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第一話:初めての一目惚れ

心春と澪は九州住みです!

「あぁ〜。彼氏欲しい!!」


最近のトークテーマは、これ一択になってきた気がする。


好きな人なんて、これから先できるんだろうか。

マッチングアプリも一応やってはいるけれど、どうにも現実味がない。


「そこそこ好きな人」と出会って、

「そこそこうまくいって」、

気づいたら結婚している。


きっと私は、そういう人生なんだと思う。

ドラマみたいな恋愛なんて、私にはきっと縁がない。

もはや結婚できるのか。


……だめだ。考えれば考えるほど、虚しくなってくる。


「心春、ほんといっつもそれ言ってるよね」


向かいに座る友達の澪が、くすっと笑う。


「マッチングアプリ、うまくいってないの?」


「うーん……この前、いい人には会ったんやけどね」


「お、どんな人?」


「趣味も合うし、顔も悪くないし、優しいし、背も高い。

結婚するなら、こういう人がいいんやろうな〜って思う人やった」


「めちゃくちゃ良さそうじゃん」


「でも……ときめかんのよね」


ぽつりとそう言うと、澪は少し考えるように視線を上げた。


「……まあ、そんなもんじゃない?」


「そうなのかなぁ……」


恋って、もっとこう……

心臓が勝手にうるさくなるものなんじゃないの?


「あっ、じゃあさ」


突然、澪が身を乗り出してきた。


「相席屋行ってみる?」


「え?」


「最近このへんにできたんだって!女の子タダで飲めるらしいよ!」


「今日……?」


今日はなんとなく、女の子同士でゆっくり飲みたい気分だったのに。


「心春ずっと『出会いない』って言ってるじゃん。行動しなきゃ何も変わらないって!」


……正論すぎて、何も言い返せない。


「……わかった、行こうか」


そうして私たちはBARを出て、相席屋へ向かった。



相席屋に向かうエレベーターの中は、

金曜の夜特有の匂いがした。


香水と、ほんのり残るアルコールと、

知らない人同士の気配。


私と澪のほかに、男の人が二人乗っていた。

ボタンを見る限り、行き先は同じ。


二人ともマスクをつけていて、顔はほとんど見えない。


そのうちの一人が、にこやかに話しかけてきた。


「行き先、同じっぽいですね。ここの相席屋、来たことあります?」


「あ、いえ。初めてです」


「俺たちもなんですよ〜」


ほんの数往復の軽い雑談。

それだけなのに、空気はどこかやわらかかった。


私は、その隣に立つもう一人の方をちらりと見る。


黒い服に、黒縁の眼鏡。

マスクのせいで表情はわからないけれど、視線を伏せがちで、どこか壁を作っているような雰囲気。


……なんだろう。

まだ顔もわからないのに、なぜか気になる。


自分でも不思議に思いながら、そっと視線を逸らした。


エレベーターを降り、私たちはそれぞれ受付へ向かう。


――このときはまだ。


本当に、ただの「感じのいい人たち」くらいにしか思っていなかった。



相席屋の席に案内され、改めて向かい合って座る。


「どうも、さっきぶりです」


エレベーターで話しかけてくれた方が、朗らかに声をかけてくれた。


その流れで、隣の彼がマスクを外す。


……その瞬間だった。


息が、一瞬止まった。


思っていたよりずっと整った顔立ちで、

静かな目と、感情をあまり映さない表情。


さっきまで「ちょっと気になる」くらいだった感情が、

一気に、胸の奥に落ちてくる。


……ずるい。

こんなの、反則だと思う。


「俺、拓実っていいます。こっちは湊」


紹介されても、正直それどころじゃなかった。


……無理。

直視できない。


顔をきちんと認識した途端、視線を合わせるのが怖くなった。


心臓が、うるさい。

本当に、どうしようもないくらいに。


「ごめんね、俺が無理やり連れてきたから、こいつちょっと機嫌悪くて」


拓実さんが笑いながら言う。


確かに、湊くんはずっと無愛想。

でも、それすらも……かっこよく見えてしまうのが悔しい。


なにより、顔がドストライクすぎる。


……こんなにタイプの人、人生で初めてかもしれない。


四人で話しているうちに、

二人は仕事仲間で、関東から旅行で来ていることがわかった。


……関東。


その事実だけで、胸の奥が少し冷える。


ああ、やっぱり。

今日限りの出会い、なんだろうな。


気づけば私は、湊くんを意識しすぎて、ほとんど顔を見られなくなっていた。

だから自然と、拓実さんと話すことが増えていく。


そんな中、拓実さんがふと聞いてきた。


「好きなタイプって、どんな人?」


少しだけ、迷った。


でも、お酒のせいもあって。

私は思っていたより、ずっと素直に口を開いていた。


「……実は……」


一度、言葉を切る。


胸がうるさい。

手のひらが、ほんのり汗ばんでいる。


それから、拓実さんにだけ聞こえるように、湊くんを指しながらそっと言った。


「……めちゃくちゃタイプです。」


言い終えた瞬間、顔が熱くなる。


気づいてしまったから。


これはきっと、

私にとって「初めての一目惚れ」なんだって。

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