ギガントマキア⑤ 「地中海東部戦線、コス島の戦い」
キプロス、クレタといった、地中海上の島々には、これといったギガースの勢力が生まれなかった.ただし、アナトリア半島に近い、コス島あたりには、ポリュポーテースが、侮り難い勢力を持って、軍を構えていた.
討伐軍の大将は、天と大地には直系の孫に当たり、クロノスの神子三柱の一人、ポセイドンである.
本陣をどこに置いたか、記録にはもちろんない.ここでも想像の翼を広げることとしよう.
アテネの南、アッテカ地方のスニオン岬に、ポセイドンの神殿がある.そこを本陣として、敵のいない、エーゲ海諸島を飛び越えて、コス島にまで攻め込むのは不自然か?
コス島の南東にロドス島があるが、ここに本陣を置く、必然性というか、理由が希薄ではる.近いというだけなら小アジアにどんと腰を据えて陸から攻撃すればいい気がする.地中海の東、エーゲ海あたりの地図と睨めっこしてみる.
クレタ島?古代エーゲ海世界の中心の一つであった島である.さらにここからコス島を望む.方角は、北東?
「これは、丑寅の方角である!」つまり、鬼門である.精力の強い、ギガースが神々に戦を仕掛けてくるのはこの方角からしかあるまい、という気がしてきた.
ポセイドンは本陣をクレタ島に置いた.
シケリア島、エトナから、イタリア半島のヴェスビオスの大勝利が、ヘルメスよりもたらされた.
「あの生意気な小娘、やりおる!」
かつて、ポセイドンは、アテネの支配権をめぐって、アテナと争ったことがある.そこでは、苦い敗北を喫していた.身内で仲が悪いというのではない.だから、争いは浮世のいきがかりというやつなのかもしれない.海と、地震の神は、兄の頭から生まれて、その知的かつ、意欲的な部分を最高神の兄から、余すところなくうけついだ、この姪を高く評価している.
「アテナは、兄者のいいところ、全部持っていったようなもんだからな・・・」
ポセイドンの帷幕の中には、参謀として、
妻のアンピトリテの父、つまり舅にあたる、ネレウス、知恵者で長老と呼ばれ、予言の力を持つ.
二人王子、トリトンとプロテウス.彼らも祖父のネレウスに似て、知恵者である.プロテウスもまた祖父と同じく長老と呼ばれる.トリトンは、海中津々浦々に響き渡る法螺貝を吹き、全軍を鼓舞する.武力は父に遠く及ばないが、作戦参謀としてはこれ以上の者たちはいない.
そしてクレタの近海には、荒ぶる海の精霊、リバイアサンが、海と言わず、空と言わず、荒れ狂う嵐のように、のたうち回っている.ポセイドンの勢力の武力の中枢である.やがてこの龍神が、産土の女神の腹の中で肉を受けて、生まれ、人の子として育ち、その救いの主となることはまだ、誰も知らない.
プロテウスの予言である.
「悪鬼、ポリュポーデスは、丑寅の方角より攻め来たる.月が痩せ、やがてその姿を消すその日」
新月の夜、つまり今夜か!
「敵の襲来は今宵、新月の夜、潮が満ちる時、それは我らにとってこそ絶好の戦機!皆のもの、貝を吹け、ドラを叩け、矛と盾を打ち鳴らせ!」トリトンがまず法螺貝を吹き、檄を飛ばす.
全軍が、鬨の声を上げ、ドラを叩き、矛を打ち鳴らす.天と地と海の全てに響き渡らんばかりの轟音である.その音は遠く、オリンポスやトラキア、ヴェスビオスにも聞こえたという.
玉座のポセイドンはしばらく動かない.
皆が、法螺貝を吹き、ドラを叩き、矛と盾を打ち鳴らし、その音が消えた.しばしの静寂があたりを支配したところでおもむろ立ち上がり、三又の鉾を振り上げ、そして、大地を強く叩いた.
大地と海は鳴動し、波は高鳴る.
全軍が、津波のように、コス島に向かって進軍を開始した.




