表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/140

ドクトルの診察室、そして、「お前は信頼できる、仲間だ!」

 今日は鬼丸さんが外来にくる日だ.例の楠本はるなさんの縁者という、変わった老紳士だ.彼女と彼がどこまでの関係かはよくわからない.

ドクトルは、その関係に興味があるわけでもないが、患者としてはなかなか興味がある患者さんではある.今日は診察の前に造影を含めたMRIを撮る予定になっている.一体どんな所見が見られるやら、少し楽しみでもあるドクトルである.


 自分の患者さんのMRIを撮るとき、撮影室にドクトルは見にいくことが多い.それは追加のシーケンスを依頼することがあるからだ.椎骨動脈の解離だと、通常のルーチンのMRAにBPASを追加で指示するし、主幹動脈の閉塞やら狭窄が見つかったら、ASLをとるし.さらに微小出血が多い時には、T2*だけでは足りなくて、SWIも取ることがある.

 放射線科の技師さんもそれに即座に応じてくれるのだからすごい時代である.拡散強調画像が出た頃は、まだすべての病院にあるわけではなかったし、大学病院での使われ方は今から思えば特殊だったのだろう.今のように脳梗塞を早期に見つけるというのではなくて、細胞密度の高い、リンパ腫とか、neuroblastomaとか、medulloblastoma,とか、脳膿瘍、epidermoidの診断に使われていた.梗塞の病変をDWIで光らせて部位診断というのが実際に役に立ったのは大学病院の日雇い医員をやめて、市中の一般病院に出てからであった.大きな声では言えないが、その欠点は、症状と関係のない、たまたま見つかった小さな脳梗塞を内科の先生が大騒ぎすることぐらいか?

 

 さて、問題の鬼丸氏のMRIの所見.結論からいうとそれは至って正常であった.手術の後の前頭部に少し骨損傷があるかもしれないが、はっきりしない.もちろん、上矢状洞の閉塞やら血栓化もない.松果体には腫瘍らしい痕跡はないし、もちろん取り残しはない.造影される病変が見当たらないから.造影されないが腫瘤を形成しているかという所見もない.松果体或いは視床下部・下垂体に仮に腫瘍の痕跡があったとして、そこから腫瘍が、前頭部に骨を突き破って出てきたのなら途中の脳にも損傷がありそうなのだが、それもない、全く正常.惚けたことを言うのはアルコールが影響しているかもと思ったが、T1強調画像で、基底核の高信号、つまり肝性脳症を疑わせる所見でもないし、脳表の萎縮、側頭葉内側・海馬の萎縮もほぼないといって良い.それに問診で聞いたところによると、彼は飲酒はしないそうである.皮質下白質や、基底核の無症候性脳梗塞、微小出血もない.MRAでは、脳動脈瘤、血管奇形はないし、脳の主幹動脈の閉塞狭窄もない.ドクトルは、鬼丸氏に説明した.


「びっくりしました、正常です」

「俺の脳みそ、正常って、そんなにびっくりすることかね?」

「失礼しました.いえいえ、誤解なさらないでください、仰る症状とか経過から、もっとすごい所見があるかと思ったのですが、今日のMRIはほんと、正常の見本みたいな脳でした、すごい!という意味です」

「あんた、なかなかいいこと言うな、俺の脳みそ褒めてくれてありがと.じゃなんで頭痛が起こるんだ?」

「そこなんですよね、機能性の頭痛なら偏頭痛か、緊張性頭痛ということになりますが・・・」


 ある程度、年配の方で偏頭痛初発っていうのはあまりない気がします.

 

 頭痛の性質はどんな感じですか?1日寝込むほど痛いですが、嘔吐しますか?あるいは持続時間はどれくらい、朝昼晩だといつがひどいですか、風呂に入ったりお酒を飲むと良くなりますか?あ、お酒は飲まないのでしたよね、それともひどくなりますか、普段から肩は凝りますか、後ろ頭に何か水疱状の皮疹はできませんかとドクトルは矢継ぎ早に質問して、診察してくれた.


「ちょっと後ろ頭と首を見せていただいてもいいですか?」

「おう、遠慮なく見てくれい」ルシフェルは背中を向けた.

「頭皮とか、頸部に皮疹はなさそうですね.首とか頭とか肩に触れてもいいですか?痛かったらいってください」といってドクトルはルシフェルの頭、首、肩を触ったり押したりした.

「後ろ頭とか首、押して痛いところはないですか?」

「ねえな」

「首と肩、後ろ頭をこうして揉んだらどうですか?」ドクトルが触ると、すごく硬い.まずは優しく、だんだん強く揉んでみた.

「おおーなんか楽だ、気持ちいい、もっと揉んでくれ」

患者さんと向き合って、改めてドクトルは説明した.

「あなたの頭痛は、器質的な病気による症候性頭痛ではなさそうです.つまり命に関わるような、おっかない病気ではありません.」

「じゃなんで・・・」

「一言で言うと、こりです」

「こり?」

「そうです、こりです.肩首、後ろ頭の筋肉が異常に緊張して起こる年配の人に起こりやすい頭痛で、緊張性頭痛、あるいは筋収縮性頭痛と言います.偏頭痛と同様、慢性機能性頭痛と言います.」

「ほお、よくする方法はあるのかい?」

「まずですね、長時間の運転とか、下を向いてパソコンしたりは良くないです.というのはですね、頭って結構重いのですが、首はそれをちょこっと上に乗っけて、バランスを取るのが一番楽なのです.前屈みになると、頭を支えて、首やら肩の筋肉に異常な緊張が起こります.前屈みをなるべくしないというのは大事かもしれなません.体操して、肩をほぐすようにして、筋肉の緊張をほぐす内服薬を飲んで、後、揉んでくれる人がいればなのですが、このNSAIDsという消炎鎮痛剤の軟膏を指に取って、揉んでほぐすよう塗り込むようにすると良くなると思います.あ、首とか後ろ頭はあまり強く揉まない方がいいです.椎骨動脈という血管が時々それで解離する人がいるみたいなので.入浴は差し支えありませんし、少量のお酒も痛みがひどくならなければいいでしょう」

「じゃちょっとやってみるよ」

 

「また、1,2週間後にどんな感じか、様子を見せに来て下さい.いいですか?病院くるの面倒でなければですが・・・具合が良ければ、病院くるの面倒ですよね、ははは.まあお忙しくて、具合よければ予約すっぽかしてもいいですから.」


 面白いこと言う先生だ.それだけ具合が良くなる確証があるのだろう.医者のいうことを信じて、言われた通りのことをやってみた.真面目に薬を飲んで、言われた通りに肩の体操をして、凝ったところに軟膏を塗ってみた.軟膏は居候先のはるなに無理言って塗ってもらっていた.彼女にもんでもらうと、すごく首と肩が楽になった.


 予約診察の日、ルシフェルはニコニコしている

「おお、ドクトル、頭痛が全くなくなった、よくなったよ、あんたすごい名医だな」

「いやそれほどでも、ありふれた病気ですから」

「いや、あんたは名医だ、信頼できる、気に入った.今日からあんたは俺たちの仲間だ.見せたいもんがあるから、今日の夜公園に来てくれ」

「はあ、お役に立てて嬉しいですが、そこまでお礼を言ってもらうほどのことはしてませんが」と、ドクトルは少し戸惑っていた.



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ