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パイ
「では、一切れ」
私がその焼きあがったばかりのような、湯気すら見えそうに感じるパイを一切れ皿に移してもらい、まずは香りを楽しむ。
「セージ、それにオリーブオイル。ああ、他にもいくつかの香辛料を使っていますね」
「ええ、その通りです」
侯爵が私に話しかけてくる。
一つはっきりしているのは、古来のしきたりを大切にしているということだ。
それも、かなり固執しているということができるのかもしれない。
私が知っている範囲では、ここまでしっかりと守っているのはほんの2人か3人ほどだ。
「では、一口」
サクッと、香りがはじける。
ウサギパイと思っていたが、どうも味としては牛か豚を使っているようだ。
どちらともアレルギーはないが、なにか妙な気分になる。
もしかしたら、うさぎをしらないのではないかということだ。
「いかがでしょうか、我が家のパイは」
「ええ、とてもおいしいです」
それは事実だ。
ここの料理人は腕がいい、引き抜いていきたいぐらいだ。
「ところで、何の肉を使っているのでしょうか」
「さて、何の肉かは聞いておりませんでしたね」
料理人に任せておりますので、と侯爵は逃げた。




