第二話:隣に座った、その瞬間から
「……っ」
澪が吹き出し、拓海さんが目を丸くする。
「え、まじで?」
幸い、湊さんには聞こえていない。
「だ、だからさっきから全然あっち見れないんです。本当にかっこいい。めちゃくちゃどタイプで……」
焦って、言葉が勝手に早口になる。
自分でも分かる。耳が熱い。
拓海さんは一瞬きょとんとして、それから悪戯っぽく笑った。
「……じゃあさ、席変えよ。隣の方がよくない?」
え、今なんて?
気づけば拓海さんはすっと立ち上がり、自然な流れで席をずらしていた。
そして――私は、湊さんの隣に座っていた。
……近い。
想像していたより、ずっと。
肩が触れそうな距離。
同じ空気を吸っているだけで、心臓がうるさい。
いやいや、せっかくここまでしてくれたんだから、ちゃんと話さないと。
でも、なにを? どうやって?
内心は完全にパニックだった。
そんな私の隣で、拓海さんが楽しそうに言う。
「湊さ、心春ちゃん、お前のことどタイプなんだってさ」
ちょっと待って!?言うの!?
いや、もうこうなったら……勢いだ!!
「……うん。めちゃくちゃどストライクです。かっこいいです。初めて、こんなどストライクな人に会いました」
ほぼ息継ぎなしで言い切った。
自分でもびっくりするくらい正直だった。
そのとき。
湊さんが、初めてちゃんとこちらを見た。
「……へぇ。それ、本当?」
低くて、落ち着いた声。
……無理。
恥ずかしくて、反射的に目を逸らした。
「……すみません。目、見れないです。本当にかっこいい……どうしよう……」
何言ってるんだろう、私。
視界の端で、拓海さんが楽しそうにニヤニヤしているのが分かる。
いや、もう……どうしてくれるの、この空気。
でも。
湊さんが、小さく息を漏らすように笑った。
「……ふっ。そうなんだ」
その笑い方が、ずるかった。
一瞬だけ口角が上がって、目元がやわらかくなって。
……だめだ、好き。
そのあと、何を話したのか、正直あまり覚えていない。
ただひたすら、「目を見て話す」という自分ミッションに必死だった気がする。
しばらくして、テーブルにトランプが配られた。
ババ抜き。
カードを引くたびに、
ふいに顔を上げるたびに、
目が合いそうになるたびに、胸がぎゅっとなる。
見たいのに、見れない。
恥ずかしいのに、意識せずにはいられない。
ただトランプをしているだけなのに、
それだけなのに。
どうしてこんなに、胸が忙しいんだろう。
そんな時間が、しばらく続いた。




