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スラム街の宿屋

 薄暗い牢部屋の中が一瞬、目映い白光で包まれた。銀髪の少年は人の姿から本来の蛇の姿へと身を変える。五メートルほどのしなやかな蛇の身体はあっさりと拘束を逃れた。そのまま鎌首をもたげながら這い進み、貴族の青年の傍に寄ると、鋭い尾の先で縄を断ち切り、足枷も一息に一刀両断してみせた。

 自由になったアレハンドロの横で、ミズガルズは再び人の姿をとった。そうして複雑な表情を作ると、無言のまま床に横たわった少女を見た。血だまりのなかに沈む名も知らぬ少女の目は閉じていて、まるで眠っているかのようだった。自分がもう少し早く目を覚ましていれば彼女が命を散らすことは無かったのではないだろうか。そう思うと、ミズガルズはずっと眠りこけていた自分自身に呆れ、憤りすら感じた。

 出来ることなら、死の運命に囚われた彼女にもう一度生命を与えたい。ミズガルズはそんなことを思った。けれど、どうすれば良いのだろうか。膨大な力を手に入れた今、決して無謀なことでは無いと思うのだが……。


「もしかしたら……いけるかもしれない……」


「へ? いけるって何がさ?」


「この子を助けられるかもしれないってことだよ」


 言うが早いが、ミズガルズは少女の傍に跪いた。赤黒い血で銀色の服が汚れるが、それも気にしない。目を瞬かせながらアレハンドロはミズガルズを見守る。蛇神が何をするつもりなのか全く分からず、青年は口を挟まずに様子を見ることぐらいしか出来なかった。

 アレハンドロには目もくれず、ミズガルズは少女の首筋に手を当てた。脈拍が完全に無いことを確認すると、自らを落ち着かせるべく深呼吸をした。それから口を開き、鋭利な毒牙を剥き出しにすると、そのまま少女の二の腕の辺りに深々と突き刺した。今まで黙っていたアレハンドロが小さく悲鳴を上げた。それを無視してミズガルズは赤毛の少女に集中した。獲物や敵に毒を注ぐのと同じ要領で、少女の体に有り余る魔力をエネルギーに置換して送り込む。以前のミズガルズには出来なかった芸当だった。それはまさしく、神の御技だった。


「凄い……。ボクは夢でも見ているのか……?」


 アレハンドロが呟いた直後、少女から微かな呻き声が漏れた。痛々しかった傷は塞がり、可憐な頬には血の気が戻っている。もう十分だと感じたのか、ミズガルズも牙を抜き、少女から少し離れた。それから二、三分も経たないうちに彼女は苦しげながらも血溜まりから起き上がってみせた。一度は命を落としたが、死の運命から呼び戻されたのである。血に濡れ、裸に剥かれた自身の身体を見つめながら、「信じられない……」と彼女は呟いた。それから周囲を見渡し、ミズガルズとアレハンドロの存在に気付いたようだ。


「あの、私、死んだはずなんだけど……。ここって死後の世界なの?」


「いいや、違うよ。君は生きてる」


 首を曲げる少女に対し、笑顔で返したミズガルズ。しかし少女はますます混乱を深めたようで、眉間に皺を寄せた。怖がらせないようにゆっくりと説明するしかないか。ミズガルズがそう思った時だった、扉が鈍い音を立てて開いたのは。



 反射的にミズガルズは振り返った。釣られるようにして、アレハンドロもよく分からないファイティングポーズをとった。正直ださい上に、全く意味の無さそうなものだったが。そして、赤毛の少女はビクッと身体を震わせて、小部屋の奥の方へと逃げた。そこに間を開けず入って来たのは若い男。日に焼けた、性格の悪そうな顔。そして後ろに撫で付けられた黒い髪。紛れもない、ミズガルズとヘレナを宿屋に連れ込み、ここまで拉致した男だった。その後ろからはにやけた顔が不快な、肥満体の大男が現れた。さらに、そいつは赤毛の少女とは別の少女を引き連れていた。栗色の毛髪に、黒縁の丸眼鏡……ヘレナ・カーソンだ。


「あーあーあー、何で殺しちゃったのかなぁ! ふざけんなよ、グーディ! 大事な商品だったってのによ……って、あれえ!? なんだ、生きてるじゃねぇかよ!」


 若い男が苛立った声を上げ、それから一変して素っ頓狂な大声を上げた。途中まで非難されていた大男はやはりニヤニヤ笑いながら、さも可笑しそうに言った。


「あ、あれ、あれれれえ? 変だなあ、確かに殺したのに。なんで生きてんだあ? ま、まあ、でも良かったじゃん、結局死んでないしさ。それにほら……商品なら、まだ残ってるし」


 うひうひと笑う大男に対して、若い男は思い切り顔をしかめた。彼は大男を刃物のように鋭い視線で射抜き、強く怒鳴り付けた。


「何言ってやがる! 大事な商品を殺しちまったとかほざきやがった上に、嘘まで吐きやがって! てめーの馬鹿さにはいい加減うんざりだ! 余計な仕事ばっか増やすんじゃねぇ!」


 そこに至って初めて、若い男は二人の商品が拘束から逃れていることに気付いた。太った大男も同様らしかった。彼らは驚愕の表情から憤怒の表情へと変わる。服の内側からナイフを取り出して、ミズガルズに向かってやって来る。


「それはそうとだな、てめーら、どうやって枷を外しやが……あがあっ!?」


 人間の目では視認出来ないほどの速さで若い男の懐に踏み込んだミズガルズはそのまま身体を捻り、鳩尾に鋭い蹴りを食らわせた。崩れかけた男の髪を鷲掴みにして、拘束されていた怒りをぶつけるように膝蹴りを何度も入れる。そして手を離すと、血塗れの顔を容赦無く思い切り拳で殴り飛ばした。


「助けてくれっ、ミズガルズ!」


 もはや嗚咽しか漏らせない若い男を地面に投げ捨て、ミズガルズは青年が叫んだ方向へと顔を向けた。そこでは醜い巨漢がヘレナを放ってアレハンドロにのし掛かり、首を絞めようとしていた。体格の差か、それとも体重の差か。どちらにせよ、アレハンドロは窮地に立たされていて、一刻の猶予も無かった。

 ミズガルズはそれを見て素早く行動を起こす。駆け出すと同時に右手に膨大な魔力を集めた。掌には強烈な冷気が渦巻き、白い霜で覆われる。炎竜イグニスが全てを焼き尽くす炎を操るのならば、蛇神ミズガルズが纏うのは全てを凍てつかせる絶対零度の氷だ。


「いっ、ぎゃあああああああああああああああああ!!」


 耳を塞ぎたくなる大男の悲鳴が響き渡った。彼はアレハンドロから飛び退き、わけの分からぬことを叫びながら、ごろごろと転がり回る。大きな背中の一部から白い煙が立ち上っていた。ミズガルズに超低温を宿した掌を強く押し付けられたのだ。恐らく患部は酷い凍傷になっているだろう。

 ミズガルズは大男を完全に無視し、咳き込んでいるアレハンドロの腕を掴んで立たせた。目尻に涙を浮かべた彼は少し苦しそうにしていたが、命に別状は無いようだ。それから怯えた様子で立ちすくんでいたヘレナと赤毛の少女を近くに呼ぶ。二人の少女は覚束無い足取りながらも、蛇神のもとまでよろよろと歩み寄った。


「ヘレナ! 本当にごめん! 大丈夫だったか? 何もされてないよな?」


「あ、は、はい! 私は大丈夫です。何もされてないです。い、今は早く逃げましょう!」


 言われずともそうするつもりだ。そう返して、そのまま薄暗い牢の中から立ち去ろうとした四人の前に奴隷商の男が立ちはだかって道を塞いだ。大振りのナイフを握り締め、殺意を露にしながら睨み付けてくる男を見て、ミズガルズの瞳孔がすっと細くなる。奴隷商は強い怒りのために気付いていないらしいが、その細められた赤い瞳は敵を殺す予兆だ。言わば魔物としての本性が現れた証と言っても良い。


(ヘレナはこいつらに殺されそうになった。赤毛の子は実際に一度殺された。こいつらは死んで当然だ)


 瞬く間に空間が冷却され始める。刺すような冷気が漂い、奴隷商の男の肌を容赦無く嬲る。彼が生物としての本能で生命の危機を感じ、ジリジリと後退を始めた時、事態は起こった。



 開け放しになっていた扉の向こう側から何人もの人間が飛び込んで来たのだ。青銅色の鎧に身を包んだ兵士たちのようで、素早い動きで奴隷商の男を捕らえて倒し、地面に組み伏せた。男は突然の出来事に全く対応出来ずに、わけが分からないとでも言いたげな顔のまま放心していた。グーディという名の大男は未だに痛みで苦しみ、ゴロゴロと転げまわっている。

 わけが分からないのは囚われていた四人も同じだった。前触れ無く姿を見せた兵士たちを前にして、思わず一歩下がり、警戒を示す。


「これはなかなか……強い魔力の持ち主だな。素晴らしい」


 兵士たちの奥から静かに現れたのは一人の騎士。金色の鎧を身につけているが、顔は剥き出しだ。深い緑色の長髪が印象的な、気の強そうな女である。彼女は口元に薄い笑みを貼り付かせたまま、牢の中をゆっくりと見回した。そしてミズガルズたちに視線を合わせると、胸に手を当てて、軽い自己紹介を始めた。


「私はエルタラの衛兵隊の副隊長を務める帝国騎士の一人、ミネルバ・セルフォード。……とりあえず、君らには初めましてとでも言っておこう」



◇◇◇◇◇



 太陽がぎらぎらと照り付ける昼間、スラム街は騒然としていた。予告無しに行われた、帝都衛兵隊による地下の一斉摘発で三、四十人に及ぶ大きな人身売買組織の構成員が拘束された。その中にはミズガルズを拉致した若い奴隷商とグーディと言う名の大男も含まれていた。彼らのほとんどは今後十年程、あるいはそれ以上、牢獄に繋がれる。


 変化の望めない日々に退屈したスラム街の人々が野次馬となって、地区の一角に設けられた帝都衛兵隊の詰所を囲む。警備に立たされた若い兵士たちが貧民たちを押し戻すのに必死になっている間、堅固な建物の内側ではとある会話が行われていた。


「……まずは感謝する。あの奴隷商どもと交戦する手間を省いてくれた。それに君が救った赤毛の少女は帝都の大商人の一人娘でな、以前から捜索願が出されていたんだ。助けてくれて、本当に有難う。彼女が亡くなっていたら厄介なことになっていた」


「それはどうも……」


 油断ならない鋭い目付きで礼を言う女はミネルバ・セルフォード。深い緑色の髪と同色の瞳が特徴的な若い女だ。まだ二十歳台前半だが、エルタラを守る帝都衛兵隊の副隊長に収まった人物でもある。

 彼女の向かい側には白銀の長髪と真っ赤な瞳をした少年……ミズガルズが座っていた。感謝の言葉を受けるも、その表情はどこか冴えず、渋い面持ちを隠そうとしていない。彼は好きでこの場にいるわけでもないのだから、それも当たり前だった。ミネルバが言うには、彼女はミズガルズの膨大な魔力に魅せられたようで、少年に高い能力が備わっていると確信したらしい。その上で、衣食住と報酬、それに地位を保証するから、自らの部下の一人となって働いてくれないかと蛇神を誘ったのだ。喜び勇むミネルバは相手が古から語り継がれるほどの魔物だとはこれっぽっちも思っていない。

 彼女の誘いにミズガルズは乗るつもりなどなかった。まず、彼には誰かの下に付こうという気など初めから有りはしない。そもそも、大切な目的もあった。仲間たちのもとに戻り、そしてバルタニア王国に入ってもう一度エルシリアに再会すること。特に後者は例え一人きりでも果たす決意でいた。エルシリアはこの世界で初めて出会い、そして最も強く惹かれた人間だから。

 そういうわけで寄り道している暇など無いというのも理由の一つだったが、ミズガルズの態度を硬化させる原因はそれだけではなかった。この短い時間の中で、ミネルバの強気で傲慢とさえ言える性格が幾度も垣間見えてしまったせいでもあった。


「今、帝国お抱えの衛兵団は人手が足りなくてな。有望な人材が育たないから困っている。そこに私が君のような逸材を入隊させたら、どうなるだろうか?」


 そしてミネルバは野心を秘めたぎらつく瞳を片方だけ閉じて、囁く。


「きっと、皆からは感謝されっぱなしだな。君が活躍すれば見出だした私の評価も少なからず上向きになるだろう。そうすれば、私が帝都衛兵隊の隊長の座にまた一歩近付くはずだ。女の身でも大出世の一歩になる」


 強烈な出世欲を隠さないミネルバの態度を見せつけられて、ミズガルズは思わず辟易した。少年はこういうギラついた人間が心の底から苦手だった。彼はこの世界で伸び伸びと生きていきたいと思っていた。だから、この女とはこれ以上関わらないようにしようと決意して、短く息を吸ってから口を開いた。


「……悪いですけど、俺は誰かに仕えることはしません。帝国の下で働く気は無いです。……そもそも、俺はただの旅人で、会う予定になってる仲間も近くで待っていますから」


 はっきりと断られたにも関わらず、ミネルバはただミズガルズを見つめていた。特に驚いた様子も無い。深緑色の瞳に射られて、少年は居心地が悪かった。相手が何を考えているのか、よく分からず不安だった。


「…………成る程、才能を捨てて負け犬どもの巣窟に戻るのか。ま、どんな選択をするかは君が決めることだからな。好きにすると良いさ。無理強いして、悪かったね」


 急に衛兵隊の副隊長は笑顔を見せた。その意図が分からず、ミズガルズは逆に不穏な気分にさせられた。口元は確かに笑っているが、目は笑っていない。そんな気がしたのだ。


「さぁ、話は終わりだ。行きたい所に行けば良い、旅人よ。もっとも、君が選んだのはごみ溜めと何ら変わらない場所だがな……」


 言われなくとも出て行ってやるとも。ミズガルズは心の中でそう吐き捨てて、詰所を後にした。もちろん、胸の内に何だかむかむかするものを溜めて。



◇◇◇◇◇



 不愉快な気分のまま帝都衛兵隊の詰所を去り、少し歩くと、すぐにアレハンドロたちは見つかった。ヘレナも一緒だ。唯一、赤毛の女の子はいない。あの後、大商人だという父親がすっ飛んで来て、引き取ったらしい。名前も聞けなかったが、生きているのならばそれで良いだろう。ところでアレハンドロは路上で何やら格闘技のようなポーズを取っていた。凛々しい顔立ちと裏腹にアホらしい行動をしている彼と向かい合って、漆黒の竜蛇がいた。思わず、ミズガルズはずっこけそうになる。間違いない。ノワールがそこにいた。


 さっきから探さなくてはと思っていたが、まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったので、ミズガルズは拍子抜けした。しかも、羽を広げた竜蛇の傍らには手荷物の入った布袋が置いてあった。ミズガルズのささやかな私物である。どうやらノワールが口に咥えたかして、ここまで運んで来てくれたらしい。この蛇は一体どこまで利口なのだろうかと、少年は素直に感心してしまった。


「ノワール。こっちにおいで」


 主の声を聞いたノワールは弾かれたようにアレハンドロに背を向け、ミズガルズの方に擦り寄って来た。恐らくこの漆黒の竜蛇からしてみれば、神に仕えているのとほとんど同じ感覚なのだろう。頭を低くしてミズガルズにひたすら甘えていた。そんなノワールの姿を見ると、一度はヘレナを失いかけた痛みも少しは和らぐような気がして、ミズガルズも小さく微笑んで竜蛇を撫でてやった。


「なんだ、知った顔同士だったのか。竜蛇なんて、どこで拾ってきたんだい?」


「あぁ、ここから南に下った所にある大陸でね。この様子だと、きっとどこまでも俺に付いて来るだろうなぁ……」


 自然と笑みをこぼした少年を見て、アレハンドロも釣られてはにかんだ。


「……なぁ、ミズガルズ、それにヘレナちゃんだっけ。とりあえず、ボクらが泊まってる宿まで行かないか? 皆が待ってるよ」


「え、えと……私も行っていいんですか? 全然無関係な者ですけど……」


「何言ってるのさ。ボクが良いと言ったら良いに決まってる。さあ、行こう」


 顔を上げたミズガルズを促して、アレハンドロはその足を宿へと進めた。



◇◇◇◇◇



 貴族の青年が案内した宿屋は一階が大きな酒場となっており、それより上の階が宿泊所になっているものだった。全部で三階建てであり、このスラム街の中ではかなり立派な建物の部類に入る。一階の酒場は広く、昼間だというのに多くの人間やら獣人が集まっていた。中には僅かながらも魔族とおぼしき者も見える。

 彼らは少ない金を惜しまずに酒を飲んだり、情報の聞き取りや世間話に花を咲かせることに夢中のようで、アレハンドロとミズガルズが入って来たことには特に興味を示さない。延々と喧騒は続いた。


「あ……」


 酒類のきつい匂いに包まれた酒場の入り口に立って、落ち着かない様子も露にきょろきょろと周りを見回していたミズガルズだったが、奥の壁際の席にある人物を見つけて、つい声を上げた。隣のアレハンドロを置いて行き、その席目掛けて彼はすたすたと向かう。自然と足は早くなり、気付けばその男の傍にいた。


「…………カルロス」


「お、お前……ミズガルズ、か……?」


 壁にもたれかかって酒を胃に流し込んでいた男は目を限界まで見開いて、白銀の少年を呆然と見つめた。そんな彼の姿を目にして、ミズガルズは何だかほっとした。


「久しぶり。今まで元気にしてた?」


 無言で頷く男はカルロス・パルド。バルタニア王国において、それなりに腕の利く冒険者として知られる男だ。怒りで我を忘れたイグニスと便乗してしまったミズガルズによって壊滅させられたギルドの討伐隊の唯一の生き残りでもあり、その後は紆余曲折を経て、当の炎竜たちと行動を共にした仲だ。


 カルロスは暫くの間、何が何だか分からないという顔をしていたが、ミズガルズが実に落ち着き払った様子で、向かい側の椅子に座ると、途端に堰を切ったようにまくし立て始めた。


「なぁ? お前、今日までどこにいたんだよ? こっちは凄かったんだぞ、俺たち皆ワケわからなくて、あぁ、一体何から話せば良いやら……! そうだ、ところで魔王を倒したのはやっぱりお前だったのか……?」


 矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐。どこから話そうかとミズガルズが思案し始めた時、テーブルの上に氷の入った飲み物が置かれた。頼んでもないのに何故、と顔を上げると、そこには水色の髪の少女が立っていた。深い藍色の瞳に少年は釘付けになる。


「お久しぶりです、ミズガルズ様。よくぞご無事で」


 若い水竜の少女、リューディアが左手に酒瓶の乗ったトレイを持って、佇んでいた。恐らく、この酒場で給仕として働いているのだろう。最後に見た時と何ら変わりない力強い笑顔を向けられて、ミズガルズの頬も嬉しさのあまり緩んだ。


「ごめん、リューディア。今まで心配かけて……」


 消え入りそうになる言葉。水竜の少女は微笑み、そして言った。


「それはイグニス様とサネルマ姉さん、それにケネスにも言ってもらわないと。……とりあえず一度全員で話しましょう? 付いてきてください」


 もちろん、断る理由も無く、ミズガルズはカルロスとアレハンドロ、それから未だに落ち着かない様子のヘレナと一緒にリューディアの後を付いて行った。

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