学ぶことは多い、しかし苦痛ではない⑦ 「検診結果の説明、勉強会のつもりが・・・」
海丸くんと、検診結果の解釈の勉強をする約束の日である.ドクトルは書斎・図書室で本を読んでいた.そこに海丸くんが入ってきたのでドクトルは確認した.
「海丸くん、この前話した、勉強会ここでするよね?」
「いえいえ、ドクトル場所は他に用意してあります」
「どこ?」
「別館、大講堂です」
「え、でもあそこはひろすぎないかい?」
いいからいいからいきましょう、とルンルンの海丸くんは、ドクトルの背中を押して、大講堂に向かった.
大講堂に来て、びっくりである.
「ドクトル特別講演、検診結果の見方」(!)
大きな垂れ幕に書かれている.
「海丸くん、これは一体なんですか?」
「ドクトル、勉強会とかお願いしてもなかなか、やってくれないから、海丸くんと謀って、こう言うことにしたのよ」はるなが一番の黒幕か!
「まんまとひっかりやがったな」アテナもこの陰謀に加担しているようだ.
「あ、まんまとー、謀られたー」と歌舞伎役者なら言いそうな感じである.
「今回は、参加登録、ネットにしときましたよ.200人ほど登録がありました.結構いい稼ぎになりました」静香がいう.
「え、お金取るの?それならそうといってくれれば準備もあったのに・・・」
今頃言っても後の祭りとはこのことである.客を集めた勉強会してくれといったらドクトルのことだからきっと断るだろうと皆が考えて、このような形にしたのである.
300人収容の、別館大講堂は、すでに結構な数の聴衆が集まっている.最前列中央には、なんとお子ちゃま3人が座っている.海丸くんと、健ちゃんの真ん中の愛ちゃんはいつものようにニコニコしている.
「あ、愛ちゃんと健ちゃん、また、ママに連れ戻されるのでは・・・」
そこに、愛ちゃん・健ちゃんのパパとママが仲良く手を繋ぎながら、講堂に入って来た.パパはビシッと背広を着ているし、ママもよそ行きのおしゃれをしている.ママとパパは、入り口のところでバイバイして、ママは健ちゃんの隣に座る.おや、今回はママ公認で勉強してもいいのかな?そしてパパの向かう先を追うと・・・・・・
なんと、舞台の右の方、座長席にパパは座ったのだった.
座長が、パパとルシフェルだ.
皆、揃いも揃ってグルなのだ、知らなかったのは自分だけかよ、これは完全に嵌められたと気が付いたがもう遅い.次の演者席に座らされて、海丸くんの勉強のためのパワーポイントのデータは、静香に奪い取られてしまった.
「じゃ、うまい具合に話しなよ、じゃね」と言う感じだ.
それならせめて、スライドの写り具合とか確認をさせて、と思ったが、まあいいかと思って、ほぼぶつけ本番の公演を引き受けることにした.
演台に立った.
まずは座長から紹介である.
「独取警一先生、まあ、皆さんはドクトルと言わないとわからないと思います.
私の尊敬する先輩の一人です.恒例ですので、先生のご略歴を申し上げます.
先生は、紀元前3000年年ごろ、か、もっと前ですか?ギリシャのお生まれで、お父さんの旧王朝のクロヌス大王との大戦争の後に、ギリシャはオリンポスの最高神に就任されました.」
隣のルシフェルがつっこむ.「あ、それは私の略歴で、まあ紀元前3000年と言うのも怪しいですがね、ハハハ」
「そうですね、失礼いたしました、ドクトルの名前、独取警一って言うんですね.笑っちゃいますね、どこからそんな名前をつけるのだっつうか.ドクトルという方が、皆はよくわかると思います.彼の経歴には、これといった、特記すべきことがありません.だから抄録を全面的にご参照ください、まあ、仮に興味のある人がいれば、の話ですけどね.私からは何も言いません.これからドクトルの話すことは、検診の話です.私たちは大体、かったるいと思う仕事ですが、このドクトルにかかればそれはそれは楽しい、仕事になるようです.その検診の仕事の醍醐味、というか奥の深さを皆さんにも味わっていただきたいと思い、この公演を企画してくれたのは、私の友人の海丸くんです.息子と娘が仲良くしてもらっているということもありますが、私にとっても彼は大事な友人の一人です.その海丸くんがドクトルをうまい具合にだまくらかして、今日に至りました.本当に末恐ろしい子供さんです.後、スタッフの皆さん、よくぞ、ここまで準備をしていただきました感謝申し上げます.それでは、ドクトル!話を始めてくれー!」
「ただいま、ご紹介に預かりました・・・ってな、お前、ドクトル、ってあだ名で呼んでしかも、初めてくれーってなんやね.俺はお前の先輩やぞ」
気を取り直して、今度は海丸くんに恨言の一つも言っておこう.
「あと、海丸くん、謀りましたね」
海丸くんはピースをしている.
「ピースやないわい!それにはるなに、静香も、金とってもおたら、それなりの話せなあかんから、困りますねんけど、まあ、できるだけおもしろ、可笑しゅう
話させてもらいますんで、よろしゅう頼みます」
ドクトルは、訳が分からなくなると関西弁が出るらしい.
水を一口飲んで落ち着いたところで話し始めた.関西弁は引っ込めて、話を始めた.
「おードクトル、やればできるジャーン」
皆が思ったらしい.
身長や体重、BMIの説明、腹囲のことから、メタボリックシンドローム、身長が低くなるのは、骨粗鬆症などで背骨が潰れておこることがあるから、4cm身長が縮むのは要注意であるとか、体重増えるのも良くないが、短期間で減るのも問題であるとか、2014年からこれまで図られていた座高の検査が廃止になったこと、
検尿のタンパク尿やら血尿の意味、
腎機能、尿酸値
血液中の、赤血球、白血球、血小板の検査、
糖尿病の検査
脂質異常症、つまり、善玉(HDL)悪玉(LDL)コレステロールや、空腹時中性脂肪、nonHDLコレステロールの意味、
血中のアミラーゼのこと、
肝機能障害、
B型、C型肝炎、
炎症マーカー
PSA
呼吸器機能、
便潜血
視力、眼圧、
聴力検査
心電図、
腹部エコー検査の、初見とその意味について、面白おかしく説明した.
これだけの項目もいろんな疾患の予防的な観点から話をすると、1時間くらいの公演になったのだった.
前を見ると、愛ちゃんと、健ちゃんはすやすやとおやすみ中.あの子たちのお利口さんなところは、泣いたり騒いだりしないで、眠ってくれることだった.
海丸くんもテーブルに頭をつけて居眠りだ.
「これで私の話を終わります」と小さめの声で公演を終えた.
公演を聞いていた人たちが、立ち上がり、スタンディングオベーションをしようとしたところ、座長が、それを制した、
「静粛に」
ドクトルも口の前に指を立てて、「しー」という合図を送る.
パパと、ママが、起こさないようにそおっと愛ちゃんと健ちゃんを別の部屋に移して、パパだけが、講堂に戻ってきた.
彼が座長席についたところで、ドクトルには割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションが贈られた.
拙い話を聞いてくれて、さらに拍手をもらう.悪い気はしない.
この機会を与えてくれた、海丸くんに、今更ではあるが、感謝である.




