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ギリシャ芸術の真髄「それにしても、あんなとこまでよく見てんな!」


 ルシフェルの診療所、ユダヤの王族の子供のダビデが診察を受けにきていた.


 今日の担当は若先生である.けっこう嫌味で、勉強できない、女遊びのお盛んなアポロン先生である.イケメンの代表のように言われているくせに、肝心なところで全然モテない、あのアポロン先生である.彼は過去にストーカー事件を起こしたことがある.あろうことか、嫌がる女の子が逃げ回り、「あんたと付き合うくらいなら」と、父親である川の神様に頼んで、木に変えてもらった、という信じられない事件である.アポロンは木になった彼女の葉っぱを冠にして被るような変態ぶりである.女の子の名前はダフネ、という.それを聞くと皆、いう「あーああん、なるほど・・」と月桂樹の冠が彼女の変わり果てた姿である.この話は、グロな話?感動の話?訳がわからん.私は感動しないし、こんな話で感動はできない.また、この話に何らかの教訓を見出すことのできる人がいるのなら教えて欲しい.どんな教訓を引っ張り出せばいいですか、この昔話から.私は、この逸話から何かしらの教訓めいたものをほんのかけらさえも得ることができないのだ.

 あ、そういえば、アポロンの息子のアスクレピオス先生、この先生は信頼できる、名医だと評判でのちに、医療の神は彼だとまで言われるほど有名な先生である.救急車のマーク6角形の枠の中、蛇の巻きついた杖は、「アスクレピオスの杖」として知られる.ケイロンというケンタウロスの賢者が医学の師匠である.「あ、だからか、医学は親父に教わったのではないのね」という話で皆が納得する.アスクレピオスは、誰との間の子供だったっけ?母親はコローニスだそうだが、結構エグい話なのでここでは触れない.アポロン、アルテミスの兄妹にはエグい殺戮の逸話が多いのは何故だろう.これらについてもあまり触れたくはない.おそらくはこれからも触れないが、何か歴史的な事実とか教訓が隠れているのだろうか?それとなく触れることはあるかもしれない.


 あと、これはほんとにどうかな、と思う.医学の神であると同時に占いの神様ってどういうこと?診断と治療ができないときに、「あたるも八卦、当たらぬも八卦」ってやり出すの?ちょっと危なくね?デルフォイの神託を信じる人が多かったことも、問題は大きい.背教者ユリアヌスの使者が、「もはや泉は枯れ果てた」という、神託を聞いたのが、最後というではないか.4世紀の半ば過ぎのことらしい.アポロンの占いの信頼性はもはや、ない.


さらに何、バンドマン?音楽家?ハープ奏者?いろんなことに手を出して、一体、あんたは何がしたいわけ?

ええかっこばかりして、だから医者でもモテないのだろう.


 担当ナースははアフロディーテだから、あまり滅多なことはできないのだが、

「なんか退屈だなー、お客来ないし、なんかこー可愛い女の子、頭痛いーなんてこないもんかね」とか言っている.担当ナースが睨みつける.


 ダビデが診察を受けにきた理由.問診票に書いてあるのは、昨日お風呂に入る時、鏡を見ると左の金玉の方が大きいように見えたのですが、病気でしょうか?とある.ほー、そういうこともあるのかな?「しも」のことでしかも生殖関係の話なので、普段はあまり診察に熱心でもないこの、若先生の興味を引いたようである.


 珍しく詳しい診察をした.下着を取ったダビテの陰部をみて、担当看護師は「まあー」と声を上げてほおちょっとあからめた.感情のこもった仕草、表情は珍しいのかといえばそうでもない.男がパンツを脱ぐときはだいたい同じ反応である.


 精巣腫瘍は、セミノーマが多いのだっけ、でも腫瘍・腫瘤というわけでもなさそうだな、ふむふむ圧痛もなしだし、皮膚の色調の変化もなし.水が溜まっている感じもなしか.ちょっと親父に聞いてみるか、

「なあ、おやじ」

「院長先生と呼べと言ってあるだろ、診療所では親父って呼ぶなって、何回言ったらわかるんだ」ルシフェル院長は苦々しげにいう.

「まあ、いいじゃねえの親父、キンタマって、左の方が大きいこと多いか?」

お、この息子珍しく、本質的な質問をしてくるじゃねえかとちょっとだけ感心した. 

 確かに、しょっちゅう人前で裸になっているこのバカ息子もそうだし、ギリシャの彫刻の男の裸像の金玉はだいたい、左が大きい.そういえばなんでだろな?

「お前、自分の見てみたか?」

「いいや、まだ.今日家に帰ってから見よかと思って」

「ちょっと見せてみろや、俺のもどうか見てみ」

この親子はいろんな意味で探究心は人並外れていた.それが良識という手枷足枷を緩やかにしている.この変態親子、それぞれの左右の陰嚢を見比べてみた.患者さんをそっちのけにして、である.もちろんカーテンなんかしない.

「確かに左がちょっと大きくて垂れている.」二人の先生が、同時に言う.

「なんでだ?」親子は顔を見合わせてお互いに尋ねた.親子であるこの老先生と若先生のやりとりを横で見ている、ダビデはちょっと心配になってきた.普通診察室でお互いの金玉見せ合うか、それも医者同士が、である.でも、熱いものは伝わる.ここの先生たちのいいところは、そういうことをあまり気にしないことであるということも知っている.


「なんでだろうな.解剖学的には左の精巣静脈は腎静脈に流れるだろ、右は下大静脈に流れるからそのせいじゃない?」珍しくアポロンがそれらしいことをいう.

「確かに」大先生も感心して、よく考えてみた.腎臓の腫瘍がある時、左の時、精巣の表面に静脈瘤ができるだろ、なんとか兆候とか言ったか、それと同じじゃねえか.あ、そう言うことか.二人のやりとりを聞いたダビデは「腎臓の腫瘍」と聞いて、少し不安になっが、腎臓ではなさそうだと言う結論になった.二人の先生は、お腹も念入りに触診してくれた.さらに問診では、

「なあ、ダビデよ、おめえ、血の色したしょんべん出たことあるか?」

「いえ、ありません」

「背中が痛いとかは?」

「ありません」

二人の医者は顔を見合わせて頷いた.

「腎臓は大丈夫だな」、と言うことになった.

ダビテは二人の医者の親子の会話をドキドキワクワクしながら聞いていた.


「結論だ」と大先生が説明してくれた

「金玉の腫瘍とか炎症ではなさそうだ.ヘルニアもない.腎臓とか泌尿器科の病気ではなさそうだな.左の金玉がなんで少し大きいのかはよくわかってないのだが、なんか静脈の還流とかそう言う話じゃねえかって結論だ.」


 後の世の神々の像、アポロンもダビデも金玉は左が下がってやや大きい.ギリシャ彫刻の写実性の優れたところはこのような正確さにも表れている.ちなみに有名なダビデの立像は、16世紀初めのミケランジェロの作品と言われている.ルネサンス、つまりギリシャの昔へ回帰した、芸術である.

 中世ヨーロッパの芸術はその写実性を無惨にも捨て去り、今に残る絵画は皆、幼稚園児の落書きに成り果てたことはみなさんご存知の通りである.


 追記、忘れていたが、アポロンは芸術の神でもあった.

 しかし、だからといって、診察中に親子の医者が、患者さんそっちのけで、お互いの金玉を見せ合う、古代ギリシャの開放的な文化が必ずしも現代においても是認されるか、と言うと疑問符がつく.





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