表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第七話:朝の冷たさと手の温もり

ドアを静かに閉めて、廊下に出る。


ホテルの廊下はまだ静かで、朝の光がカーテン越しにうっすらと滲んでいた。


「……まだ、空気ちょっと冷たいね」


湊さんがそう言いながら、軽く肩をすくめる。


「うん……」


自分の声が、少しだけ緊張しているのがわかる。



……変な感じ。


エレベーターの中は、二人きりだった。


沈黙が落ちる。

でも気まずいというより、静かすぎて心臓の音がやけに響く。


ちら、と湊さんの横顔を見る。


朝の光のせいか、昨日より少し柔らかく見える。

眠そうな目も、ラフな髪も、全部がやっぱり好みだ。ずるい。


「……なに」


気づいたみたいに、湊さんがこちらを見る。


「え、いや、なにも……」


慌てて視線を逸らすと、くすっと小さく笑われた。


「……俺ってそんなにかっこいい?」


少し口角を上げた、挑発するような視線。

悔しいけど、何も言い返せない。


「……」


湊さんは、まだ楽しそうにクスクス笑っている。



エントランスを抜けると、朝の空気がふわっと頬に触れた。

まだ人通りも少なくて、街全体が眠りの余韻を残しているみたいだった。

部屋の中では自然だった距離が、外に出ると急に意識される。

並んで歩いているだけなのに、周りに人がいるだけで、なぜかそわそわしてしまう。


コンビニまでは、ほんの数分。


ただコンビニに行ってるだけなのに、なんだかデートしてるみたい。


心が躍るのがわかる。

どうしよう、ニヤニヤして気持ち悪くないかな、私。


さっきからずっと、肩が触れそうで触れない距離。


触れていないのに、ちゃんと隣にいるってわかる距離。


横断歩道で信号を待つ。

周りからはどう見えてるんだろう。カップルに見えたりするのかな。

……ふふっ。


心の中でそんな妄想をしていると、信号が青に変わる。


「そんなにニコニコしてどうしたの。ほら、行くよ」


ふいに手を取られ、気づいたときには手を繋いで歩いていた。


……。


いや、薄々わかってはいたけど、恋愛偏差値高すぎる。

私じゃ勝てないや。


少しだけ落ち込みつつも、右手から伝わる、少し大きな手の温もりがうれしい。


コンビニの自動ドアが開く音がして、二人同時に足を止めた。



「俺、おでんとか食べようかな。あ、ここにあるじゃん」


九州のコンビニは初めて来るらしい。

少しだけテンションが上がっている湊さんが、なんだか新鮮だった。


夜とはまた違う雰囲気。

表情はあまり変わらないのに、不思議とわかる。


……可愛い。


二人で一通り見て、少しの朝ごはんと飲み物を選ぶ。


「決まったら、このカゴに入れて」


当然のように、私の分まで払ってくれる。


スマートだな。

きっとモテるんだろうな、この人。


「ありがとう、ございます……」


「ふっ。なんで敬語」


また、笑った。


出会ったときは、あんなに無表情だったのに。


その笑顔を見るたびに、なぜか特別なものを見せてもらっている気がして、胸の奥がじんわりあたたかくなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ