巫(かんなぎ)、精霊と人との仲介者①「母のない娘」
今日は珍しい顔ぶれで、談笑中である.別館の居間での話である.
アテナとはるなと、愛染の母ちゃん、そう、今では結婚相談所の創業者兼、女社長である、アフロディーテである.
はるなはアテナに聞いてみた.お嫁に行くならどんな人のところ?と
アテナは笑い飛ばしていう.
「知恵があって、つまり、物事を理解する力があって、真理を見抜く力があって、判断と決断ができる、そして勇気があって、弱きを助ける男気があって、欲望とか、感情のバランスが取れていて、正義を愛する人、つまり、善悪の区別のちゃんとついて、秩序を守る、て感じかな.あとは臆病者は嫌だけど、でも猪突猛進でめちゃくちゃするやつはダメ、まあ中間くらいって感じかな」
ここで珍しく、アフロディーテの解説が入る.
「それはね、私たちの国の哲学者で、プラトンっていう人が、備えなければいけない、四つの徳として、知恵、勇気、節操、正義を上げたの.それに加えて、アリストテレスって学者が、中庸の徳をあげたの.そのこと言ってるのんでしょ?」
「まあそうかもね、私たち、なんかそういうの普通に教えられたよね.だって、節操のない代表みたいなアフロディーテの愛染母ちゃんが知ってるくらいだもんね、ははは」
「まあ、失礼な!」愛染の母ちゃんが少し機嫌を損ねた.
「アテナは、結構、ハードル高いね」はるなは思う.まあそうだろうな.アテナに釣り合う男の人はそうそういないかもしれない.はるなは色々聞いてみた.
「見た目とかはこだわりあるの?」
「まあ、年取ってからうちの親父みたいな感じになりそうならいいかな」
「ふーん、ちょい悪風か」
「でもね、私、親父の頭から生まれたからさ、さっきの四つの徳目、知恵、勇気、節操、正義、それと中庸なんて、いいところ全部親父から持ってきたってわけで、だからうちの親父、性格とかやる気とか、あんな感じになったんだと思う、これは笑える話だろ、はははは」
そうか、ルシフェルのいいところは、全部アテナが持ってきてしまったというわけな、なんとなくこの説明は、説得力がある、とはるなは思った.それじゃ、ルシフェルはアテナが生まれる前は、こんな感じでハキハキ、チャキチャキしていたのだろうか?それも信じ難いのだが.
「じゃさ、見た目がドクトルみたいで、性格もボートした感じの人は、でも気が利いてる、みたいな」
「ははは、ドクトルはないない、だからはるな、安心しな」
「え、いやそんなつもりで聞いたわけじゃ・・・」はるなはちょっとしどろもどろになった.恥ずかしかった.
「私は結婚は多分しないさ、釣り合う男なんていなさそうだしね.それにさ、私が結婚したら、あの極道親父の面倒、誰が見るのさ、愛染の母ちゃんには任せておけないしね.まあ程よくボケをかまして、それを本人がわかってやってれば大したもんだけどね、やる気がないくせに、節操がない、自分の欲望優先、善悪の区別、ついてるのかついてないのか怪しい、あんな爺さんの介護、それは私にしかできないことだと思うね、ははは」と、女社長の方を向いて、ウインクしてみた.社長は慌てて目を逸らして、お茶を飲んだら、「あちゃちゃ、」とこぼしてしまった.ルシフェルと、アフロディーテができていたという神話はない.それをアテナはよく知っている.せいぜい、膝枕に耳かき程度の関係である.アフロティーテ、彼女にも、母はいない.
「お父さん、家にはずっと帰ってないみたいだし、ヘラの母さん、いつも私に文句言うから困るんだけどね、おや、こういうの、徘徊っていうのかね、ははは」
「ヘパさんなんかは?」気を取り直して、はるなは聞いてみた.
「え、へぱの親方?あれもまあ親父みたいなもんだからね、育てのね.それに、私を取り上げてくれた、産婆さんだ、頭を痛めで一生懸命私を産んでる親父の担当のね.ははは、それにね、あの人は、正真正銘、愛染母ちゃんの元亭主だ、あはははは」アテナは、ルシフェルをそのまま、女子高生にのりうるらせたらこんな感じになるのではないか思うような、話し方をする.
「父子家庭の女の子、皆こんな感じなのだろうか」
「はるなも父子家庭だろ、だから、まあ一概には言えないと思うね」愛染母ちゃんがいう.
「それもそうか」はるなも父子家庭だったのだ.お母さんは子供の頃に病気で亡くなった.はるなはお母さんとの思い出はあまりない.
そこに、愛染結婚相談所の、営業本部長兼副社長の、愛染謝一郎が入ってきた.
「社長、新しいお客様です」なんのことはない、背が伸びてちょっとかっこよくなった、キューピーだ.アテナも、はるなも立派になったこの、弟分みたいな若者を惚れ惚れと見る.しかし、恋愛とかそういう対象でないことは明らかだ.
母はいう.「わかりました、すぐに参ります」女社長の貫禄は十分過ぎるほどである.
会社の事務所は、別館の一区画を使わせてもらっている.会社の事務所にするくらいの部屋はこの屋敷にはいくらでもある.長い廊下を歩いて会社の事務所に行く.応接室には、若い女性が座っていた.若く見えるが年は35歳だと言う.少し疲れた感じがするが気のせいかもしれない.整った顔の美人さんである.
「私、新井静香と言います.去年、新潟県から引っ越してきました.昼間は、半導体工場で働いて、夜は飲み屋でバイトしてました.こっちに引っ越してからも同じような仕事をしてます.私これが一番慣れた仕事だから」詳しく話を聞くと、彼女は新潟県上越の妙高高原の麓の町で生まれたそうだ.妙高山は標高2000m以上あるだろうか、結構高い山だ.スキー場がいくつもある.有名なスキー選手が何人も出ているらしい.中学生の時に病気でお母さんを亡くしたらしい.高校を出てからは、工場で働いて、夜は、バイトでスナックで働いていた.
「この前、偶然見かけたんです、私、初恋の人に」社長と営業部長は顔を見合わせた.
「私、知ってるんです、副社長、あなた、キューピーなんでしょ」
「え!」
「ぐっえ!」
愛染親子は同時にのけぞりそうになったのだが、できるだけ平静を装って社長が詳しい事情を尋ねた.
「事情を話していだたけますか」
「私、上越の直江津という町で夜はスナックのバイトをしてました.」
「ふむふむ」社長が聞き、質問して、隣で副社長がメモを取る.録音してもいいですか、など無粋は言わない、そんなもん、ダメにきまっとろうが!とルシフェルはいいそうである.
「私、家で、お花の鉢植え、育ててるんです.雪割草、って知ってます?」
二人は、改めて、「え!」である.
「新潟県とか群馬県、長野県には山の中に入ると生えてるんですよ.勝手に取ったらダメみたいなんでみんな農協の即売所、みたいなところで買ってきたんですけどね」
「私には、なんか、お花たちが話ししているような声が聞こえちゃうんですよね.いつからかは覚えてないのですけど.」
話をまとめるとこういうことらしい.
「バイトで、スナックで夜の仕事、お客さんの中に一人好きな人がいて、いや、好きだということはいなくなって気がついた、それで、その人突然店に来なくなって、居ても立っても居られない、それで、あ、これが好きということか、と気がついた」と言うことである.アフロディーテも、キューピーも顔を見合わせて、「あるある」と頷き合った.恋愛事情に関してはこの親子はプロである.
静香は、あまりのモヤモヤ、喪失感、寂しさに、ぐちまじりに雪割たちに相談してみた.
「私の好きなあの人はどこに言ってしまったの?」
風がそよぐ音、遠くで鈴が鳴るような音、子供の小さな子がが教えてくれる.
「ドクトル、僕たちのお父さんだよ、はるなのうちに来るよ」、とか言ってみるみたいなんですよ
「私はどうすればいい?」
「愛染の母さんと、キュピーなら」
「キューピーなら、この頃百発、百中だし」
「キューピーこの頃百発、百中」・・・・・・・・
合唱のように、それぞれの意見を言っているようだった.
「私、矢も盾もたまらず、って言うのか、なんかじっとしてられなくて、新潟から東京に越してきたってとこでしょうか・・・」
なんと話を詳しく聞いてみると、彼女の好きな人というのはどうやらドクトルのようである.彼女のバイト先のスナックにドクトルが頻繁に通っていたらしいのである.
「へえ」と社長が感心する.「あのドクトルが、ねえ・・・」
「あのドクトルを、ねえ・・・」キューピーも同意する.
神々は皆、はるながドクトルのことを大好きだということは公然の秘密のよう知っている.好きらしいではない、好きであるということを知っている.あれだけ心の声のはっきりしている子だから.はるなの心の中にはドクトル以外の男が現れることはないくらいに彼女はドクトルのことが好きだった.
「どこがいいのかね?」かつて、キューピーはドクトルがライバルだったが、成長するに従って、譲る気持ちになっていた.その代わり彼には今新しい恋人が、現実的な形で一人、いる.まあそれはこの際どうでもいいかもしれない.キューピーの新しい恋人はまたそのうちにみんなには教える.




