デメテル列伝②「春と花の女神、ペルセポネの里帰り」
ペルセポネの里帰りの時が近づいてきた.冬も終わりに近づいて、なぜか皆がウキウキ、そわそわし始める時期、かもしれない.冬が長かった時は特にそうかもしれない.
母のデメテルには、冬はいつも、長く、暗く、憂鬱である.
春、ペルセポネを迎える準備が着々と進む.「ペルセポネ祭り、迎春節」の準備実行委員の顔ぶれは以下の通りである.
委員長は、何も仕事をしないでただ偉そうにふんぞり返っているだけでいい、そう、あの人、いやあの人しかいない.もちろん、ルシフェルである.しかし、彼は兄のハーデェスと色々と冥界と地上の法手続きの打ち合わせをしなくてはいけないから何にもふんぞり返ってばかりいるわけではない.見えないところで努力するタイプなのだ.頑張っているところを人に見られることを悪魔は嫌う.人が見ているところで偉そうにしたり、遊び人ぶったり、悪い人ぶったりするのは彼の悪い癖かもしれない.
ヘスティア:企画運営会議議長、食べ物担当、メニュー選定、食材調達.総料理長.
アテナ:企画運営会議副議長、企画・総監督、警備総括担当.
ヘパイストス:会場設営・機材、照明、音響等担当.
ポセイドン:海産物提供.地震津波対策・当日の天気予報担当.
アルテミス、ヘルメス:食材調達.警備・伝達担当.
子供神様、精霊たち:飾り付けや歌、行列の先導
ドクトル&はるな:実務担当(買い出し・準備)
音楽プロデューサーはもちろん、アポロンである.彼は医務室・救護室担当でもある.これはルシフェルも分担担当することになる.アスクレピオスは、冥界の仕事でこれないらしい.よって今回は不参加である.本来の仕事があまりなくて、暇そうにしていたら、ドクトルにも救護班の仕事を手伝ってもらうことにした.
まあ、だいたいあの人は本来の仕事は暇なことが多いから.
ハーデスやペルセポネとの打ち合わせの使者は、ヘルメスである.ルシフェルや、デメテル、ヘスティアの書状を持った、彼が、忙しそうに現世と冥界の往復をする.
愛染結婚相談所の面々は、ここでも商売のために若い男女を呼び込むため、「お客様」に連絡、招待をする係である.
企画運営会議が開かれる.議長はルシフェル?いやいや、このスキャンダルまみれで、前科も多いオリンポスの次男坊では、だめだ.議長は、しっかりものでノンスキャンダルのヘスティアおばさんである.
副議長、ヘスティアおばさんがかまどの管理や厨房の仕事で忙しい時の議事進行を代行するのは、優等生のアテナである.思考が緻密で、かつ、発想が大胆で、戦略的に物事を考える、さらに、勇者に手助けを惜しまない、義理人情の人でもあるので適任である.
彼女のスローガンを知っているか?
「若者の胸に力と勇気を打ち込め!(岩波文庫 オデュッセイア319-324)」」である.
他の面々を見渡して、アテナの他に、議長の代行が務まる人がいるか?と言うことで即決である.
「まずは、日程と時間、送迎担当は、ヘルメス」アテナは、議論する前にいう.
さらに、「みなさん異議はありませんね」採決なんか取らない、すでに独裁者の風格である.しかし異議を挟む余地はない.
「異議なし」と皆が口を揃えることになる.
「それではヘルメスに、冥界との打ち合わせ、書状のやり取り、当日の行列の先導をお願いします」
「へい、ガッテンだ!」と言い終わる前にヘルメスの姿は見られなくなった.
「食材の調達については、進捗状況は?」
ポセイドンが会議に参加している.遠洋の漁がない時には、彼はこういう会には積極的に参加することにしている.息子の海丸くんにもそのように教育している.アテナとはかつて、都市国家アテネの支配権をめぐって確執があったが、とっくの昔に和解しているので、今はわだかまりなどない.
「そうだな、日本近海で3月頃が旬の海産物は・・・・」
海の神が列挙する春の海産物は、
「魚は、鯛、シラス、白魚か.マグロはまあ言ってみればどこからでも持って来れるから年中あると言えばある.冬の魚は間に合わないか.たら、アンコウ、フグ、キンメ、ヒラメは2月くらいまでだからな.カツオ、アジ、トビウオは夏だな」
「秋刀魚は・・・・」キューピーが涎を垂らしながら聞く.アテナもさんまと聞いて反応する.立場上、ガツガツできない.
「おめえ、秋刀魚なんて、秋まで待たないとだめだろ、9月か10月の魚だ.早くても8月末だな.だから秋祭りだな.それにこの頃、秋刀魚の不漁が続いているから、秋もどうなるかわからんよ」
(なんだ、秋刀魚は秋だけか、しかも不漁とは・・・・)
「でな、春先は魚以外の海産物だと、あおやぎ、赤貝、いいだこ、ヤリイカ、牡蠣.ズワイがに.たらばはちょっと間に合わないか、あとは、はまぐり、わかめにひじき、というところかね.ウニはだめだ、あれは5月以降だな」
「野菜や、果物の選定は、議長が出席の時に決めたいと思いますがよろしいですね」議長代理のアテナが確認する.色々ヘスティアおばさんに野菜や果物のことも教わってはいるものの、自分では決めかねるのだ.あ、はるなはどう思っているのだろうか?
「はるな議員はどう思いますか?野菜と果物の選定について」
「私も、ヘスティア議長がいる時に決めればいいかと思います、あとはスーパーで並んでいる安くて美味しそうなの、それでいいかと思います」
「わかりました、そのように致しましょう」
「山のものは、アルテミスとヘルメスにお願いしてもよろしいでしょうか?ただし、ヘルメスは決して他所から盗んでこないように、いいですね」
会議は食べ物のこと中心に進んで、肝腎の式次第やら、音楽、行列のことについては後回しになってしまった.
「海丸くんは、子供たちと、精霊の統括をお願いします.よろしいですか?」
「あ、はい、頑張ります.」海丸くんは自信なさそうに話す.だんだんと声が小さくなっていく.しかし彼は与えられた仕事はきっちりするタイプである.自信のなさそうな発言は、声に出る前に、いろんな問題点を高速で、整理し、ああでもない、こうでもないと考察、検討し、あらゆる事態にすでに対応可能になっているからである.
「会場、神殿の舞台の設営、照明、音響その他は、ヘパイストスの親方、さらに四天王と、海丸くんが助手」この人材配置、全く皆に異論はない.
行列を迎える曲は、ラベルのボレロ.なんとルシフェルと、ドクトルがフルートを吹くらしい.さらに楽団には、アポロンが竪琴、雪たちはコーラス、その他、海丸くんが太鼓を叩いたり、それぞれの得意のパートを担当することになった.
いたずらものの、キューピーが、議長代行のアテナに聞いてみた.
「アテナは笛を吹かないのですか?」
「私は笛なんか吹きません.」とアテナはぷいと横を向いてしまった.実は昔、彼女が得意げに笛を吹いているところをキューピーが、「ほっぺたが膨れて変な顔」と、からかったそうで、それ以来アテナは笛を捨ててしまい、吹くのもやめたとのことだ.女の子に対してなんということを言うのだ、この恋愛の仲介者は、全く.
ペルセポネの里帰りの日取りが決まった.
雪割草が咲き揃う、満月の日と決まった.
行列の出発前、ペルセポネは冥界の王、ハーデスにしばしのいとまを告げる.
「短い間でしたが、よくしていただいて、ありがとうございました.これから里に帰らせていただきます.しばしのお別れ、いつも、王様のことを思っております」
冥界での生活に慣れて、ペルセポネはすでにハーデスを夫として愛するようになっていた.
「気をつけて、姉さんや、弟たちによろしく伝えてください.詳しいことはヘルメスが取り次いでくれています」妃に対してもあくまでも紳士的な冥界の王である.
「それでは行ってまいります」
ペルセポネを乗せた輿は、ヘルメスに先導されて、冥界の門を通った.ステュクス川を超えて、地上に差し掛かった.
遠くで、風の音、鈴の音・・、子供の歌声が聞こえる.笛や太鼓の音も微かに聞こえるようだ.
耳を澄ますと、子供たちの話し声.雪たちだろうか?あの子たちは自分と似ている、といつもペルセポネは思う.ともに冬に耐えて、春を待つ「同志」と言って良い.
「ペルセポネ、おかえりなさい」
「ペルセポネ、地上は春だよ、皆が、待っていた」
「春、お帰りなさい」
「ペルセポネ、花の女神、おかえりなさい」
「春と花の女神、お帰りなさい」
輿の動きに合わせるように、妙なる音曲は、ラベルのボレロという曲だということは、後から母に聞いた.
地上に開いた、冥界の扉の向こう、沿道には、雪割草が花を咲かせ、他の多くの草花の精霊たちが埋め尽くし、彼女の里帰りを歓迎した.
脇にはヘルメスが跪いて控えている.ペルセポネが輿から降りる.ゆっくり大地を踏み締め、数歩、視線のさきに母のデメテルが待っていた.
ペルセポネは駆け寄り、母と娘は4ヶ月ぶりに抱擁を交わした.
おそらくは皆で面白おかしく騒いだ祭りであったと想像されるのだが・・・・
「エレウシスの秘儀」は、デメテルが娘のペルセポネの里帰りと、春を祝って行われる、ギリシャの三大祭の一つと言われる.見たものは口外することは許されない.だから、その詳細については、誰も知らない.




