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第二話 呪われた力

〈悪魔の森〉を抜けると、先程まで雷雨や風が襲っていたのが嘘だったかのような快晴が私を迎え入れてくれた、

だが多量の水を吸収した衣服は「気持ち悪い」と感じるほどに肌に吸い付く…。


辺りを見回すと、一目見て校舎だと分かる巨大な建物と、その近くには河川と野球でもできそうなグラウンドが広がっている。

そういえば情報上では、この学園の生徒って事になってるけど、制服も着てなければ鞄や筆記用具なんかもない、どうするべきだろうか…いやそもそも持って行ったとしても全部使い物にならなくなるだろうな。


そんな状況で、立ち往生している私を見かけた人がいたのか、一人の女性が視界外から話しかけてくる。


「どうしたの…?もしかして新入生かしら」


後ろを振り返ると、朱色の鮮やかなショートボブに白い花の装飾品を着けており

学園の制服であろう、黒色が特徴的な様々な模様が描かれた服を身に纏う、凛とした女性が私の事を不思議そうに蒼い瞳で見つめていた

いきなり話しかけられたので少しビクッとしたが、今は必要な事だけを聞き出そう。


「今日から入学する事になった〈カルディア・セレクト〉だ、よろしく頼むよ」

「私は〈セイクリッド・ニール〉ここの生徒会長を務めているの、気軽にリッドとでも呼んでくれると嬉しいわ

制服や道具は別で支給するところがあるから、今から案内するね。」


聞き出す前に答えてくれたな、この姿を見て察してくれたのだろうか

ともかく無駄な手間が省けて助かる。


校舎の方へ進むと、女子更衣室と記された部屋に案内された

部屋の中に入るといくつもの女子用の制服がサイズごとに置かれており

タオルや櫛も置いてあるし、部屋の奥にはシャワールームまで設置されてある…用意周到だな…この事に疑念を抱いた私はニールに直接聞いてみる事にした。


「随分と用意がいいみたいだけど、この学園じゃ当たり前なの?」

「う〜ん、あの森を抜けたなら分かると思うけど、そもそもここは濡れずに来る…とか、無傷で来る…とかを想定していないの、というか武器もなしに森を抜けたの?」


その問いにコクリと頷き、サイズの合った制服を手に取る

ちなみにリッドは私の反応に対して少し引き気味だった

それもそうか…絶え間なく降り注がれる雷雨に、夜には危険な魔物まで出没する

たとえ校舎に辿り着いたとしても、装備が破損しているというのは当たり前なのかもしれないな。

というかそもそも生きて通す気がないだろ…。


「悪いけど、着替えたいから廊下に出ていてくれる?」

「えぇ、構わないわ…あ、言い忘れていたけれど、この学園には入学式はないよ

着替えが終わり次第、貴女の寮の場所を教えるけど…そこでは注意事項なんかも書いてあるから、よく見ておいてね!」


私に微笑みつつ、言葉を残して廊下に出てくれた

入学式がない…か、面倒臭い事をやらなくていいならそれでいいや。

あとは注意事項…?深夜に出歩かないみたいな感じのやつか…

服を脱ぎ、タオルで余分な水分を吸収し、櫛で髪をとかしてから着替えを終わらせると、近くにあった姿見鏡で全身を確認する、主に黒が使われた制服は私の白髪や紅い瞳を強調し、いつもよりも美しく見える。


着替えた事を伝えるために扉を開くと、目を輝かせたリッドが立っていた

私を見るやいなや、私の周りをぐるぐると移動し全身をくまなく見ている。

暫くすると枷を解いたかのように口を開き始めた。


「やっぱり可愛いわね!一目見た時から絶対に似合うと思っていたの!

そうだ、寮の場所を教えなきゃね…また私に着いてきてくれるかしら?」

「う、うん…」


今の私は恐らく「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」と体現するにふさわしい顔をしていた事だろう、さっきまでと印象が全く違う…ちょっと怖い、恐る恐る何があったのか聞いて見る事にした…。


「ねぇ…さっきと随分と性格が違うけど何かあったの?」

「…実は私、可愛い物が大好きなの!最初に引かれたらいけないと思って、自分を抑えていたんだけど、この制服を着た貴女には錠を解かずにはいられないでしょ!」

「…そう」


身振り手振りを使って全力ではしゃぐリッドに「生徒会長がこんなので大丈夫なのか?この学園…」と思いつつも、彼女の後を着いていく


あぁ、それともう1つ聞きたい事があったんだった…それは〈魔物〉についての事だ

四六時中〈ディアボルの森〉にうじゃうじゃと湧いてくるのにどうしてこの学園は襲われないのか、それはここに来る前から気になっていた、多数の人間が集う場所だし、少なくとも人から溢れた魔力がここ一帯に収束しているはず、魔力に敏感なあいつらが真っ先に襲いそうなものだがな…


「どうしてここは〈魔物〉に襲われない?何か特殊な対策でもしてあるのか?」

「えぇと、それはね〜、学園周辺に結界が貼られているから襲撃されないのよ、確か…〈魔力途絶〉って先生は仰っていた気がするわ。」

「なるほど…」


つまり魔力を結界内と結界外においての干渉を途絶する事によって、外部から魔力を検知されないようにしているということか、自分なりの解釈だが大体合っているはずだ

その結界をどうやって起動して維持しているのかも気になるが、今は聞かなくてもいいな


その後は沈黙の間が続き、暫く歩いていると寮と思われる部屋がいくつも連なっている場所に到着した…各部屋には二名の名前が記されており、その名前が書かれた人の部屋で、ルームメイトも存在するのだと推測できる、私の名前も発見することができた〈情報の改変〉は上手くいっているようだ

そしてその部屋のルームメイトは〈ロスト・インサニティ〉という名前だった


「ここで過ごす上でのルールや明日からの授業予定なんかが書いてある本があるから、ちゃんと確認しておくんだよ、分からないことがあれば生徒会室に来てくれればなんでも答えるわ!それじゃ、私はやる事があるからまたね。」

「あぁ、また頼むことにするよ」


分けれを告げると、右腕を激しく振り去っていった…変な奴だったが、ああいう奴を「人格者」というのだろう、頼り甲斐のある学園の中心人物、それが私が下した現状の評価。

さて、部屋の確認をしようか…もしかしたらロストって奴もいるかもしれない、変な奴じゃなければいいけど。


扉を開くと、煌びやかな碧色のロングヘアに綺麗な金色の瞳を持ち、読書をしている少女がその子のベッドであろう場所に座っている、集中しているのかこちらには気づいていない

熱中できる物があるのは良い事だ、それはいざという時に強い原動力になる。

とはいえこれから共に過ごすルームメイトなので、挨拶だけでもしておこう…


彼女の前に立ち、できるだけ小さい声で話しかける。

どうすれば正解なのか分からなかったが、一応これが導き出した答えだ。


「…少しいいか?」

「ひゃう!?」


可愛らしい声がこの部屋を駆け巡った。

恐らくこの声をリッドが聞いたならば凄く興奮することだろう

目の前の少女はこちらを視認し、赤面しつつ本で顔を隠した…が、少しだけこっちを見ていた。そして彼女はかなり弱気に口を開き始める。


「ご、ごめんなさい!気づかなくて…私、その…人と話すのが苦手で…

ってあれ!?私と見つめ合っても平気なの…?」

「えっ、なにその高度な自虐…体に異常なんかはないけど、それがどうかした?」


少女は驚きの眼差しで私を見つめる、この学園には個性が強い者が多いようだ

五秒程度の沈黙の間が終わると少女は震えた口調で説明する


「私…呪われてるの」

「は、はぁ…」


もう一度言うが、本当に個性が強い…呪われてる?そんなオカルトチックな…。


「私と目が合った人は、命を蝕まれて死んでしまう…だから本来は目隠しをして過ごしているんだけど、それだと物の位置やどんな物かは分かっても文字までは分からないから…」


正直な所、その話を聞いても信憑性はゼロだ。

…あ、都合のいい所に小さな紫色の蜘蛛が壁に張り付いているではないか…


その蜘蛛をひょいと摘んで彼女の方に向けて、「この蜘蛛を見て」と言い放つ

彼女が蜘蛛を見つめると…苦しむ動作もなく、一瞬で生命活動を停止してしまった

これで証明された、その力は本物なのだと…

私にはなぜ効かないのか?それは恐らく私の能力のせいだろう、情報を上書きするという力の対象は何も文字だけじゃない…時に情報は「死」をも凌駕する、死という概念が私を飲み込んだ際に、その情報を上書きして死を無かったことにする、という設定を組んでいるため、私には事実上「死」が訪れない…森の中で学生証を奪った少年に首を落とされた時、死なずに再生したのはこの力が原因だ…あと学生証の情報を書き換えられたのも〈情報改変〉があってこそだ。

尚、生きている物体ににこの設定を組み込む事は何故か出来ない。


彼女は私に力を露見してくれたが、私は明かすつもりは無い…面倒な事になるのは極力避けたいから、そのためには目の前にある面倒事を片付けなくては…そこで即興で考えた嘘を思いついた。


「私は〈死を否定する〉力を持ってるの、だから聞かないんだと思う」

「すごいね!こんなの初めだよ…私にはちゃんと目を見て話せる人なんて居ないと思ってたのに…なんだか嬉しいなぁ…」

「なら、友達になってみる?君が良ければだけど…」

「いいの!?ありがとう…これからよろしくね、私は〈ロスト・インサニティ〉」

「私は〈カルディア・セレクト〉お互いに良い学園生活を送れるといいね。」


私の名演技が効いたらしい、ロストは先程までおどおどとしていたのに、今は笑顔で話せるほどになっている、言ってみるものだな。

それに今までまともに話せる人も居なかったんだろう…こいつは何か利用できそうだ

駒は多ければ多いほどいい、「友達」なんて便利な言葉なのだろうか…


私に笑顔を向けるロストに対して、偽りの関係を作った…だが所詮は人間の関係など冷えきった物が殆どだ。

けど…もしも本当に友情というものが存在するのなら、実に有意義な物になるだろう

だが私は既に友情とは無駄な物だと知っている…このとても普通とは言い難い場所で、私にとって君はどんな存在になるのだろうか…〈ロスト・インサニティ〉その名を胸に刻んでおこう…


第二話「呪われた力」~終~


次回:第三話「偽りの友達」


-tips-


1

〈学園デザイア〉

ここの生徒だということを証明できれば、何人も立ち入る事が可能な危険区域…悪魔の森に囲まれているため、魔力途絶効果のある結界外に出れば命の保証は無い、普通の人はまずここには辿り着けない。

水道や電気などは魔術という秘術で賄っているらしい。


2

〈セイクリッド・ニール〉

デザイアの生徒会長、普段はしっかりとしたお手本のような人物なのだが、彼女の可愛さの許容ラインを超えると、本性が顕現する。学園内では相当の力の持ち主らしい…が、真相は不明。


3

〈ロスト・インサニティ〉

目が合っただけで生命活動を停止させられるという、桁外れの能力を持つ少女。

尚、瞳を持たない生物や、元々死亡者扱いであるアンデッドなどには効果がない。

普段は生活に支障が出るため、布で瞳を覆っている…と言っても、視界が塞がれるため

どの道、支障は出てしまうという悲しき運命を背負っている。

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