手紙
手紙を一読し、さらに念のために始めから読み直す。
そして、HMとの紋章が張られた封を再び指でなぞる。
「……国王陛下も、やっかいな出来事を」
「さて、私は手紙をあなたに渡す役目だったので、これにて失礼をさせていただきたい。あ、一応、聞かせてもらいたいのだが、陛下に対しては、どのように奉じればいいのかな」
「臣下として、全身全霊をかけ、この任務を全うすると」
私は気を入れて、マッケンドに答えた。
どうせ、それしか答える気がなかったのかもしれないが、それは、もうどうでもいいことだ。
「分かった。では陛下にはそう奉じよう」
彼が答え、冷えてしまった紅茶にミルクを今更入れて、カップの取っ手をつまみ上げるようにして一気に飲み干した。
「ふむ、さすがにミッデジアン卿は、いい茶葉を使っている」
「当たり前だろう。紅茶は、命の源とも言える。それに粗悪品を使うわけがない」
「なるほど。それでは、失礼しよう」
「ああ、見送らせるよ」
私は彼にそう告げて、壁際の紐を引っ張り、執事を呼んでから、彼を見送らせた。
彼が部屋からいなくなると、すぐにどうすべきかを悩む。
陛下からの手紙を要約すると、リーバラッグ侯爵家において、不審な点が見られるから、それについて調査をしてほしいということだ。
リーバラッグ侯爵というのは、連邦ができてから新設された、最も新しい世襲爵位である。
今はなきロンドンシティ一帯を治めるために作られた。
ゆえに、昔のロンドンシティ全域がそのままリーバラッグ侯爵領となる。
その内部にある王室領を始めとする爵位領は、すべてリーバラッグ侯爵領へ統合された。
その仕事は、旧ロンドンの超高濃度汚染区域の統治、検察権、司法権の専属である。
超高濃度汚染物質が外に出ないようにし、内部の人間の、ひいては外部の人類の保健事業も執り行う権限がある。
問題は、リーバラッグ侯爵という名前のみしか知られておらず、どこのだれで、本名は何なのかも、誰も知らないのだ。
ただし、ヒントとなるのはある。
それは、リーバラッグ侯爵は、もともとラグストンシャー伯爵であったということだ。
今は侯爵の子供が伯爵位を継いでいるという。
そのあたりから調べてみようかと思い、まずは、ロンドンで生き残っている貴重な組織である紋章院へ出向いてみることにした。
「お客様がお帰りになられました」
底まで考えたころ、執事が帰ってきた。
「ご苦労さま。急で悪いが、これから行かなければならないことになった」
「どちらへ行かれるのでしょうか」
「旧ロンドンだ」
「左様でございますか」
紅茶を片付けながら、執事がいう。
「でしたら、現地の司令官に許可がいりますね」
執事が簡単に述べるが、それは一般人に対しての話である。
「私は個人総局だ。許可は現地で取れる」
そう言って、私は座っていた椅子から立ち上がった。