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巫(かんなぎ)、精霊と人との仲介者②「静香という女」



 この静香という女とドクトルの話である.

 ここにいるみんなの知らないドクトルがそこにいた.


「ある時、ふらっと店に来たのが、あの人でした.眼鏡をかけてちょっとボートした顔してたから、私がつけたあだ名はのび太くん.そう、ドラえもんの、のび太くん.お酒はほぼ飲めない人のようでした.店の女の子と話して、カラオケ、一人で歌って、焼酎のボトルを入れるのだけど、毎日、スポイトで数滴くらいしかお酒入れない.お茶で割ったり水で割ったり、でも私たちから言わせればほぼ水の飲み物をちびちび飲むだけでした.ボトル自分ではのまなくて、ほとんど店のマスターとか、ママが飲んで、3、4回来店しただけなのにすぐにボトルからになって.また新しい、ボトルを入れる、みたいなことを繰り返していました.マイク握ったらなかなか離さないこと以外は、喧嘩したり、怒ったりしないし、支払いはその日ごとにちゃんと払って、あと女の子のお尻触ったり、セクハラもしないから悪いお客ではなかったと思う.

 仕事とか何をしている人かは正体不明、という感じだった.「お仕事は?」と聞いても「さあ、分類するとどうなるのかな、私の職業って?サービス業?技術者?あ、でも公務員かも、でもいったいなんだろね」という感じで、よくわからない.服装は、背広を着てきたことが一回もないから、サラリーマンとか営業でななさそう.いつも、あまりおしゃれでないカッコだった.どうかするとズボンのポケットの脇が破れていることさえあった.流石にお尻に穴が空いていることはなかったけど.本人はそういうことには全く無頓着で、指先を見ると、なんか綺麗な手で、爪はいつも綺麗に切ってある、お箸使う手を見ても、グラス持つ手を見ても、なんとなく手先は器用な感じ.時々、自分のポケットのボールペン持ってクルクル回したりしていた.それも時計回り、逆回し自由自在だ.

「へーと思ってみていると、今度はマドラーを取り出して、あ、マドラーわかります?」

社長は「もちろん、あ、その、それくらいは知っておりますほほほ、」と誤魔化した.その道は元プロであったことは、社長は黙っていた.

「マドラーとって、くるくる回し始めるから、あれ、落とすとめんどくさいかも、でもまあ、落としたら新しいの出せばいいだけだから、別に問題はないのだけど、でも、一回も落としたことがなかったのです、手先の器用な人だなと思いました.」服の匂いを嗅いでみたけど、香水の匂いなんかしたことはないラベンダーとかいろんな香水の匂いさせる客のこと馬鹿にして、「便所か?」とか小声で悪態垂れていたことが、ほんの数回あったくらい.でも、香水の匂いは嫌いみたいでした.油とか、鉄粉の匂いもない.私みたいに、半導体工場で働いているとわかるのだけど、フォトレジストとか、洗浄剤の匂いもなくて、あれ、ちょっと洗浄剤の匂いかなと思ったら、自分の匂いだったり.匂いでもなんの仕事をしている人かわからないの.


 それでも、ある時、少し遅めの時間に来た時、ふと、袖のあたりを嗅いだら、なんか血のような臭いがしたから冗談で、

「わかった、のび太くんの仕事、殺し屋?」

「あれ、なんでわかった」

「あなたには血の臭いがする」

「あれ、よくわかったね、シャワーでよく洗ってきたのにな、そうか、血の臭い残ってたか、そう、お察しの通り、私の仕事は殺し屋です.仕事帰りでここに寄りました」と真面目な顔いうもんだからその日の詮索でそれで終わったらしい.


 ある時、のび太くんに、電話がかかってきて、話をしにドアの向こうのほうに行ったの.「何かの指示をするような話をしていた」それで席に戻ってから、それほど慌てた感じでなくて、「なんかあったの?」と聞いても「いや別に」と話していただけだったけど、私ピンときたの.

「のび太くん、あなたお医者さんなの?」あの人は、否定も肯定もしなくて、曖昧にうんうん頷いているだけでした.


 私、途中で直江津のお店をやめて、春日山っていう駅からちょっと離れたところにあるお店に移ったんです.すごく不便な場所だったのに、何回かきてくれました.私たちにしてみたら、「いいお客?」支払いはつけにしないし、暴れないし、壊さないし、喧嘩もしない.歌は歌うけど、まあそれは下手じゃないから迷惑ではない.お年寄りよりのご夫婦でこられているお客様なんかは、彼が歌うとダンスを始めたりなんかして、まあ店の雰囲気作りに貢献はしていてくれたかもしれないななんて思えるところもある.怒らないし、やきもち妬くわけでもない.私が他のお客について、なかなか相手してあげられない時も、一人で文句言わないで待っていてくれる.お店のマスターは、隣の割烹の亭主で、奥さんがママ.亭主とママも彼のこと気に入ってくれてました.私も、彼も2月が誕生日だったら、今度連れてきなよ、一緒に誕生会してあげる、なんてほんとお客さんとしては、特別待遇で.亭主もママも私のこと可愛がってくれていたからかもしれないけど、私も嬉しかったのだけどね.彼に言っても、「ふーん」っていい加減な返事しかなくて、来るのか、来ないのかよくわからなかった.ある時携帯のメールで、「引っ越すことにした」なんて言ってきて、それから全くお店に来なくなったの.新潟から、東京か神奈川に引っ越すみたいでした.携帯のメールもいつの間にか来なくなって、それきりになっていました.


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