はるなの家にて
ルシフェルは、公園でしばらく失神していたらしい.目を開けるとはるなが、ちょっと心配そうに見下ろしている.体の上には、なんかキレのようなものがかかっている.
「そんなカッコじゃ、街の中歩けないし、私の家には亡くなったお父さんの服が残っているからくる?でも変なことしたらまたビンタくらわせるからね」と、結構厳しい条件ではあるが、はるなの家にお邪魔することになった.
一戸建て、というらしい.広大な庭と、家屋である.御屋敷とはこういう家のことを言うのかもしれない.家族は皆さん亡くなって、一人で暮らすには広すぎる家に彼女は住んでいた.お父さんとさらにその先代のお爺さんの部屋もそのまま残っているらしい.はるなの亡き父上の背広を借りて、着てみたルシフェルはなかなかの紳士に変身である.
「おや、この背広・・・」(なんだろう、この懐かしさは?)
父上の部屋を見渡すと本棚には医学書やら歴史、言語学やら宗教の本がたくさん置いてあった.
はるなは部屋の案内をしながら色々と父親のことを話してくれる.
「これみんなお父さんの本なんだけど.お父さん病気で亡くなってそのままにしてある.一部はおじいちゃんの本も残っているの」
「これはね、高校の数学の参考書なんだけど、お父さんが年取ってから買って毎日問題といてたの.」古がみが積み上げてある.
「ほら、これみんな、封筒をばらして計算用紙にして使っていたの.日付と問題の番号書いてあるでしょ.みんな捨てずに取ってあるんだ.お父さんも書いた計算の紙、全然捨てなかったから、ほらこんなにいっぱいになっちゃった.思い出だから私も捨てられなくて、そのまま残してあるの.」
封筒と、計算用紙の紙がいっぱい詰まった段ボール箱がいくつも床に転がっている.しかし雑然とではなくて、整理されたファイルのようだった.
(なんと、この子は、お前の娘だったのか!)
「おじいちゃんもお父さんも医者だったの.お父さんは勉強好きだったから、別におじいちゃんにうるさく言われなくてもお医者さんになって、小さい頃、私が物心ついてから、大人になるまで、家にいるときはお父さんいつも勉強してた.本読んだり、なんか書いたり.夜とか眠れなくて部屋のドア開けて、覗き込むとそうだったな.でね、こっそり忍び込んで、お父さんの机の下に潜り込んでいると、お父さん気がつかないの、で私が、わって驚かしたらやっと気がついて、なんだ、はるな、いたのかなんて初めて私に気がついて、それから部屋追い出されたりはしないで、膝の上に乗っけてくれて、そして私は本見ても珍紛漢紛だったから、本とお父さんの顔見比べていただけだけどね.」
「へー親父のこと好きな子供もいるんだな・・」しみじみルシフェルはいう.
「俺なんか親父とはいっつも喧嘩ばっかりしていたよ」
「そうだったね」その辺の経緯は、さっき公園で聞いた.
「俺の親がはるなの親父さんみたいだったら、きっと天界巻き込んでの大戦争、なかったろうね」
「どういうこと?」
「大体、オメーの親父さんみたいなやつとどうやって喧嘩しろっていうんさね」
(お父さんとルシフェルは知り合い?)
謎が謎を呼び、物語は混迷を始める、のか?詳しいことは、今はまだ、ルシフェルにしか、わからない.
はるなの父の書斎で、いろいろ話をした後、真面目な顔をしてルシフェルが尋ねた.
「なあ、はるな、おめえ、人間の医者で俺たち、精霊と話ができるようなやつ知らねえか?俺、頭の具合が悪くてよ.」
「何?頭悪いの?まあそうらしいってこと私でもわかるけど・・・」
「いやいやそういう頭がわるいとか、賢いとかじゃなくて、そのほれ、俺、頭の手術をしてもらったことがあるんだ、そこが時々痛むんだけどよ.」
「頭のことで、ルシフェルと話ができそうな先生なら.ドクトル先生かな.ちょっと変わっているけどいいかな?」
「いや多分おめえみたいな変わったやつじゃないと俺と話もできないと思う」
はるなは丁寧に受診の手順を教えてくれた.
「まず.病院に入ったら受付をします.何科にかかりたいかを書きます.でね受診の申し込み書とか書いて、その後、外来の前に行くと、いつから、どんな症状がありましたかっていう『問診票』を書くことになるの.これが受付表なんだけど、書き方の練習しとく?ルシフェルは日本の字書けるの?」
「そんなもんかけるわい、俺がこんだけ流暢な日本語喋ってるのがわからんか」
「でもね日本語って世界の言語で一番習得がむづかしいのよ、ルシフェル不良みたいで勉強苦手そうだし」
「お前、俺を誰やと思っとんね、魔界の帝王やぞ、日本語くらい、そんで自分の誕生日くらいかけるわい」実に流暢な大阪弁を話してみせた.まだ懐疑的なはるなは試しに名前と誕生日を書かせてみた.まあ日本の名前はこんな感じで、と、はるながサラサラ書いてみたのが、”鬼丸厳一郎” もちろん出鱈目、である.
「おー、立派な名前、すごく偉い人みたい」この名前、写してかけるようにして.とはるなは、半ば命令のようにいう.
「誕生日いつにする?」
「100万年前頃」
「ダメダメ、人の歴史も始まってないじゃない.例えば、昭和とか.平成、はちょっと違うか、どう見ても40歳以上にしか見えないしね、大正の人は、生きていたら、100歳以上だし、まあそれらしいので書いてみてよ.明治はだめよ、生きている人、5人しかいないっていうし.明治44年生まれ、114歳かな?」
「おしゃ」、と書いたのは「安政5年11月35日」、ダメダメ、安政っていつ、
「確か1858年」「なんやね、その年!」、とはるなも思わず関西弁で返した.
「それに11月は30日まで!」
じゃこれでどうだ「1952年(昭和27年)、2月14日、辰年生まれだ」
「おおー、何となくそれらしいじゃない、70歳過ぎくらいに、見えなくもないか.まあ、干支までは聞かれないでしょうけどね、じゃ明日私は仕事だから、ついてあげられないから、受付に同じこと書いて、どこが悪いかちゃんと書いてだすのよ.」
「はーい」
「あ、後、健康保険証、こういうの」はるなのを見せてもらった.
「なんだ、そんなの偽造しちまえば、いいだろ、」
「だめよ、私が怒られちゃう.でも、まあなんとかなるでしょう」
どうやったらなんとかなるのかよくわからないが、のちにこの問題はなんとかなったらしい.
「じゃ今日は遅いからもう寝ましょう、ってあんた私のうちに泊まるの?」
「えと、あの、まあ、そのつもりで参りましたが、それはそのようにお願いできましたら・・・俺みよりないからよ」うー、もう、オオカミ拾っててきたみたいなもんよ、まったくもう、捨てるに捨てられないじゃないのよ、ぷんぷんというようなことを言いながらはるなは、魔除けの札を部屋という部屋に貼って回った.
「じゃ、ルシフェル、あんたはこの部屋で寝て」とはるなの父の部屋で寝ることを命じられた.
「はいはい」と、魔王は大人しく従う.
はるなは部屋を出て行き、どの部屋で寝たのかはわからない
「あんたの娘さん、なかなかいい子じゃないか・・・」すでに精霊となったはるなの父と、ルシフェルはかつて、戦友と無言の会話をする.彼の雰囲気は、その部屋に満ちていた.「それにしても懐かしい・・・」
「父親の結界の中でなら流石の俺も変なことはしないだろうからよ.」1日いろいろあったので「疲れた」と言ってルシフェルも眠りについた.
はるなが一人で暮らすこの家はやがて、地獄の堕天使の溜まり場である、「万魔殿の別館」として多くの精霊たちが集うことになる.




