病魔の試練④「その後の愛ちゃん.(みんなの未来を見たい人だけ読んでください)」
病理組織の診断が確定した.その後数回、所定の化学療法を行い、3歳を過ぎてから照射治療を行い、さらに数回の化学療法をおこなった.この病気は10年再発がなければその後の再発死亡はほぼないと言われている.
「お前ら、愛ちゃんがどうなったか知りたいか?うー?」とルシフェルが勿体を付ける.ここから下を覗くと、過去から未来の出来事が見れるんだけど、見たいか?うー、あ、でも時間を超えて何があったか見たら本当はダメなんだけどなー」
ルシフェルはさんざんに勿体ぶる.
「もう、いいからみせて!」まずはるながルシフェルを押し退けて通る.ドクトルが続く.愛染親子にケツを蹴られて、アテナと四天王に突き飛ばされて、アポロとアルテミスに押し倒された、そして最後にルシフェルはヘラ様に踏みつけられた.
下を見下ろすと、広大な時間の扉が開いている.遠くに、12年後の愛ちゃんと、健ちゃんがみえる.
「病院かな?」
「あ、健ちゃんの家だ・・・」
目を凝らすと、誰かいる.耳を澄ますと話し声が聞こえる.
「もう、お兄ちゃん、早くして、病院の診察遅れちゃう」
「あ、ちょっと待って、ご飯まだだし、後、歯磨きも・・・」健ちゃんはまだパジャマのままだった.
愛ちゃんは高校生になっている.
「もう、お兄ちゃん、先行ってるよ、絶対来てよ、待ってるからね」
愛ちゃんは先に家を出て行ってしまった.お父さんの病院で今日は検査と診察の予定である.所定の治療が終わって、10年以上再発がない.今日の検査が問題なかったら治癒ということになるらしい.
春の風がそよぐ.鈴の音のような、囁くような声.
「愛ちゃん、行っちゃったね・・・」
「愛ちゃん慌てて行っちゃった・・・」
「僕たち、のお水・・・」
「健ちゃん、お兄ちゃんなんだから代わりにお願いね」
「健ちゃん代わりにお願いね」
「しょうがないな」健ちゃんが雪たちに水をやる.光の調節をしてやる.
今日の雪割草の世話の当番は、愛ちゃんだったのだが、病院の診察のために慌てて出かけて行ってしまった.雪割草の鉢植えはもういくつになるだろう?はるなやドクトルからもらった鉢が、増えて、春に取れた、新しい種をまた鉢に植えたのが育って、ということで、今では、広い部屋が、鉢でいっぱいになっている.
子供の頃から彼らには兄妹二人、励まされたり、勇気をもらったり、寂しさを慰めてもらったり世話になったのだ.兄と妹は毎日交代で世話をすることになってからどれくらいになるだろう.
今日は愛ちゃんの最後の診察日となるはずである.MRIの撮影にはお父さんとドクトルが見守っている.3歳になる前の時と同じ光景だ.パパは病院の院長先生になっている.ドクトルは相変わらず、偉くなっていないようだった.健ちゃんは、遅れてきた.息が荒い.走ってきたらしい.愛ちゃんとお母さんは診察室で座って待っていた.
「愛ちゃん、雪の水やり、今日、愛ちゃんの番」お兄ちゃんは息を切らせていう.
「あ、そうだった、てへ」別に愛ちゃんは悪びれない.
診察室でお父さんの説明を受ける.MRIを見せられても愛ちゃんにはよくわからない.
「愛ちゃん、今日のMRI,再発はなかった.おめでとう、病気は治ったと考えて良い.今日でお父さんの診察は終わりです.」
「やった」健ちゃんは、拳を振り上げる.彼はもう大学一年生である.今年の春に、医学部に入った.お父さんと同じ道を歩くことにしたのだ.
愛ちゃんには実感がない.でもお父さんと病院の診察室で会えなくなるのはちょっと寂しい気もした.家ではもちろん顔を合わせるのに、あ、そうかお父さん、うちにはあまり帰ってこないんだった.すると実際お父さんに会えることは少なくなるのかもしれないな、などと考える.
二人で、病院の玄関を出ると、花束を持った、海丸くんが、待っていた.
「おめでとう、愛ちゃん」
「海ちゃん、ありがとう」
何のことはない、二人はとうの昔に幼い恋を成就させていた.
海丸くんは今年医学部を卒業の予定である.ドクトルや、ルシフェルの影響はあまりないかもしれない.一番の目標は愛ちゃんパパだった.強烈な影響を受け、そして、ある種のライバル意識から、医者を目指した.もちろん今後は脳神経外科医になるつもりである.愛ちゃんと、海丸くんこと「海丸一学」の交際は皆の公認である.
それから、数年後、ペルセポネの春祭りに合わせて、ひと組の結婚式が「別館」で行われていた.愛ちゃんは、「海丸愛子」になった.結婚と家庭を司る、ヘラの祭壇には女神ご本人が降臨あそばしたことはもちろんである.人の子として、最もこの女神に愛された、彼女の結婚生活が幸せであったことは言うまでもない.
「それからのことも知りたいか?うー」
皆がまたわっと、ルシフェルを押し退けた.時間の窓の周りをぐるりと取り囲んだ.俺にも見せて、とルシフェルが覗こうとするが、彼が入れる隙間はない.輪の中に入れてもらえない.
「ちぇ、本当は愛ちゃんの初恋の人は俺なんだぜ、なあ、雪たちよ」
雪割の精霊たちは珍しくおとなしい.風が吹いてもサラ、ともフラともしないのだった.
「・・・・・」
「・・・・・・」
「なんだい、お前たちまで、この親不孝者!」
海丸くんは、愛ちゃんだけを愛した.
愛ちゃんは、海丸くんだけを愛した.
神々の、王と王妃の長きに渡った「夫婦戦争」はここに集結した.女王、ヘラの完全勝利である.
ヘラとアルテミス、そのほかの多くの神々に愛され、その加護を受け続け、多くの子供、孫、ひ孫の顔まで見て、触れて、最後は皆に囲まれて、海丸愛子さんは天寿を全うした.
海丸くんは、神々の一人なので、愛する妻と一緒には逝けない.ポセイドンはじめ、親戚一同に相談の上、愛ちゃんを神々の一人としてもらった.皆を見守り、そして見守られ、二人はいつまでも、仲良く暮らしたそうです.




