ポセイドンの恋①「冬の海で遭難」
5月、海底宮殿の玉座にあるポセイドンは何故かそわそわしている.
女王のアンピトリティーは、海の王のそわそわの原因がよくわかっている.
「あなた、何をそんなにそわそわしておられるのですか?」
女王はわかっているのに聞く
「いや、あの、何だな、そろそろ、日本近海ではカツオの漁の季節だろうかな、なんと思ったりしてな・・」
「また、漁にかこつけて、会いたいのでございましょう、あの、日本の山の精に生ませた子供に・・」
「いや、まあ、それもあるかもな、あ、でも、カツオが逃げちまうから、俺、行ってくるは」
言い終わるよりも早く、ポセイドンは地中海の彼方に消えていった.
日本近海のカツオ漁、春のカツオは、初ガツオ、または上りガツオと呼ばれる.3月から5月末頃にかけて、南西から、段々と北東の方に漁場が上ってくる.
まき網漁か、一本釣りでとる.海の男ポセイドンは、一本釣りで釣るのを好む.
日本の漁師に教えてもらって、もうどれくらいになるだろうか?
魚を釣っているという感覚?大量の時は特にそうだ、釣っているのが楽しくてしょうがないという感じらしい.釣りをしたことのないものにはとんどのものにはわからない感覚らしい.
大量のカツオをまとめて、ヘスティア姉さんのところや、別館に運ぶのだが、一番の目的は、かわいい息子の海丸に会うことである.
「ごめんよ」と例によって、太く大きな声で、案内をこうと、
「あ、父上だ!」海丸くんが嬉しそうに、読んでいた本から顔を上げた.
「え、ポセイドンのおじさん?」と健ちゃん
「ドッスンのおとうシャン?」と愛ちゃんも嬉しそうである.
愛ちゃんを助けるときに、ドッスンして、ハーデスとペルセポネの宮殿を半壊状態にしたのは、海丸くんなのだが、この必殺技は元々、ポセイドンのものである、三叉の鉾で地面を打つと地震が起こる.海丸くんは、この鉾がなくても、心の叫びだけで地震を起こしたから、すでに父親の力を凌駕していると言えなくもないのだが、
なんか恥ずかしいから、ドッスンは、ポセイドンの技だと、幼い弟と妹には常に説明をしている.
ペルセポネは、大量の花を用意している.
ポセイドンが尋ねる.「何だこれは?」
「カーネーションよ、もうすぐ母の日でしょ」デメテルに送るカーネーションである.花の神様だけに、ものすごい量の花が母親のために用意されていた.
キューピーも、女を喜ばすことにかけては、右に出るものはいないということで、
色々と工夫を凝らした花束を、母のアフロディーテのためにようにしているようである.
アポロンと、アルテミスもレトのためにカーネーションを用意している.母親には苦労をかけたから.皆、ペルセポネの花を分けてもらって、思い思いの花束を作るらしい.
皆、浮かれているのだが、父と話している、海丸くんを見て、「は!」となる.
はるなも、静香も、普段は、海丸くんのお母さん代わりのつもりでいたが、
「そう言えば、海丸くんのお母さんって・・・・」
何も聞かされていないのである.
海丸くんは、これまでにお母さんの話をしたことがない.
ポセイドンも海丸くんのお母さんのことについては何も話したことはない.
子供達が皆、寝た後、書斎で、ポセイドンとルシフェル、はるなと、静香がお茶を飲みながら、話をしている.
ポセイドンの昔話である.
「昔の話だ・・・」
ポセイドンは遠い目をして話をする.
「日本近海はいい漁場が多い.冬の日本海だ.カニ、ぶり、たら、あんこう、ちょっと河口に近いところに行けば鮭が取れることもある.それはそれは、面白い漁場なわけだ・・・」
皆彼の話に聞きいる.
「俺、が何で油断したのか、あんなことは初めてだ、風と雨、雪で船を沈めたことがある.冬の海に俺も投げ出された.」
「まあ、オリンポスの神々の俺らは、死なないからな」
「そう、俺は何日か、冬の海を漂流したらしい.死にはしないが、気を失って、ある浜に打ち上げられたらしい・・・・」
越後国、新潟県だ、近くに、糸魚川という町がある、古い神の住もうた、街で、翡翠の王国があったらしい.
高い山が、海にすぐ迫るところで、俺の流れ着いたところは「親知らず、子知らず」と言われる、北陸道の難所だ.海沿いの道をゆくには、波が引いたとき、ということになるが、冬の日本海は荒れる.あっという波にさらわれて、親は子と別れ、子は親と別れてしまう.難所の名前の由来である.そういうところに彼は流れ着いた.
雪姫が、夕刻、海沿いを歩いていると、人が倒れている.赤ら顔で、手足には鱗が生えているように見える.熊のような巨体だ.半分海に浸かっている.体はさぞ冷たいのだろうと思って触ってみたが、体温はそれほど下がっていない.しかし海から引き上げるにも、家に運ぶにしても、娘一人の力では、如何ともし難い.
姫は助けを呼んだ.
「イエティ!」と叫ぶと、流れてきた男よりもさらに大きな、全身白い毛だらけの、異形のものが現れた.熊のような大男を、さらに巨大な、雪の怪物が軽々と担いで、雪姫の館に運んだ.
男は三日三晩眠り続けた.体は長時間冬の海に浸かっていたのにもかかわらず冷たくない、ちょっと熱を持っているようにも見える.
暑いときには、水につけた手拭いで冷やした.そうでないときには、そのままにしておいた.溺れているかもしれないが、呼吸はしっかりしている.顔は穏やかである.時々寝言のようなことを言う.
三日目、男は突然目を開けた.
「は、ぶりの群れは、かには・・・俺の船はどこいった」
と言う.
「あんた、漁師かい?どこからきたんだい、この近くではないね、あ、あたしのいってる言葉、わかるかい?」
「俺は、ポセイドン、ギリシャから来た.ここは?お前は誰だ?女、なのか?」
「女、なのか、ってお前、俺のこと見て、これどっからどう見ても女だろが」
「そうなのか・・・・」
このような女は初めて見た.サラサラした長い黒髪.一重の瞼の下には、さらに深く、全てを吸い込み、閉じ込めてしまうような黒い瞳、手足と、顔の肌の色は、あくまでも白く真珠のよう.頬は、少し丸みを帯びている.うっすらとベニを刺したような唇は艶かしかった.
「あたしは、雪姫、まあ、山神とでも言うのかね、このあたりの産土の神さ.あの、白いけむくじゃらの大男は、イエティ.ヒマラヤってわかるかい?そこで生まれた雪男」
「うー」とポセイドンが苦しみ始めた.
「おいどうかしたのか、大丈夫か?」
「うー、腹減った・・・・」
「へ?、あの、苦しいじゃなくて、腹へった?はははは、お前面白いやつだな、気に入った」
「お前も、顔は美しいのに、なんか喋りはうちの姪っ子のアテナみたいだな・・・」
「飯急いで用意するさ.あんた好き嫌いとかあんのかい?猪の肉か、魚、どっちがいい?米は食べられるのかい?」
「好き嫌いは、ない」
「よーし、じゃあ、待ってな!うまいもん作ってやっからな.」
雪姫と、海の神のポセイドンは簡単に恋に落ちた.




