海丸・成長の証①「龍神のいわく、雨雲の群れよ、我に従え!」
別館の図書室では、海丸君が、愛ちゃんと、健ちゃんに絵本の読み聞かせをしている.海丸君が自分の勉強をするときには子供たちのママが交代してくれる.
「ごめんよ」と、言って図書室に入ってきたのは、ポセイドンである.扉のところはちょっと屈まないと通れない.時々頭をぶつける.今日は父上、いつもと違って、少し慌てているみたいで、何度か鈍い音がした.頭をさすっている.
「なあ、海坊よ、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいいか」
「なんですか父上」
二人は図書室の外に出ていった.海丸君が先に出て、後から父上が出てきたのだが、その時もごつん、と鈍い音がした.
「父上、御用の向きは?」
「ちょっと困ったことがあってな、旱魃(かんばつ:長い間雨が降らないで水が枯れること)と大雨の地域がいくつかあって、俺、ちょっと漁師の仕事が忙しくて行けねえんだ.おめえに、なんとか代わりに行ってもらえねえかなと思ってな」
「いいですよ、ただし、父上に封印解いてもらわないとダメですが」
「おお、もちろんだとも.おめえ、この頃、竜神の力うまい具合に使えるようになったからそこを見込んでだ」
「わかりました.勉強の成果でしょうか?私が力を思うままに使える様になったのは.色々学ばせていただいているおかげです.父上には感謝しております.」
「お前が頑張って勉強しているからだよ.」
愛ちゃんと、健ちゃんには内緒で庭に出てきた.
竜神になるところを見られたら、大変だ.
怖がられたりしたら、もう友達でいられない.
父上に封印をといてもらった.
「リバイアサン、リバイアサン、リバイアサーン!」ポセイドンは太く大きな声で叫ぶ、三叉の矛で大地を叩く.
前にも触れた、海丸くんの封印を解く呪文である.変わっていなかったのか・・.
雷がゴロゴロ遠くに聞こえる.空は雨模様になっている.
地表には風が渦を巻いて上昇気流は竜巻の様に舞い上がる.
と、同時に大地は七色の光を放射する.
その渦巻きは、海丸君を巻き込んで、
七色の光も、渦を巻きながら上に上にとのぼり、白色光になる.
「あ、海たん・・・・」
「げ、やべ!」
なんと、愛ちゃんと、健ちゃんとママが外に出てきている.
「まずい、見られる・・」
この呪文と変身、途中では止められない.
風と水柱と、七色の光が合わさって白色になった渦巻は、海丸君の周りを行く筋もの螺旋を描き、海丸君は竜神の姿に変わった.
銀色に輝く龍を見て、愛ちゃんと健ちゃん、顔はやがて悦びに満ち溢れた.歓喜の表情というのだろうか?そして叫んだ.
「くわっこいい!」
風で、子供達が吹き飛ばされそうになる.後ろで必死に支えながら、ママも、ささやいている
「海丸君、くわっこいい!!」
龍になった海丸君は、愛ちゃんと健ちゃんにいう.
「近づいちゃダメだよ.風に飛ばされるかもしれないし、水がかかっちゃうよ、あと雷もピカピカ、ゴロゴロで、おっかないよ・・・」龍になってもいつもの優しく、穏やかな話し方である.
一番の問題を確認しておく.
「健ちゃんと愛ちゃん、僕のこと怖くないの?嫌いになったりしない?」
「え、全然怖くないよ、ね、愛ちゃん」
「海たん、こわくない.くわっこいい!海たん、だーいすき!」
(えへへ、照れるな・・海丸君は、顔を掻こうとするが、龍の姿だと、手が顔に届かない)
「海ちゃんこれからどっかいくの?」健ちゃんがきく.
「僕ね、これからお仕事で、洪水になりそうなところの雨を集めて、その水を、旱魃ていうね、雨の降らないところに降らせる仕事があるんだ.」
「え、海丸くん、すご!」友達、すごい人だったんだ.
「行きたい、行きたい、けんちゃん一緒に行く・・」
「あいちゃんも行きたーい・・」
「背中にのっけて、のっけて!」と
幼い兄妹は手を伸ばして、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、
「連れてって、連れてって!」とせがむ.
「え、困ったな、父上どうしましょうか・・」
「まあ、保護者の方がいいって言えばいいけどな」
「健ちゃんと愛ちゃんのママ、どうしましょうか?いいですか、連れてっても・・」
ママも龍になった海丸君のこと怖くないようだ.
「私はかまいませんよ、ただし、宅の大事な子供達、おっことさないでくださいましね.落とさないと約束していただけるのなら、よござんしょ、どうぞご一緒にお連れくださいまし」
(くださいまし・・・初めて聞いた)
大正やら昭和の烈婦の趣である.
「父上〜〜親御さんダメじゃないみたいなんですけど」
「よかったじゃないか.じゃ、いってこいよ、友達に見せてやれよ、おめえの仕事っぷりをな.ただし、大事な子供さん、おっことすんじゃないぞ!」
ということで、龍になった海丸君は、愛ちゃんと健ちゃんを竜神の仕事に連れて行くことになった.
「愛ちゃんと健ちゃん、約束してもらいたいことがいくつかあります.一つ、これはすごく重要です.僕ののどの下に他のとは反対に生えた鱗があるんだけど、わかるかな」
「これ?」と健ちゃんが触りそうになった
「ダメダメ、だめ!め!」健ちゃんは慌てて手を引っ込めた.
「そのね、逆さに生えた鱗には絶対触らない」
「はーい.わかりました.」二人は明るく返事する.
「あとね、僕の背中に乗っているときには、絶対に立ち上がったりしないこと、それで僕の背中にしっかりつかまってて欲しいんだ、できる?」
二人は、右手を上げて、「はあーい」と元気よくお約束した.
さらに、「ステュクスの川に誓って!」と子供たちは立派に誓って見せるのだ.
もちろん愛ちゃんは上手くは言えないが、二人の子供は、神々とその子供達の誓いの言葉を既に覚えている.そしてこの誓いの重みもよくわかっていたのだ.
「ならば、私も、ステュクスの川に誓わねば、なりますまい・・・・」
暴風、雷に負けない大声で海丸は叫んだ.
「あなたの、お子様、二人の安全、私が、必ず、お守りいたします!」
雨と風は次第に強まる.
龍の父は、三又の矛で再び大地をつき、
「海丸!ゆけ!」と叫んだ.
海丸君が変身した、龍ははるなの家の上空を、高く飛び立った.
あの広大なデメテルの田んぼがどんどん小さく、遠くなる.
「わーい、すごい、高い、はやーい」
「しゅごーい、あいたん、タツノコ太郎みたい・・・」
「二人とも怖くないかい?下を見てびっくりしない?早すぎたら、ちょっとスピードゆっくりにするけど大丈夫かな?」
「だいじょうぶ!!」二人は声を揃えていう.
「あれ、ママ小さくなって見えないね、あ、あそこ、パパの病院だ」
「うわああ、ちっちゃく見える!」とか「雲の上だ!雲の上だ!」
風を切って、龍は飛ぶ.
雨粒が当たるが、冷たくないし、寒くない.
あられ状の氷の粒が時々、顔に当たることもあるが、痛くない.
雲の切れ間から見える、下界の小さくなった陸地をいくつか超えた.
「あ、あそこだ!」線状降水帯を目掛けて海丸君は飛ぶ.
無秩序な雨雲たちを
竜神の号令一下、集合・整列させ
幾筋もの水の柱を作り
召使いのあまつ龍の群れの如くに
自分の後に付き従わせる
次に向かうのは、ここ何ヶ月も雨が降らない、砂漠になりそうな土地である.
人々が雨乞いの儀式をしている村がいくつかある.
そこに順番に雨を降らせていく.
久しぶりの雨に村の人たちは、大喜びである.
皆、竜神様にお礼をして、村では三日三晩の祭りが行われた.
その後、村々には伝説が伝わっている.
あの旱魃の年・・
何ヶ月も雨が降らない
土地は枯れて、川も沼も、泉も干上がり、その年は作物は諦めるしかあるめえ、
村人は皆思った
そこに、銀色の龍が、
雨雲の群れを引き連れてやってきた
村の上空でトグロを巻くように、
さらに、さらに高く舞い上がった龍を、
主人に遅れを取るものかと、
雨雲の数匹が追従する
みるみる入道雲が広がり、雷鳴と共に、久しぶりの雨である.恵の雨である.
その年、村は干上がらずに済んだ、作物も例年通りに取れた
龍の背中には子供が乗っているようにも見えた
「それも二人いたように見えたのだが、・・・」
「二人の子供は楽しそうにはしゃいでいた・・・」
健ちゃんと、愛ちゃんが伝説の一部となった瞬間である.
無事に任務を終えて、海丸君は別館に帰還した.
地上に降り立って、安全を確認した後、子供達を、地面に下ろした.
二人は、ママのところに駆け寄る.自分を見上げる子供たちの顔を見れば
素晴らしい旅であったことはすぐにわかった.
健ちゃんと、愛ちゃん、空の旅、それも龍の背中に乗った、空の旅の感想は?など、聞く必要はなかった.
二人とも旅の余韻で、何があったかも言えないほど、陶酔したような状態だったという.ママにあってすぐ、彼らは眠ってしまった.楽しい夢を見ている寝顔である.
「よくやった、初めてにしては上出来だ!」と父上には褒められた.
それ以上に、友達を怖がらせたり、嫌われたりしなかったことに海丸君は安堵した.




