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妖怪のいぶき  作者: 槐妖
10/16

番外編01 「鞄」

規定オーバーでボツにした作品。

かごめかごめ 籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に

鶴と亀が滑った 後ろの正面だあれ


「えっと、えっと。夏ちゃん」

「凄い。当たり」

旅の途中気まぐれで立ち寄った境内で思わぬ懐かしき光景に触れた。

子供達のわらべ唄。昔の遊び。全てが微笑ましく見える。

けれど、夕闇が迫り子供達は一人また一人と家路へと急ぐ。


最後まで友人を見送ったのは、先程後ろの正面で当てられた夏ちゃんという子のようだ。

仕事柄なのか、その様子が哀愁漂う夕闇に相俟って芸術的に見えた。

私は急ぎカメラを取り出しシャッターを押す。

1枚、2枚と撮っていた時。そのフレーム内に20代後半の女性が写り込んできた。

夏ちゃんの母親だろうか?不釣り合いな黒い鞄を携えたその女性は夏ちゃんに近付き、にこやかに笑いお互い手を取り境内奥へ歩き出す。


二人の後ろ姿を眼で追っていると霧で包み込んだかのようにゆっくりと消滅した。

「えっ、何」

夢でも見ているのかと錯覚した。

慌ててカメラのメモリーを確認した。

夏ちゃんは居る。しかし、母親と想われる彼女の姿は写っていなかった。


どう説明していいか解らないまま警察に届けも出さず…


後日解った事だが、ここ1年余りで数人の子供達が消息を絶っていた。

そして、その子達は全て親から捨てられていた事実。

拾われた場所はまちまちだが、酷いものはコインロッカーやらゴミ捨て場。

明らかに小さな命を殺そうとしている。殺人じゃないか。


だからと言う訳ではない。

ただ、何か引っかかる…

私はこの事件を調べる事に決め、あの境内に何日も張り込み…

ついに彼女を見付けた。


夏ちゃんと同じように境内に一人になった子供にあの時の様に近付く彼女。

「貴女。その子をどうする気」

私は強い口調で言い放つ。

彼女がゆっくり振り向く…その刹那統べての記憶が甦る。


「お…母さん」

そう、私も実の親に捨てられた。

そして、この育て親に出会い二十歳までマヨヒガという私設で育った。


まだ幼かった私は母親にこう聞いた。

「お母さんはどうして若いままなの?どうして鞄を何時も持っているの」

と。

すると母は。

「私は、はるか昔罪を犯したの」

「つ、罪」

「ええ、我が子可愛さに人様の子を殺めた。だから人でなしな咎人…

そして、その罪を償う為に貴女達のような子を育て続けているのよ」


そう言った母は、ゆっくりと傍らの鞄を見つめ話続ける。

「この鞄は…私の命、そして貴女にとっては兄妹かな」

そう言われたものの幼い私に理解は出来なかった。


何年かして鞄を覗き見た時小さな遺骨が大切に入れられていた。

その遺骨の頭部には1本の角が生えていたのを鮮明に覚えている。


目の前にいる母は、あの頃出会ったままの綺麗な容姿。若いまま…


「その子も育てるつもりですか」

母の傍まで来ていた女の子は既に母の手をやんわりと掴んで居た。

「ええ、勿論よ。そして、貴女のように立派な大人に育てたらお終い。

これでやっと末の子に会えるの」

優しい眼差しで女の子を見やる母は何かを悟っているかのように穏やかな笑顔を見せる。

そして、ゆっくりと霧に包まれ二人は消えた。


それから、10年の月日が流れ、私の目の前に綺麗なままの母が現れた。

傍には小さな男の子。小さいながらもこの子があの時言っていた兄なのだろ。

「やっと会えたね。兄さん」

「貴女なら解ってくれると思っていたは。これからも世界中に貴女の兄弟がたくさん居る事を覚えておいて…人、そうして妖の中にもね。もう心配はいらないわね。沙羅。さよなら」

母はその場で砂のように崩れ落ちた。

「お母さん…」

兄は驚く事無く、両手で母の亡骸となった砂を拾い上げ、あの黒い鞄へそっと詰め込むと私へと手渡した。

兄はにっこり笑うと自分の世界へと帰って行った。

私は母の鞄と共にこれからも生きていく。

世界中の兄弟と共にこの地上で…


【人でなし】とは、人なのか?人ならざる者なのか…



今回の妖怪:鬼子母神、諸説ありますが子供が五百人とも千人とも云われたが、

他人の子をさらっては食べたとされる。

そして、釈迦に自分の子を隠され後に改心し神となる。

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