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ルシフェルの診察室 ②「一つの目で見るということ」


 ギリシャの神話と、日本の神話、鍛冶屋の神が片目であることが、なぜか共通している.


 日本では、

 天目一箇神あめのまひとつのかみ

 天津麻羅あまつまら

 金屋子神かなやこがみ

 が知られている.


 ギリシャでは、由緒ある単眼の巨人、キュクロープスが、ヘパイストスの元で鍛冶屋をやっている.天空神ウーラノスと大地母神ガイアの息子たちで、アルゲース(落雷)、ステロペース(電光)、ブロンテース(雷鳴)の3兄弟がよく知られる.

 死者をも生き返らせる医者は困ると、ハーデスの申し出で、ゼウスが、その雷でアスクレピオスが撃ち殺す、という事件がオリンポスであったという.雷を鍛えた鍛冶屋のキュプロープス、アスクレピオスの父親のアポロンに八つ当たり的に皆殺しにされたとか.鍛冶屋の元締めはヘパイストスなのだがこの神が、片目であったという話は伝わっていない.ただし、鍛冶屋の神は足が悪いという神話も世界各地で見られるる.ヘパイストスは確かに足が悪い.


 ホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』の第9歌に登場するキュクロープス族は、上述のキュクロープスとは大きく異なり、旅人を食らうただ粗暴なだけの怪物である。ポセイドーン神を父に持つポリュペーモスも含めて、そうであった.この巨人は鍛冶屋とはあまり関係なさそうである.


なぜ、鍛冶屋の神様が片目であったか?


 19世紀末から、アーク溶接が行われるようになってから、強い可視光線と、紫外線、赤外線の影響で、がん症状、皮膚症状が問題となることが多かったという.

目では、角膜・結膜障害、網膜障害、白内障、皮膚障害は皮膚癌、皮膚炎、皮膚の角化症が問題になった.


 可視光線の中で波長が短くてエネルギーの比較的強い、波長が約400~500nmまでの範囲は光化学的作用が強く、網膜に対して、特に高い有害性を持ちうる.この波長範囲は、眼に青く見えることから「青光(ブルーライト)」と呼ばれる.青光障害を予防するための眼鏡が特別工夫されていることはみなさんよくご存知のところであろう.

 それより以前はどうだったのだろう?神話の昔から、鍛冶屋が目を痛めるという事実があったのだろうか?


「鍛冶屋の目の症状というのはなんで起こったのでしょうね」ドクトルは疑問に思う.

「高温の光を見続けることで、目の障害が出た可能性はあるな.熱も良くなさそうだしな.後、赤く焼けた鉄の破片なんかも飛んで来ただろうしな.眩しいから、片目瞑ってたかもしれないしな.もちろん、溶接面とか、ブルーライトカットのメガネなんかなかっただろうしね」

「そういうことなのでしょうね.しかし、いつも思うのはギリシャの神話、物事の本質をよく、神様の特徴として表現できますね.普遍的な事実を、神の特性として実にうまく表している.日本とギリシャに共通の神様が多いというのも驚きですね」


「比較神学みたいな学問があると、面白いテーマかもしれないな」


「ところで、私も、片目になりかかったことがあるのですよ」ドクトルがいう.

「ほお、どんな?目の怪我かい、それとも病気かな?」


「今からもう、15年くらい前、昼間、外を歩いていると、右の目がなんか白く霞むんです.夜は、よく見えて霞が取れる.おかしいな、と思って、自分の目を鏡に写して観察してみたのです.するとなんと、レンズの中央が、マダラ状に白く濁っているのです.なんで夜はよく見えるのかな?そっか、昼日中は瞳孔が縮瞳気味になるからか、よく考えたら、そうなのですが、あまり教科書には書かれていませんよね.昼間の方が霞が強い、なんて事実は.あれ、これは白内障ではないかと思い、近くの眼科を受診したら、やはり白内障でした.そのクリニックでは、手術はしていないので、カタリンの点眼を処方するだけで、もし手術が希望であれば、然るべき病院に紹介しますので、その時はまた来てくださいとのことでした.そのクリニックを受診したのは一回きりでした.1年近くそのままにしていたのですが、いよいよ右目が見えなくなってきて、手術を受けることに決めました.右目の見え方が悪くて、一番困ったのは、手術で皮膚を縫合する時なんですよ.立体視ができないもので、縫合した傷が段違いになってしまう.何回やってもうまくいかないので.師匠の老先生には結構叱られましたよ.」

「それでどうなった?」

「カタリンで、白濁が良くなるわけありませんから、他のクリニックに行き、手術の予定立ててもらいましたよ.光軸を測る検査なんでしょうかね?眼球にプローべを当てる検査にはちょっと参りましたけどね.2回に分けて手術してもらいました.まずは見えにくい右から.翌週に左.手術の翌日にガーゼを取った時の見え方が鮮明なのには感動しました」


「手術してくれた先生の話では、私の場合は、血管撮影を頻回にして、放射線障害で、起こったか、アトピー性皮膚炎もあったから、ステロイドが原因で起こったか、どっちかだろう、ていうのです.病型的にはステイロイド性の白内障が考えられるとのことでした.顔にステロイド塗ったのが一番良くなかったか、目の上を含めて顔を頻回に掻きむしったのも良くないみたいですね」


「医者としてはいい経験だったかもね」

「そう思います.眼科の教科書には確かに書いてあるのですよ、アトピー性皮膚炎、網膜剥離やら、白内障の原因になりうるって.そんなもんかーという感じですね」


両目の白内障の術後、老眼鏡は手放せなくなったが、手術で、傷口をうまく縫えなくて師匠に怒られることは無くなったとのことである.





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