第一話 死が築く物語
激しい雷雨が生命体を襲い、かつて豊かだった森は崩れ落ち、木々は避雷針の如く雷を受止め無惨にも焼け散る。
更には灰のように濃い霧が方向感覚を狂わせてくる、しかし今はそんなことはどうでもいい…さて、本題に移ろうか、私の視線の先には両足を失い泥と血で全身を染めた少年が、木を背にして座り込んでいる。
少年は荒い呼吸をしながら、私を睨みつけている…怒りの感情がないと今にも意識が無くなってしまいそうなほど疲弊しているようだ…今楽にしてあげよう。
「どう…して…こんな…ゴホッ、事をする…」
少年は問う、何故こんな事をするのか…わざわざ答える必要はないだろう
だけど何も知らずに殺すのは可哀想だ、せめて死ぬ前に教えてあげよう。
彼の胸ポケットから学園の生徒証明書を取り出し、それに手をかざしてある操作を始める。
次第に証明書の名前や写真などが消え始め、完全な白紙となる…もう暫くすると文字が再度浮かび上がってくる…名は〈カルディア・セレクト〉、写真は白く煌びやかな長髪と深紅を彩った瞳が特徴的な美少女に置き換わっていた…世界の情報を書き換える力、影響されたのはこのカードだけでは無い、その学園の教員や生徒が私を一般生徒だと認識するようになった、その光景を見ていた少年は未だ状況を理解していないようだった。
今にも幕を閉じてしまいそうな彼の顎を手でクイッと上げ、目線を合わせゆっくりと話し始める、少女漫画で言う顎クイ状態になっているが、そういう意図は全くない。
「目的は一つだけ…学園〈デザイア〉への入学、そのために君の生徒証明書を書き換える必要があった…まぁ、それ自体は誰のでも良かったから、私と出会ってしまった君は運がなかったね」
憎悪、怒り…そんな感情が彼の視線に宿っている、この状況に対して何も出来ない自分に対しての怒りか、はたまた私に対しての物なのか…あるいはその両方か…。
「君に選択肢をあげる、このまま森の中で一つの屍となるか、私の駒として生き残るか…どちらがいい?」
「お前の…駒になる…?馬鹿も休み休み言えよ!」
彼は残された力で掌を私の顔に向けて見せる、一体何を…
「死ね…」
突如として彼の掌から魔法陣が展開され、そこを中心点として風が集う…そして集まった風は刃となり瞬きをする間もなく私の首を裂きちぎる…魔術と呼ばれるやつだろうか、御伽噺だと思っていたが本当に存在していたとは
「ざまぁみろ…」
「って思っちゃうよね…だけど誰も私を殺せない」
地に落ちたはずの頭部が塵となって消滅し、失ったはずの頭が首の断面から徐々に再生していく
目が再生しきってないから分からないけど、彼の表情は容易に想像できる…
いや、それを知ったところで何も得られないし気にする必要はない。
「化け物がッ!もういいだろ…さっさと殺せ…」
「…そう呼ばれるのは久しぶりかも、そうだね苦しいのはもう嫌だろうし君の望み通りにしてあげる」
懐から紫色の液体が入った小瓶を取り出し、彼にその中身を浴びせる。
「何を…している…殺さないのか?」
「ちょっと辛いかもしれないけど、頑張ってね…」
これの正体は魔力と呼ばれる殆どの生物が身に宿している、不思議なエネルギーを凝縮して液体に混ぜたもの…これ自体に害はない、むしろ高揚感に、身体能力向上を及ぼす、万能な液体なのだ…だがこの森の中においては話が変わる。
〈ディアボルの森(別名:悪魔の森)〉、気候が不安定であり、今日のように雷雨になったり、暴風が来たり、自然の脅威が冒険者達を襲う…それだけではなく〈魔物〉と呼ばれる陽の光が弱点であるが、生命体を無差別に殺害する化物も徘徊しているため、夜に探索するのは自殺行為と言えよう。
そして魔物は魔力に敏感な生き物である、つまり魔力を多量に浴びた少年の結末は…言うまでもないだろう。
何をされたか理解した彼は既に絶望と恐怖の渦に飲まれ、壊れた人形のように微かに笑っているだけだった。
学生証の件は本当にありがとう…そしてさようなら。
私は目当ての学園を目指して歩き始める、夜が開ければ入学の日だ…
さぁ始めようか、目的のない物語を。
第一話「死が築く物語」 ~終~
次回:第二話「呪われた力」
-tips-
1
〈魔物〉は現在確認されている種で、大きく分けて人型と異形方に分かれる
魔物同士に仲間意識はなく互いに攻撃するが、稀に集団で行動することがある
尚、彼らの体は未知の物質で生成されており非常に硬い、生半可な攻撃力では倒せない。
2
〈学園デザイア〉は〈ディアボルの森〉を抜けた先に存在するので、多くの生徒にとって
この森を抜けることが入学への試験とされる…
3
〈カルディア・セレクト〉
本作の主人公、目的の為ならば、冷酷な手段を使う事も厭わない、冷たき心を持った人物
情報を書き換える、という摩訶不思議な能力を持っているようだが、詳細は不明。
学園の生活の中で、彼女は何を学び何を成すのか…それはまだ誰も知らない。




