[天命]イヤホンジャック
イヤホン付けっ放しの奴っているじゃん?
店だろうが、誰かと話してようが、ずーっと付けっ放しの奴。
俺もちょっと前までそうだったんだよ。
まあだから何って話でもないんだが、ちょっと面白い話があるんだよ。
聞かないかい?え?聞かない?
んな事いうなよー!ちょっとした世間話なんだから、さ。
……ごほん。
それでなんで付けっ放しかっていうとだな、声が聞こえるんだよ。
……ああいや、歌声だとか、ラジオの声とかじゃない。
そのまんま、話し声だ。
語りかけて来る、な。
あ、怪しんでるな。
というか俺の精神状態を疑ってるな?
わかるわかる。
その気持ちはよーくわかる。
ま、別にそう思われてもいいんだ。誰かに話したいだけだから。
最後まで付き合ってくれよ。
それで、そう。声だな。
これは俺の場合になるけど、ちょっと前から気になってたラーメン屋に行こうとしたんだが、どうにも奥まった所にあってな。
有り体に言って、迷ったわけだ。
仕方ねー引き返すか、と思った瞬間、イヤホンから音楽が途切れて、声が聞こえたんだよ。
『そこ、左です』ってな。
そりゃあびびったさ!
声も上げた!
その声が言うには、自分は神の使いで、俺は選ばれたから何かと優遇しましょう、みたいな、まあ、そんな感じだ。
正直、うさんくさかった。
……んだけど、どうせ迷ってるなら従ってみてもいいか、近くにはきてるはずなんだ、と思ってな。
その声が言うとおりにふたつみっつ角を曲がったのさ。
するとそこに!
あったのさ!お目当てのラーメン屋が!
あ、大したことないって思ったな?
んなもん携帯の地図でいいだろって?
甘いな。これからなんだよ。
それから俺は声の言う通りに過ごした。
宝くじも当たったし、彼女もできた。
テストは予め範囲を知ってたし、もうやりたい放題さ。
どこどこに行きたい、と言えば、
『そのまままっすぐ……ここ右です。
通行人に気をつけて』
みたいな具合に、ナビゲートしてくれんだ。
便利だろう?
……でもな。
ある夜、コンビニに行ったんだ。
その途中で、イヤホンがずり落ちた。
まあ、拾うよな。
拾うために俺は屈んだ。
すると、俺の頭すれすれをトラックが通ったんだ。
髪の毛が数本持っていかれた。
俺はそのままで固まったね。
イヤホンを耳にはめる直前で。
すると、聞こえてくんだよ。
『しくじった!』
って。
……ま、それ以降、俺はイヤホンを付けてない、いや、付けられないんだ。
だって、いつ殺されるかわかったもんじゃねぇもんな。
あの声はなんだったんだろうな。
神の使いってのは嘘で、悪魔だったかもしれないし、妖怪みてぇなもんかもしれない。
……でも、俺は案外そこは本当かも、って思うんだ。
ほら、俺はあんまりイイコじゃなかったからさ。
まー、社会的に見て、有益だったとは思えない。
そんな人間にいちいち世話を焼くか?
俺はそんなことしないね。
だからこう思ったんだ。
カミサマは、要らない人間を間引いてるんじゃないか、ってな。
ほら、生贄は、殺す前に美味しい目に合わせてやるものだろう?
……最近、不自然な事故多いよな。
まあ遭わないに越したこたあないが、もし見かけたら、そいつがイヤホンしてるかどうか、確認してみろよ。
そんだけだ。
聞いてくれてありがとよ。