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【エリア・ゼロ】


血の付いた氷の剣が手元に帰ってくる。

その血を見つめる。…彼女が初めて奪った、命だったその血は、何故だか妙に、心を落ち着かせる。一振りするとそれは、溶けていた表面の氷と共に飛沫となって飛び散った。その二振りの剣を一つに重ね合わせ、僅かに魔力を込め、強固な物へと仕上げる。

木島「…あれを壊す気か?…俺が、それを許すとでも?」

a「…貴方如きが、私に勝てるとでも?」

木島に振り向き笑顔でそう返すと、やれやれ…、と木島はお手上げだ、とでもいうような仕草と苦笑いで返事をした。

木島「知ってるっつの。…手助けはしないからな」

a「…ありがとうございます」

木島「勘違いすんな。どうせ止められはしない、勝ち目のない戦いはしない主義なだけだ」

…再び、隕石を見上げる。

a「ーーまたいつか。今度会うときは、互いに笑顔で」

木島「…ああ、そうだな」

木島がくれたコートをストレージへとしまう。そして、助走をつけて躊躇いもなく屋根から飛び降りると、地面が急接近してくるような錯覚に襲われる。しかし地面とぶつかることなどなく、すぐさま彼女は大きく翼を羽ばたかせた。

一瞬、示し合わせたかのように海と目があった。驚き目を見開く海に笑顔を向け、aは隕石の元へと音速で飛び立った。


隕石の真下、海達の学校へと舞い戻るのに、1分も掛からなかった。

辺りを眺めると、人々は皆、既にどこかへと移動したようだ。家族に会いに行ったか、生き延びようともがくことを決意したのか…最早、彼女にとってはそんなこと、どうでもいいことだった。

隕石の丁度真ん中付近の高さの所に浮かび上がる。大気圏があるのかどうか、あるとしてそれを越えてきて、どうしてこれだけ速度が遅いのか、等不明なことはいっぱいだが、そんなことを考え出しても意味はない。

時計が象徴のとある街に、人面を持った月が、三日かけて徐々に徐々に落ちてきていた時のような、そんな状況。

その隕石から5m程離れた地点にて、aは切り札の詠唱を始めた。


海「何があったんだ」

ようやく抜け出して来れたのだろう、そう木島に声を掛けると、キョロキョロと、いないであろうaを一応確認していたが、やがて溜息をついた。

木島「隕石を止めに行くんだとさ。あれだけ汚い人間を見ても…。なんでだと思う?」

どれほどの理解関係なのか、探るように木島が尋ねたが、彼が思っていた答えは返ってこなかった。

海「そんなの知るか。……どんな理由であれ…それが間違ったことなら止める。正しいことなら、それがどれだけ危険なことであったとしても、俺は手伝いに行かなきゃならない」

木島「…しなきゃならないって、義務みたいだな」

…ただの言葉のあやかも知れないが、妙に引っかかりを覚えた。

海「ーーもし、正しいことなのに助けなかったら、そんなのは俺じゃないんだよ。俺は俺であるために、例えどんな姿になっても、あいつと親友である為に、戦うんだ」

…何でaが警官を殺したんだと思う?お前に任せておけばよかったのに。

姿を消せるから?…違うね。人を殺した、という歴史(つみ)をお前に負わせたくなかったんだよ。天使でありながら人を殺した、その汚名を、あいつは被ることにしたんだ。

……気づいているのだろうか?いや…いいか。多分それが、こいつらの関係なんだろう。

…俺は友人には、やりたいと望んだことはやらせてやりたい。例えそれで、未来永劫別れることになろうとも。


飛んで行った海の方向を見つめる。自分はこれでいいのか、と。あいつの方が正しいんじゃないか、と…。

……木島は溜息と共にかぶりを振ると、2人とは真逆の空へと飛び立った。


海「…すげぇ魔力だ。…っと」

炎魔力の爆発力によって、隕石のすぐ近くへと到着した。

ブレーキ代わりに前方を一瞬爆発させると、上手いこと勢いを抑えることができた為、体育館の上に着地した。巨大な魔力を頼りに、細かな位置を予測し、そこから少し横にずれてから、水の柱でaの隣に移動する。


a「来たんですか、武川さん」

集中し、右手を軸として魔力を身体中に集めながら、ちらりと海の方へ視線を移す。

右手を胸の前に起き、詠唱に集中するために瞳を閉じる。魔力を貯めやすいイメージとしてaはその格好をデフォルトにしている。

海「ああ。…俺も手伝う。なんか力になれるなら言ってくれ」

a「助かります。…私が氷であれをなんとか止めるので、なるべく大きな水柱を立てて貰えますか?それを軸にしますので」

…止める方法として、まず、ぶつかった時の衝撃をなんとか消さなきゃならない。水の魔法で押し返す…なんてことは出来ないだろう。なら、勢いをなるべく減らしつつゆっくりと受け止めるのが一番だと思う。そして…ただ水で受け止めるだけでは明らかに力が足りないし、勢いを弱めたところで、地面はもろく、地震や地割れを起こすかもしれない。

なら…地面を頑丈にしたらいい。直接接させなければいい。受け止めるのではなくくっつければいい。軸にする、というのはそういうことだ。


海の詠唱が完了し、地面から体育館を突き抜けて水柱が聳え立つ。それは半径5m程の綺麗な円錐状で、隕石にぶつかる。しかし、勢いはやはり収まらない。…それどころか、何故か加速したような気さえする。

海「…どうなってる?」

a「…解りません」

いったいどうなってるのか、2人は疑問から見合ったが、答えは二人には見出せない。

a「…兎に角、ありがとうございました。…今からやるのは、私でも制御できない魔法なんです。ですから、少なくとも10mは離れてください」

海「あ、ああ…。離れながら維持するのは少し難しいけど、なんとか水柱はそのままにしとくから。…頑張れよ」

a「…ありがとうございました」

いままで。

心の中でそう付け加え、aは一番の笑みを浮かべた。

海「ん。じゃあまた後でな」

海はそのまま振り返らずにその場を後にした。


……そろそろいいかな。

瞳を閉じて、思うがままに、言葉を綴る。思いの丈を、紙に筆を走らせるように。


ーー世界を、私だけのものに。

ここは私1人の世界、誰一人の介入も許さない。嫌いな人、耳障りな音ーー目を逸らしたいもの、すべてを凍らせ、ただの氷像と化させる。

ーーここは私の箱の中、ただ1人、消えていくのに相応しい世界。


「全身全霊の、力を…。思いを…。もういっかい!」

aを中心として、冷気の一波が辺りを包み込む。それに触れた水柱、体育館、地面、そして隕石、あらゆる物が、一瞬、動きを止めた。それはまるで、時が止まったようである。

「…前とは違う気がするけど、いっか。こっちは…私の力だ」

わくわく、と胸を躍らせ目を輝かせる。ーーまるで、楽しみ、とでも言うかのように。

胸の前に置かれていた右手を前に出し、そっと開く。一つの氷の結晶(ダイヤモンドダスト)が、右手に浮かび上がる。それを両手でそっと引き寄せ、胸の中へと。胸の中にすっとそれが入ると、再び冷気の波が周囲を襲った。そして世界は…完全に別世界と化した。


ここは【エリア・ゼロ】

絶対零度の、全てを寄せ付けない、彼女だけの世界。

冷気の波に襲われた全ての物が、ただの氷像と化し、隕石も、完全にその場で停止した。


総合評価ポイント300p越えありがとうございます。

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