き、ベッドから起きてティアから距離をとる。
a「…思い出したよ、ティア」
覚醒したからか、姿もフィアの物からaの物へと戻っていた。
ティア「もう…いや。どうして?ずっと、一緒に居てくれるんじゃないの?私のこと、やっぱり嫌いなんだ」
a「そんなこと…言わないで」
ティア「もうやだよ、なんで?やっと、私だけの世界を作れる力が手に入ったのに…邪魔しないでよ。夢を見るのも駄目なの?」
頭を抱えてベッドの上で蹲り、自分の世界に閉じこもるように、耳を塞ぎ目を閉じながら、ブツブツと呟くように言葉をただ吐き出していた。
ティア「もういや、もういや、もういや、つらいよ、つらいよ、くるしいよ、やめてよ、やめてよ、ずっと寝てたいよ、死にたいよ…殺してよ」
「やめてくれ!!」
あまりに聞くに堪えない、辛さを訴えた言葉達に、気がつくと叫びを上げていた。
すると何かに呼応したのか、先程のブラックホールが再び姿を現した。今度は壁だけでなく、全てを飲み込もうと猛威を振るっている。
ーー世界が、吸い込まれていく。先程のように小さな家具達が吸い込まれていくのではなく、“部屋”が、空間そのものが、渦を巻くようにしながら吸い込まれていった。
酔いそうになるその空間に居るのは、閉じこもるように蹲った少女と、悲愴に当てられ、目元を手で覆い隠し項垂れる彼。
良く似た目をした二人が、再び眠りに落ちていく。
世界は再び暗転した。
ーー無駄だよ、お姉ちゃんは絶対起きられない。だってもう、深いところまで来ちゃってるもん。浅い時になんとかしないと、どんなことが外で起きたって、この夢からは出られないんだよ。




