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ルシフェルの診察室にて①「二つの目で見る意味」


 今日はドクトルが手伝いに来てくれている.はるなが受付である.若先生はいない.アフロディーテは、息子が問題を起こして今日は休みである.


「今日は暇ですね」受付のはるながいう.

「そんなこと言ってると、だーと、重症の患者が押し寄せてくると言いますよ」


「あ、そうですね、黙ってます」

確かに暇で、いいことだ、と思う.世の中、病気やら、怪我という災厄を抱え込んでいる人は少なければ少ないほどいいに決まっている.そもそも医療なんて、人様の不幸につけ込む因果な商売であると、ドクトルは常々思っている.しかし、災厄を抱えた人と向き合い、その人たちの災厄による負担をちょっとでも軽くしてあげることも大事な仕事であるとも思う.とはいえ、手術をしたり、体に対して無理を強いる、いわゆる侵襲的な治療をしたりはドクトルにとってはちょっと重荷ではある.手術をたくさんして、三度の飯より手術が好き、と威張っている医者がいるのを見るとどうなんだろうかと思う.怪我とか病気の治療で、手術をするということは、自分の命を削って、その患者を治すことであるべきで、必要悪と思っている.必要な手術はするべきだろうが、何をよくするかわからない手術、あるいは手術した後に患者の症状が悪くなるというのは意味がないと思う.あまり何人も手術したら、自分の命が縮んでしまうのでは、と思っていた.あまり人には言えないことではある.


終了間際に、一人患者さんが来た.

最近物を見るときに二重に見えるという訴えだった.


大多数の人は、二つの目で物を見る.二つの目で、一つのものを少し違った方向から見る.だから立体的に見える.しかし両目の動きが左右チグハグで、二つの目で、一つのものを見ないとき、あるいはそれぞれの目が見る場所がずれるとき、「二重に見える」と言う症状が出る.


この症状を「複視」と言う.


人間の目は、正面を見て、二つの目で一つのものを見る.先に言った通りである.馬とか、キリンとかどうなんだろうか?両方の目が前を向いていないから.二つの目で、一つのものを見れないかもしれないが、二つの目でより広い範囲を見ることができそうだ.彼らの視野はどうなっているのだろうか.

二つの目で物を見るから、両方の目はそれぞれ、もう一方の目の動きと共同した動きを取る.内向きの時、鼻の頭を見るような時は、両方の目が内側を向く.人は特殊な訓練をした人でなければ、右目は右上を向いて、左目は左下を見ると言う目の動きはできないはずだ.中枢神経末梢神経はそのようにはできていない.


右目が右脇を見るときには、左目も右目の動きに合わせるように、右脇を見るように動く.しかし、このとき、右目は外転するといい、左目は内転するという.眼窩の中で、内側に向くか、外側に向くか、上を向くか下を向くかで、目の動きを表現する.


眼窩という、骨でできた窪みの中に眼球は収まっている.眼球はあらゆる方向に向きを変えるべく、上下と、内側、外側に「直筋」という比較的太い筋肉がついている.さらに、後ろから、眼球を下に向けて、さらに内側に回る機能がある、上斜筋、眼球を上に向け、外側に回す働きのある、下斜筋がある.これらの筋肉を外眼筋という.脳から出てくる末梢神経である、動眼神経、滑車神経、外転神経という三つの脳神経により動く.それぞれの脳神経は3番(III),4番(IV),6番目(VI)なので括弧内のように、ローマ数字で表現する.


 ちなみに人間の脳神経は、12番まである.医学部の解剖やら看護学科の解剖の授業では一つの山である.問題が出しやすいのである.ここでも少し触れておこうか.


(I):嗅神経、臭いを伝える感覚神経である.損傷すると臭いがわからなくなる.

(II):視神経、視覚を伝える感覚神経である.損傷すると視力視野障害が起こる.

(III)(IV )(VI):動眼神経、滑車神経、外転神経は、外眼筋の運動を支配する.III番は、外直筋以外の直筋、下斜筋、眼瞼挙筋を支配する.IV番は上斜筋、いろんな組み合わせでこれらの神経の損傷が起こると、眼球運動障害とそれによる、福祉が起こる.動眼神経には、副交感神経の成分も入っていて、瞳孔括約筋を支配している.くらいところでは、警部の交感神経節から入る、瞳孔散大筋が働いて動向は大きく開く、普段は、副交感神経の働きで、瞳孔がある程度収縮することで網膜に当たる光の量を調節している.

(V):三叉神経、顔面の感覚神経と、下顎の噛むときに働く筋肉、を支配する運動神経である.

(VII):顔面神経、表情筋を支配する運動神経である.左右どちらかの顔面神経が損傷されると、顔面が歪むという症状が出る.ひょっとこは顔面神経麻痺の患者を表現したものと言われる.

(VIII):聴神経(前庭・蝸牛神経)、蝸牛神経が損傷すると、難聴になる.あるいは損傷が軽いと耳鳴りが起こることがある.前庭神経が損傷すると、目眩が起こる.より末梢の内耳で、前庭・蝸牛が損傷しても、目眩、難聴が起こる.一番有名なところではメニエール病?あまり簡単に片付けていいものでもないが、ここではこれくらいにする.

(IX ):舌咽神経、咽頭の感覚、運動、後自律神経機能

(X):迷走神経.喉頭、特に声帯の運動神経、咽頭の感覚、その他、内臓の運動、感覚神経.混合神経と言われる.副交感神経の成分も含まれる.脳神経の中で唯一、横隔膜を超える神経である.名前の由来は「旅する神経」みたいな感じ?

(XI):副神経、おまけの神経、という意味である.本当は脊髄神経なのだが、どういうわけだが上昇志向が強くて脊髄から上に登り、、IX,Xと一緒に頸静脈高という穴から、出てくる神経である.

(XII):舌下神経、舌の運動を司る、運動神経である.下を動かす筋肉の動きはこの神経の命令で行われる.


 脳神経から出る交感神経の成分はない.脳から出る自律神経は、皆、副交感神経であるというのも、解剖の山だった気がする.


 それぞれの筋肉の運動障害、あるいは眼窩内の腫瘤等で、眼球運動の左右のチグハグが起こると、二つの目で見たときに、二重に見える、複視という症状が起こる.


 眼窩内の腫瘤のような眼科的な病気やら、甲状腺機能亢進症で、眼球が突出して、目の動きが悪くなる場合もあるのだが、複視が、III ,IV,VI番の脳神経の麻痺が原因として起こることが多いので、患者は、眼科科、脳神経外科、神経内科をかかることになる.


 どれどれ、患者様はどんな方ですか?

「糖尿病とか、高血圧はないですか?」

「ありません」

特に基礎疾患はなし、と.

「どちらを向いたときに一番、二重に見えやすいですか?」

「右の外を向いたときでしょうか・・」

「後、目の奥で、ザーザーと音がします、脈と合わせるような音です」

「ほお、」


眼球運動を見ると、右の外転障害がある.さらに眼球の結膜が少し水脹れのようにもなっている.「ケモーシスがある・・」

「ちょっと、目の上に聴診器を当ててみますね」誰かの本で、精神科の先生が、頭に聴診器を当てて非常識だ、などと批判的な記載があったのを読んだことがある.そんなことはない.聴診器で聞こえる血管雑音が診断の要になることはあるのだ.


「右の眼窩あたりに拍動性の血管雑音・・・」

緊急で、MRI/MRAをとってみた.右の内頸動脈から直接海綿静脈洞、そこから上眼静脈が描出される.


「海綿静脈洞瘻、または海綿静脈洞部の硬膜動静脈奇形による症状だと考えます」

脳血管撮影の後、血管内治療で、治すことが一般的だと思います.これから専門の病院に紹介状を書きますから、今日撮った写真と手紙を持って早めにかかってください、あ、楠本さん、予約はできますかね、

事務のはるなが予約を取ってくれた、今週中に受診できるようでよかった.




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