国語の勉強① 「手始めは、日本の心、和歌!」
ドクトルは、若いギリシャの神々の勉強のお手伝いである.キューピーも、海丸君も、「日本の和歌」は理解が難しいらしい.
別館の図書室には、中学入試用の古い参考書まである.
「へえ、小学生も和歌の勉強するのかな・・・」なんとなくドクトルが、索引を見ると、あった!
「和歌・・・なになに・・・」
韻文、短歌を読み取る
ポイントは、
(もともと短歌は「和歌」の一種である.和歌は奈良時代から盛んに作られ、短歌以外にも、長歌・旋頭歌など色々な形式があったが、平安時代以降は短歌ばかりが作られるようになったため、今では和歌といえば短歌のことを指すようになっている.主に自然に触れた感動を表現する短歌を読み取れるようになろう(文英堂、特進クラスの国語 p.186)
奈良時代から平安時代にかけて、たくさんの短歌が作られた.
その多くは、
自然の美しさをほめるもの
男女の恋愛感情を歌ったもの
故郷を懐かしんで読んだもの
があった.昔の短歌はむづかしい言葉のものが多い.
「小倉百人一首」はカルタになっているので、身近に触れる機会があるだろう.
「ねえねえ、海丸君にキューピー、小学校では、百人一首って習った?」
二人は顔を見合わせて、「さあ・・・」である.学校の授業を思い出してみた.
習っても、おそらく耳の脇を先生の声はそよ風のように通り過ぎて行った、そんな感じだろう.
「キューピー君、なんか、耳の脇をそよ風が通り過ぎたような気がしたのだけど・・」
「そうだね、海丸君、どちらから吹いてきた風かによるけど、北風ならきっと、ボレアスだろうか・・・」
日本の学校の校舎の作りは、南向きが教室の窓、生徒の左、先生は正面で、廊下は右手側、だから先生は西から東向きの生徒に話をするということになっている、らしい.
「西の風なら、ゼピュロスかな?」
「そうだね、ゼピュロス、なんか僕達に用事でもあったのかな?」
「おいおい、お前ら、それは先生の声だ、風のように聞き流すんじゃない!真面目に勉強しろ!」時々、ルシフェルのおじさんが心の中に話しかけてくる.
「あ、そういえばこの前の国語の授業の時、おじさんが、なんか話しかけてきたから、授業どころじゃなかったや、ははは」キューピーは能天気である.
ちなみに、南風なら ノトスか、アウステル
東風ならエウロスが、風の神ということになっている.
考えようによっては、吹いてくる方向によって風の神が誰かというのを、弁別できるという方がなんかロマンティックな感じがしないではないが.
しかも、先生の声をそよ風のように聞き流すというのは洒落ている.さすが、神話の国から来た神々の子供たちだ!
「本当は、ちゃんと勉強しないとダメだとは思ってはいるのですが・・・」海丸君は、結構深刻みたいである.お母さんが日本の神でも、長く離れて、幼少の頃はギリシャで過ごしたから、日本の心、まだ理解がむづかしいことが多いみたいである.しかも、昔の言葉、それも大人の気持ち、が大体だろうから、彼らにはちょっとむづかしいかもしれない.
「和歌というのはですね、5、7、5、7、7音の文字を並べて歌うもので、一つの歌、これを一首と言いますが、31文字からなります.もちろん、ひらがなのひと文字ですよ.アルファベットみたいに、子音と母音を別に数えたら、めんどくさいというかメチャクチャになりますから気をつけてください」
(おお、ドクトルの講釈は、独特だが、確かに母国語が日本語ではない、海外子女にはわかりやすい講義かもしれない)
「例えば、ですね・・・こんな歌が・・・」とドクトルが、和歌を諳じるのかと思いきや、「あれ、思い浮かばない、確か百人一首の本もあったと思ったが・・」
本棚を探すと、あった.
「あまつ風、雲の通い路吹き閉じよ、乙女の姿、しばし留めん・・」(僧正遍照)
海丸君も、キューピーもまたキョトンとしている.
「何を言っているのやら・・・・」海丸君にも理解不能である.
「まあ、これは、生臭坊主がね、若い綺麗な女の子のダンスを見て、欲情して、天の風が暴風起こして、電車、ストップして、女の子帰れなくしておいて、おお、もっとダンス見たいぜ、とよだれ、垂らしている、そんな歌です」
「ドクトル、それほんと?」キューピーが飛びつくが
「な、訳あるかい!」ドクトルは即座にいう.
「解説を見るとですね、なんと良岑宗貞という貴族、坊さんになる前に詠んだ歌らしい、だから生臭坊主というのは当たらないみたいですね、そんで、五節の舞い姫の舞を見て、綺麗な女の子、まるで天女だ、ずっと見ていたいな、そういう気持ちだから、天女が帰るのを、風の神が吹いて、その帰り道を邪魔したらいい、そんな感じで、っていると、私の解説もあながち間違いでないみたいですね・・・」
「お、どっち向きの風かな?邪魔したのは、ボレアス(北)か、ノトス(南)か、エウロス(東)、がゼピュロス(西)か・・・」キューピーがまた風の方角を持ち出す.
「女の子にこんな乱暴なことするのはきっとボレアスじゃないの?」海丸君は日本で生まれたとはいえ、ギリシャの在住経験があるから、神話の風の神の性質はよくわかっている.
ドクトルはというと、ギリシャの神々の子供の反応を興味深く見ていた.
(おお、これは、日本と、ギリシャ、自然認識の違い!日本人は、風の向きにより、その性格を神に置き換えて考える習慣は、ない、と思う)
「風をテーマにした歌でですね、菅原道真公の歌、太宰府に流される前に読んだ歌かな、こういうのがあります」
東風吹かば、匂いおこせよ梅の花、主人なしとて、はるな、忘れそ
「はるなを忘れそう?」海丸君の疑問である.
「いえいえ、うちのはるなさんのことではなくて、はるのことを「な」というのは禁止の言葉で、忘れるな、というのを忘れるな、という意味の「そ」がついているみたいですよ.
愛ちゃん.健ちゃん、とママが図書室に入ってきた.今日も遊びに来たらしい.
「あ、百人一首なら、うちは、みんなでよくしますよ」と愛ちゃん・健ちゃんのママがいう.なんでも一番強いのは愛ちゃんらしい.
「まさか、あんな子供に負けるわけは・・・」ドクトルは、はなから舐めてかかっていた.
「じゃ、勝負する?」健ちゃんが挑みかかって来た.
「じゃ、ちょうぶ、する?」愛ちゃんも何やら腕に覚えがありそうな感じである.
ドクトルは、体操して、体をほぐしてから子供達の挑戦を受けて立つ.
急遽、別館、百人一首対決が始まった.
ドクトル、はるな、愛ちゃん、健ちゃん、海丸君、キューピー、アポロン、ルシフェル、静香、愛染の母ちゃん(アフロディーテ)が参加した.
読み手はママである.
お、いつの間にか、愛染の母ちゃん、今日は結婚相談の仕事暇なのかな.
「ほほほ、男女の愛の物語を歌った歌なら、全部私が、いただきよ・・・」自信満々の愛と美の女神である.
ママは、朗々と歌い上げる.
「はい!」(ピシ!)
「はい!」(パシ!)
「はい、ルシフェル、お手つき!」
カルタのふだが次々に宙をまう.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結果は果たして・・・・・
順位だけ発表しよう.
1位 健ちゃん 45枚
2位 愛ちゃん 43枚
3位 はるな、6枚
4位 静香、 3枚
5位 海丸君 2枚
6位 ドクトル 1枚
7位は同率で キューピー、アポロン、ルシフェル、愛染の母ちゃんの0枚
だった.
大変だったのは、愛ちゃんがお兄ちゃんに2枚負けて、悔しくて、泣いて、しばらく泣き止まなかったこと、である.
あの子は悲しいのは我慢するのだが、悔しいの時は泣くらしい.
天才兄妹のようである.




