巫(かんなぎ)、精霊と人との仲介者④「静香とルシフェル、出会う」
静香は、昼間の工場の仕事だけだと食っていけないので、そろそろ夜の仕事も再開している.帰りは、あまり遅くならないようにしている.家に帰って寝る時間がなくなると、朝からの仕事に差し支えるからである.12時前にはバイトのスナックは、上がらせてもらってはいるのだが、家に帰ってから、雪割の世話をしたり、夕ご飯の支度したり、次の朝の食事とか色々準備して、さらに、風呂に入ったり、お化粧落としたり色々あるから、寝るのはどうしても2時を過ぎてしまう.朝はいつも6時か、遅くても6時半に起きないと仕事に間に合わない.外食して帰ると、自炊するよりは、早くねれるのだが、すると給与と、支出のバランスがマイナスになってしまうから、そうそう外食はできない.
夜の食事、手早く、簡単に済ますにはコンビニによって、ということになるのだが.
コンビニを出て一人夜道を歩いていると、後ろから誰かにつけられているような気がする.数人の気配を感じる.話し声は聞こえない.足音も、あえて消しているということでもないのだが、どかどかと音を立てれ歩く感じではない.忍足、という足運びはこのつけてきている奴らの足運びのことを言うのかもしれない.静香は少し早足に歩く.つけてくる足音も早くなる.さらにはやあしであるき、そのうちに走って逃げる.後ろの足音も走ってついてくる.スキーと山道で鍛えたとはいえ、女性の足である、すぐに追いつかれてしまう.
「助けて!」あまり大きな声は出ない.喉から絞り出すような声、で助けを求めた.
追いかけてきた足音のさらに周囲からいくつかの足音がした.気配と言った方がいいのかもしれない.
「あんたたち、何やってるの」女性の声だ.恐る恐る振り返ると、自分をつけてきたと思われる数人の男を取り囲んで、4人の男と一人女性がいた.
「うるっせ!」取り囲まれた男たちは、女性に殴りかかろうとするが、かわされた.よろけたところを後ろから蹴りを入れられて、前のめりに倒れそうになったが、なんとか持ち直して、3方に分かれて逃げていった.静香をつけていたのは男が3人だったと言うことか.女性と一緒にいた男たち、4人いるようだった.3方向に分かれて、追う.彼らを追うが逃げられたらしい.しばらくして、静香のところに戻ってきた.
「あんた、大丈夫?あいつら、知ってるの?」
「いえ、知らない人だと思います.」
「なんか心当たりとか、あるの?」
「いえ、全く・・・」
「家はこの辺なの?」
「はい」
「じゃ逆に奴ら隠れていたら、面倒だね.別館にいっとき逃げるか」
「あんたたち、別館の周りと、奴らの逃げた方向、ちょっと見張ってきて、私はこの子を別館に連れてくから」
4人の男は、先程の男たちが逃げて行った方向に散っていった.
夜道、静香と二人で、歩く.別館の方向である.
「あ、あたしの名前は、アテナ」
「はあ、私の名前は、静香、新井静香と言います」
アテナに連れられて、静香は別館にやってきた.
「あれ、ここは、結婚相談所?」
「ああ、知ってるの?愛染の母ちゃんとキューピーってのがやってる会社でね.ここの部屋借りてるんだ.この家の主つうか、家主つうか、何ていうんだろう、この家の持ち主?とにかく、はるな、ってこの家なんだけどね、私たち、ちょくちょく使わせてもらってんだ、皆は別館なんて言うけどね」
アテナは、まあ居候の娘、だから、立場としては居候以下なのだが、まるで自分の家のように、その家に上がり込む.玄関で、スリッパを静香にすすめる.
「さあ、どうぞどうぞ、遠慮なく、上がって上がって」
先にも言ったが、ここははるなの家である.
「それにしても大きな家ですね、門入ってから、玄関まで10分以上歩きましたよ.また、廊下の長いこと・・・」廊下を歩きながら、何人の人とすれ違ったか.数えていないからわからない.皆それぞれに愛想がいい.別に誰だ誰だ、などと詮索されるような様子もない.
「そうだろ、広い家だよね、なんでもはるなの爺さんと、親父さんは金持ちだったらしいね.私はそう言うことよくわからないんだけどね.」
「おう、アテナ、また友達かい」ルシフェルとも廊下ですれ違った.
たくさんある部屋のドアのひとつが勢いよく開いて、おかっぱのような髪型の男の子が、廊下に飛び出してきた.走っている.
「ドクトル、早く、早く、本棚にあったんだってあのこと書いた、本、急いで、早く・・・」男の子は、眼鏡をかけたおじさんの手を引っ張っている.
「海丸君、そんなに、走らなくても、もっとゆっくりでも・・・」
「あ・・・」ドクトルと、静香の目があった.
二人の間の時間が数秒、止まったように、皆には感じられた.そして時間が動き出した、感じ、皆は感じた.
静香が、駆け出して、ドクトルに抱きついた
「のー、び、た、くーん!!」
「ぐえ、じゃいこ?」
「ジャイ子じゃないでしょ、静香よ、静香、ほら上越の初めの頃、直江津で、その後春日山のお店に移った」
ドクトルは記憶を辿る.忘れたように振る舞おうとしたが、だめだ.彼の記憶力は、それこそ神レベルで、記憶力については、一級品の人物である.さらに周り神々、
面白そうなことがあると野次馬よろしくぞろぞろと部屋から出てくる.
「お、なんだ、ドクトル昔の女だって」さっき廊下ですれ違った、初老のおじさん
「え、なになに、ドクトルの元カノ?」なんとデメテルと、ペルセポネの親子
あいちゃんと健ちゃんの兄弟も今日ははるなの家に泊まりにきていた.部屋から出てきた「ドクトルの彼女?ふーん結構可愛いじゃん」と健ちゃん
「ドクトルのことよろしくお願いちます」などとませたことを言うのは、愛ちゃんである.「こーら、子供は寝なさい、早く、おトイレ行ったら、寝なさいって言ってるでしょ」と二人を追いかけてきたのははるなであった.
「あ、」はるなと静香の目があった.またその場の時間と空気の流れが一瞬止まったような気がした.また数秒のうちに時間と空気は動き出して、はるなはけんちゃんとあいちゃんを追いかけてどこかに消えていった.
「え、なになに、ドクトルの昔の女?どれどれ」今度出てきたのは、愛染親子であった.
「あ、この前のお客さん、あ、どうも・・・」
「あ、どうも・・・」静香が、この前相談した男と、再会を果たせたことは、報告しなくても既に皆が知っていた.
客間に通された、静香は出されたお茶を少し飲んだ.こぼして、「あちゃ」といった.出された煎餅を既に数個食べている.
ドクトルは少し離れた席で、知らんふりをしている.静香の向いには、ルシフェルとアテナが座っている.遅れて4人の若者が、部屋い入ってきて、「お嬢、逃げられました.見失いました」とアテナに報告する.
はるなと、愛染親子も少し離れたところで座っている.どんな修羅場が展開されるのだろうかと、愛染親子はワクワクである.複雑な男女の仲に関する問題、この親子の大好物である.その大好物、こじれればこじれるだけ、なおさら美味になる.
「で、一体何があったの?」まだ状況が飲み込めていない、はるながアテナに聞く.
「この子が暴漢に襲われていたから、助けた.夜道帰すのもなんだから連れてきた」以上、報告終わり、と言う感じである.頭のいい人は自分がわかればそれでいいと言う態度を取ることが多い.詳細説明を嫌うのか、ただ面倒くさいだけなのかあまりちゃんと説明してくれない.
「で、なんで彼女は、ドクトルに抱きつく必要があるのでしょうか?」
「あ、それは俺が説明してやろう、彼女は何を隠そう、ドクトルの元カノだ」とルシフェルがいい加減な説明をする.
「だいたいお腹の中にドクトルの子がいる、とかそう言うことだろ、なあ、ドクトル、白状してしまえこのー」
「ふざけないでください」はるなが癇癪を起こす.
「ドクトル、なんでそんなところで黙って座ってるの.はっきりしなさい、彼女とは何があったの!ルシフェルの言ってたこと本当なの?認知とか、するとかしないとか、そう言う話はほんとなの!キー!!だまされた、私は一体あなたのなんだったのよ、ゆるさない!!」
珍しく、はるながエキサイティングである.
ドクトルはぼそりという.「私は何もやっていません、この人とは、15年ぶりくらいに再開しました、前にあった時も何もありませんでした.だから妊娠させたりなんてありません、私は無罪です」完全に冤罪事件であると言わんばかりである.
なぜか海丸君まで、ちょこんとドクトルの隣に座って、頭を垂れて小さくなっている.
イラついたはるなは海丸君にまで当たる
「海丸君がなんでそこに座っているの!子供が聞いていい話ではありませーん.それに今何時だと思っているの!子供は部屋で寝てなさーい!!」
海丸君が部屋を出ていく.アテナと四天王もあまりのはるなの剣幕に圧倒されて、こそこそと部屋を出て行った.
は、と我に帰ったようにはるなは、「あれ、私、何か言いましたっけ?あ、おせんべい、もうなくなりましたね、もう少し持ってきますね、ごめんなさい、お腹すいてらしたのですね.何か食べます?」といつものはるなにもどっていた.この人たちは、沸騰するのも一瞬、瞬時に熱は冷め、冷静になるのも一瞬である.
「あの、ちょっとお腹すいてるのですが、家に帰って支度するつもりだったのですが、今回みたいなことがあったもので・・・」
「じゃ、ちょっと待っててください、すぐ用意しますから」
なんと出てきたのは、生姜焼きだった.温め直ししたとは思えないような食事である.静香は食べ終わると、ふーと大きく息をついた.
「で何か思い当たることはあるのかい、お嬢さん」
「全く何も、本当に・・・」
「愛染の母ちゃんの話によると、あんたも雪割草の精霊と話ができるそうだな.でも今奴らとは喧嘩中、ってことなんだよな」
「はい・・・」静香は小さい声で答えた.
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よーし、これから公園に行こう.「あんたに見せたいものがある」
「え!」はるなとドクトルは思った.
「例のアレですか?」
「そうだ、例のアレだ.」
「じゃ、私は例のアレを用意しないと」と言いながら、パジャマやらジャージやら、カバンに詰めている.
「例のあれってなんですか?」静香は知る由もなかった.
はるなの家から、公園までは、玄関から門まで到達してしまえばすぐのところである.
静香も時々前を通るらしい.遊具には張り紙、ロープ、これも彼女は見て知っていた.しかし、4人のりのブランコは先程の若者4人が二人ずつ向かい合って座っており、女性が横から漕いでやっている.アテナである.円盤上の遊具に、はるなとルシフェル、静香が3人乗り、ドクトルが、横から回してやっていた.
「この公園の遊具、使ってもいいのですか?この前通った時は使用禁止の貼り紙貼ってあったような・・・」
「いいの、いいの」ルシフェルがいう.
「でな、これからお前に見せたいもの、って言うのは実は俺たちの正体さ、お前を仲間と見込んで、見てもらいてえ」
ルシフェルは、いつもの少し広いところに立った.




