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海丸列伝②「海の怪物、リバイアサン」


 はるなが家にかえってみるとなかがなにやらさわがしい. どたどたと大勢が走りまわるような音と時々キューピットの悲鳴, さらに,なにやらばきゅん,ばきゅんというテレビでみる銃撃戦のようなおとがきこえてくる. また子ども神様たち戦争ごっこでもしてあそんでるのね,とのんびりしたはるながドアをあけると, なんと,室内の惨状は目を覆うばかりである.部屋の中にほした洗濯ものは床におち,家具は倒れ, 本棚の本もあちこちに散乱している.恐る恐る自分の部屋を覗き込むと,キューピットが必死の形相でにげまわっている. 追いかけるのは海丸だ.海丸は金太郎さんのような髪型で雛人形の五人囃子のようなかわいらしい顔なのだが, 目だけが吊り上っている.ぽっちゃりと白い顔がうっすらと紅潮しているようにみえる.しかも.口元は薄気味悪く微笑んでいる. これは絶対に子供の微笑みではない.殺し屋か,獲物を追いつめてにんまりしている狩人のサディスティックで不敵で不気味な笑いである. はるなをみつけるとキューピットがしがみついてきた,はるなをたてにかくれようとする.そのときは 一時的にばきゅん、ばきゅんというおとはしない.海丸はおいかけてくる.

「どうしたの?」

「はるな,そいつをこっちにわたしてもらおうか」 海丸がおとなのような太くどすの利いた声でいう.

「いったいどうしたの?なななな、何のさわぎ,これは」 さすがにのんびりやのはるなも状況がただごとではないことは理屈抜きで体感してかなり狼狽している.

「あのね,海丸君の読んでる大事な本にふざけててうっかりジュースをこぼしてよごしちゃったの」

「お前は神聖な書物を汚した.よって罰をあたえる,さ~そこになおれ,神妙にしろ」

「ひえー!」 キューピットを追いかけながら海丸が両手の指を広げてキューピットに向けて伸ばすとなにやら 水のような光のようなすじがでて,ばきゅんというピストルの効果音がきこえる.そのたびに キューピットは必死によける.するとその噴射物は壁にあたり,小さく深い穴があく. 「ばきゅん,ばきゅん」まるで銃弾のようなおとをたててその光る水がキューピットをおいかえてくる. 追いつめられたキューピットがはるなの化粧鏡の前にたった.ばきゅんとおとがしてとっさにキューピットが頭をさげると ぷすっという鈍い音と,パリッという高調音が同時に聞こえるともに鏡には銃痕のような穴があく. しかしピストルの弾のように放射状のひびははいらず中心の穴だけが深く黒く口をあける. その噴射物は銃弾よりも速い速度で鏡を貫通したということになる. なおも海丸の追及の手をゆるめない.執拗にキューピットに銃撃を浴びせる. 神様とは言え両手の指は合計10本である.そのそれぞれの先端から発せられるので弾痕はいっぺんに10個できるという理屈だ. 追いつめられたキューピットはその翼で飛翔し,応戦しようと,矢を弓にかけたとき,海丸の左手から発射された, 弾丸の一筋がキューピットの金色の巻毛を引きちぎり,一筋が右のほほに赤い傷をつけ, 一筋はむき出しの右肩をかすめ,さらに一筋が弓にあたりカチンという音を発し, さらに一筋がキューピットの体の脇をとおって部屋のドアの方にむかった. そこにちょうど鬼丸老人がかえってきた.

「いったいどうしたんだ?」 さすがの鬼丸も部屋のただならぬ様子にびっくりしたようだった.

「るしおじさん,助けて」

「キューピーまたなんかいたずらしたんだろ」

「でもリバイアサンこんなにおこるなんておもってなかったから」

「あ,それいったら」鬼丸が急にあわてたような声をだす.

「なに,リバイアサンって」 いつもののんびりした調子にもどったはるなに ルシフェルがするどくいった

「あ,それをいっちゃだめ,リバイアサンって3度いったら...あ、言っちゃった」 と言いつつうっかり鬼丸もそうさけんでしまった.


「私の名を三度となえたな!」 海丸の声が別の声になる.激しい海なりか、地の底から響くような声である.


「しまった!」鬼丸がいう. 「封印がとける!」


「わが名はリバイアサン,七つの海の支配者」 室内から舞台はいつの間にが屋外になっている 空はにわかにかき曇り,稲妻が光はじめたかとおもうとものすごい大雨になった みるみるあたりは大荒れの海原にかわり,さらに何本もの水柱が雨雲にむかってのぼりはじめる 稚児姿の海丸の体が青白くすけてきたとおもうや,大音響とともに,ひときわ大きく高い水柱があがり, 巨大な龍がそこにあらわれた. あたりは大しけの海.激しい雷雨と強風のなか キューピーと,いつのまにか大天使の姿に変わった鬼丸とが 空中に避難して,海中をのたうちまわり,嵐の中をくるったように 飛び回っているリバイアサンをみまもっている .海丸が指から放ったてキューピットにおそいかかったと同じ水の弾丸を 巨大な龍は口からはきだし,つぎつぎと海面上にでている陸地を 破壊して海の底にしずめていく.陸がひとつ消えるごとに激しい地鳴りが聞こえる.海中にあっては大波を引き起こし, 空をまうと暴風雨がさらに強くなる. はるなは鬼丸のてのひらの上にいる いまだになにがおこったのかわからない

「いったいなんなのこれは」

「いやね,リバイアサンはおれたちの 仲間の堕天使のひとつさ.普段はそうでもないんだが, きれるとどうにもてがつけられね,そいでもって,おれたち、相談して あの金太郎みたいな子どものカッコに封印したってわけさ」

「封印って,ルシフェル、ちょっと呪文が簡単すぎない? 3回名前よんだだけでとけちゃうって、意味ないでしょ.銀行の暗証 番号よりかんたんじゃないの!まったく, あなたたち神様のセキュリティ感覚ってどうなってるのよ!」

「まあ,そういう意見もあるけどな.何万年も大丈夫だったんだけどよ.簡単な呪文、言ってみれば、俺たちの、洒落だ、しゃれ.」 ルシフェルはこういう危機的なごたごたした状況になると変におちついた 江戸っ子のおっちゃんみたいな話かたになる.

「まあこの状況はなんとかしなくちゃなんねな」 あくまでも冷静に、荒れ狂うリバイアサンをみおろしていた. 海面下からうかびあがるときに空中のルシフェルたちをみつけた リバイアサンは水の砲弾をあびせかけてくる.ルシフェルとキューピットは 空中を右往左往しながらにげまわる.その間を龍がわってはいるように とびかかってくる. 「おお,」とるしふぇるが右にさけ, 「うわ,」とキューピットが上に逃げる 「きゃーなんとかしてー」とはるなはかな切り声の悲鳴をあげる.

「しょうがねえな,キューピーよ おめちょっとその弓矢一発ぶちこんでみな」

「でもおじさん,僕、自信ないよ,ああ,こんなに強い風吹いてるし 水しぶきもあ.ひえ」 矢をつがえて弓をかまえても狙いをさだめるどころでない

「いいから一発きめてみな,おめ、男だろ」

「だだだ、だってそんなこといったってふだんから ねらったとこにほとんどあたらないのに,こんな状況,あぷ」 大きな水柱が空高く上がってキューピットの顔にざんぶとかかる.

「ほーれ、いけって、なにぐずぐずしてんで,このがきはよ,さっさとやれって」 「ぼくしらない」ほとんどめくらうちでキューピットは金の矢を放った. 矢はリバイアサンの近くにとぶが,当たらずに海中にきえた.

「ちぇ,やっぱりだめか」 ルシフェルは相変わらず落ち着いている .そして手のひらの上にいるはるなの方をみて 、にやりとうすきみわるくわらった.

「はるな,おれたちともだちだよな」

「え?でもそれほど仲いい、ってほどでは・・・」

「いやいや、おめえがいろいろ悩んだり、困っている時、思い出してみな、おれらが近くにいると何かと心強かったろ?」

「あの,そんなことあまりおもったこと・・」 そう、だいたい出会ってからこの方、はるながルシフェルのお世話をしたことしか思い浮かばない.

(破れた服の代わりに、大事なお父さんの背広を貸してあげた、それも破かれた)

(病院の受診の仕方教えてあげた.ドクトルのこと教えてあげた.)

(家に泊めてあげたし、いつもご飯を食べさせてあげている)

これまでの記憶が、走馬灯のように、流れる.しかし、ルシフェルに世話になった思い出はどこにも出てこない.もう一度早送りで、記憶を辿ってみた、

(あ、そうか頭痛い時に、肩こりの軟膏塗ってあげたか、それに肩揉んであげたっけ・・)

「よーし,きまった.いまここで恩返ししてくれ. 友達がこまってるときはお互いさまだ,な. なんとかおれたちをたすけてくれ.」

「え,え,なに,何をどうするの,」 ルシフェルは海面のリバイアサンに向かって大声で 叫ぶ.

「ほら,リバイアサン,おめえの好きな美しい処女の娘だ,いけにえにくれてやっから,あじわってくいな」

「え,なに,いけにえって,わたしをどうしようと」

「ほらよっと」ルシフェルは手のひらのはるなをリバイアサンに むかってほうりだした

「いやだめ、いけにえなんて,だいたいわたし処女じゃなくて,あの、やめて・・・」 高い空から,リバイアサンが大きな口を開いて待ち構える海面にむかって はるなは

「ぎゃ~~」という悲鳴をあげておちていった.


この騒ぎを聞きつけたポセイドンがやってきた.

「くうぉっらー!!」と叫んだ.全ての大地と海を震わす怒鳴り声である.ポセイドンは海の神であり、地震の神なのだ.


暴風雨は突如やんで、リバイアサンはもとの姿に戻った.

はるなは気を失ったままである.


その後、海丸くんは、お父さんにみっちり叱られたのは言うまでもない.


 結構、ポセイドン親父の説教は厳しい.こんな説教をされたら、しゅんとするだろう.どんな不良息子でもだ.優等生の海丸くんにはなおさらのこと、こたえたと思われる.


「感情に任せて暴れちゃダメだって、いつも言ってるよな.お前には、私に次ぐ、あるいは私をも凌ぐほどの強大な力がある.お前はまだ気が付いていないかもしれないがな.だが、今のような使い方はダメだ、全然ダメだ、全くなっていない.まだまだ修行が足りない.人を知り、心を磨くということは、その無限の力を正しく使うために必要な条件だ.心の修行をおろそかにするなら、この人間世界の留学は無しにする.どうだ、留学、続けたいか?心の修行できるか?」

「できます、ステュクス川に誓って!この世界での勉強は、是非続けたい!人の心のこと、もっと知りたい!」

海丸くんはキッパリ答えた.

「よーし、それでこそ俺の息子だ.今回はこれで許す.ステュクス川に誓ったこと、決して忘れるな.」

「はい」

あれだけ大暴れした海丸くんが、いつもよりさらに小さくなって、お父さんのお説教を聞いていた.


はあーい、この話はここまで、以上終わり.


いや、待って、物語って、なんか教訓とか、言い伝えとか、あるもんでしょ?

はい、今のお話に、そういうものは一切ございません.作者の口から出まかせで、深い意味などありません.


いやいやそこをなんとか、教訓を少しくらいは・・・・


しょうがない、では教訓を

1.普段おとなしい人は決して怒らせてはいけない.

2.神々のセキュリティー感覚は至っておおらか、つまり緩い.うっかり個人情報教えると、みんなにバラされる.パスワードの共有などもってのほか.

3.悪霊とか、お化けとか怪物を封印するときはくれぐれもむづかしめの呪文で.

4. 地震、雷、火事、親父.この世の怖いものである.ポセイドンはこのうち二つに当てはまる.忘れたかい、ポセイドンが海丸くんのお父さんだ.でも結構このお父さん、いいこと言うね.


そして、これが、一番大事な教訓かもしれない、

5. 恩を仇で返すべからず.別の表現で言えば、「友達は大切に扱おう」、である.


 あ、あとですね、ステュクス川の誓いというのはですね、オリンポスの神々、一度ステュクス川に誓いを立てたら、絶対に守らないとダメ、というそういう誓いのことです.よかったら調べてみてくださーい.


以上です.


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