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第四話:ギャップに戸惑い惹かれる


「……外、出てもいい?」


そう言って、湊さんはポケットから小さな箱を取り出した。


白い箱。

細い棒。


……タバコ。


一瞬、驚いたけど、不思議と嫌な感じはしなかった。

むしろ、その仕草がやけに自然で、似合っていて。


「……吸うんだ」


「うん。……タバコ吸う人は嫌い?」


そう言いながら、親指でライターを弾く。

小さな火が揺れて、一瞬だけ彼の横顔を照らした。


その表情が、どこか大人びていて。

少しだけ、影があった。


「ううん!タバコの匂いは苦手だけど、吸ってる姿がかっこよくて好き!」


……何言ってんだ、私は。


湊さんは小さく笑った。


「なら良かった。」


タバコを吸いながら、何気なく袖をまくる。

細い前腕に、くっきりと走る黒いライン。左腕全体に入ったタトゥー。


……え。


一瞬、思考が止まる。


黒縁メガネで、落ち着いた服装で、静かな人。

第一印象は、真面目で優しい人だったのに。


この人、タトゥー入ってるんだ。


意外すぎて、目が離せなくなる。


「……そんなに見る?」


気づいたらしく、湊さんがこちらを見る。


「あ……っ、ごめん……!」


慌てて視線を逸らそうとするけれど、

心臓がうるさくて、うまく誤魔化せない。


「嫌なら、隠すけど」


そう言って、袖を戻そうとするから、

思わず声が出た。


「……ち、違う。嫌じゃない」


自分でも驚くくらい、正直な声だった。


湊さんの動きが、ぴたりと止まる。


「……じゃあ、なに?」


少しだけ、興味を含んだ声。


私は少し迷ってから、正直に言った。


「……ギャップが、すごくて……」


「ギャップ?」


「うん。静かで真面目そうなのに……そういう一面があるんだって思って」


言い終わった途端、急に恥ずかしくなる。


でも、もう引き返せなかった。


「……かっこいい。」


一瞬の沈黙。


湊さんは何も言わなかったけど、

ほんのわずかに、口元が緩んだのがわかった。


「……心春って、ほんと変わってる」


小さく、やわらかい声。


名前を、自然に呼ばれる。

それだけで、胸の奥がきゅっとなる。


「……悪い意味じゃないから」


そう付け加えてから、視線を落とす。


「むしろ……安心する」


まただ。

また、そんなことを言う。


危ういのに、優しくて。

距離を詰めてくるのに、ちゃんとこちらを気遣っていて。


そのギャップが、もうずるいくらいで。


私はもう、この人にかなりやられている気がした。



「……完全に寝たね」


タバコを吸い終わった湊さんが、小さく笑いながら私の隣に腰を下ろす。澪と拓実さんはベッドに移動してすやすやと寝息をたてている。


「うん……」


声を落として答える。

さっきまで四人で座っていたときよりも、距離が近い。


肩が触れそうで触れない、ぎりぎりの距離。


「さっきのさ……」


湊さんが、ぽつりと言う。


「タトゥーとか、普通引くでしょ?」


冗談みたいに軽い声なのに、

どこか本気を探るような響きがあった。


私は少し考えてから答える。


「……たしかに、そういう人が多いのかな」


「だよね」


前を向いたまま、湊さんが続ける。


「……でも、心春は全然違う顔して見てたから」


「え……」


「びっくりはしてたけど、引いてなかった」


ちらっと、こちらを見る。


「……そんな反応、初めてされた」


「……だって」


私は小さく息を吸って、正直に言った。


「そのギャップすらも、かっこいいと思っちゃったんだもん」


言った瞬間、心臓が痛いくらいに跳ねる。

言いすぎたかもしれない。重いかな。引かれたかな。


そう思った瞬間。


「……そっか」


湊さんが、低くつぶやいた。


「それ、ずるいね」


その声が、やけに優しくて。


私は何も返せなくて、ただ黙ったまま膝の上で指を絡める。


沈黙が落ちる。


でも、それは気まずさじゃなくて、

なにかが静かに張りつめていくような空気だった。


湊さんが、ほんの少しだけ体の向きを変える。


それだけで、距離がさらに縮まる。


肩と肩が、とうとう触れた。


……触れているのに、どちらも離れない。


「心春みたいな真面目で純粋な子、俺の周りにはいないよ」


ふいに、そんなことを言われる。


「……怖くないの?」


「俺みたいなの」


少しだけ、自嘲気味の声。


タトゥーも、タバコも。

たしかに、私の周りにはいなかったタイプかもしれない。


私は少し考えてから、首を振った。


「……怖くないよ」


「ほんとに?」


「うん」


むしろ……と言いかけて、言葉を飲み込む。


湊さんは私の目をじっと見つめたまま、しばらく何も言わなかった。


それから、ふっと小さく息を吐く。


「……心春って、ほんと、ずるい」


ずるいのは……どっちなの。


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