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プシュコポンポス・ヘルメス列伝 「地獄のメッセンジャーは、人たらし」

 ヘルメスは人たらしである.悪いことをしても許してもらえる.えへへ、と平気で盗みを働く.しかし実に巧妙で鮮やかな盗みをする.生まれたその日に兄のアポロンから牛、百頭を盗み出した.牛舎から、後ろ向きに歩かせて、途中で足跡を消して、行方をくらませたのである.足跡の向かう先は、牛舎なのだが牛は一頭もいない.激怒したアポロンは、ヘルメスに詰問する.「牛をどうしたんだ、返せ!」と.ヘルメスは近くにいた、亀の甲羅で竪琴を作って、ひいてみせた、(ぽろん、ポロロロん)「ねえ、にいちゃん、いい音でしょ、弾いてみる?」お前な、今俺が怒ってるのは、牛のことだ、竪琴の話はしていない.(ぽろん、ブロン)、いかにもいい音色を奏でる.音楽の神でもある私ならもっと上手に引けるかも.「にいちゃんが許してくれるならこの竪琴あげるよ」「牛百頭の代わりに竪琴一つか.馬鹿にするな、釣り合わんだろ、そんなものより牛を返せ」牛はもう人にやったか、自分らの仲間でバーベキューしてもういない.返却のしようがない.(ボロン、ブロン)、ヘルメスは竪琴を弾き続ける.生まれてすぐの赤ん坊の演奏ではない、私なら、私なら、「にいちゃん、あげるよ、竪琴、にいちゃんの方が上手く弾けるし、僕なんかじゃとてもとても」「本当か?本当にその竪琴俺にくれるのか?お前なんか物事よくわかっているな、いいやつなのか?」アポロンは竪琴が欲しいあまり、牛のことを詰問しに来たことを忘れた.二人の神は仲良しになった.


 ゼウスの妾腹の子供たちは、皆、嫡妻のヘラから酷い仕打ちを母親共々受けた.もっとも凄惨なのは、アポロと、アルテミスの兄妹だろう.他に、ゼウスと人間の女との間に生まれた子供の悲惨な運命は枚挙にいとまがない.ここではあげない.例外が一人だけいる.ヘルメスである.それこそゼウスとヘラの嫡出の男の子としてアレスがいるのだが、生まれつき、癇の強い子で、なかなかヘラのやるおっぱいを飲まなかった.そこにちゃっかり忍び込んでお腹いっぱい、おっぱいをせしめたのが、ヘルメスである.ヘラが「おや、この子は、誰だい?アレスじゃないね」と気がつくのだが、なんとも可愛らしい顔をしている.皆恐れて近寄らない、ゼウスの妾の子達の中でこの子だけは特別にヘラの心を和ませた.


 ヘルメスは、父ルシフェルのお忍びの旅のお供をよくした.二人で旅をした時、ある村で、どの家も泊めてくれない、ピレモーンとバウキスという老夫婦だけが家に泊めてもてなしてくれた.その村の他のものには罰を与え、老夫婦だけをいっとき高台に避難させて洪水の難を逃れさせたりといういつ話をゼウスと共有する.他のゼウスの子供で、お忍びの旅を一緒にしたものはあまりいない.

 とにかくヘルメスは人の心を掴むのが上手い.泥棒の神だけあって人の心を盗むのが上手いのかもしれない.めんどくさい人達の相手をさせてヘルメスの右に出る人はいない.ハーデス然り、デメテル然り、ペルセポネ然りである.だから死者の冥界への送迎は大体ヘルメスの仕事になっている.冒頭のプシュコポンポスとは、魂の仲介者という意味である.

 盗みをスマートに働くことに美学を感じていた彼は、強盗、殺人などという粗暴なことはしない.だからアルゴス(百目)殺しを彼がしたという話は、嘘、冤罪である.実際、百目はまだ生きてルシフェルのクリニックに毎月通っているではないか.それに、ルシフェルの愛人のイーオーを見張るのに、ヘラの命令でつけた、アルゴスを何でヘラに恩義を感じている自分が殺さないとダメなんだ.ルシフェルもその辺の人情は理解している.

 

 あなたも気づかぬうちに、ヘルメスに心を盗まれているかもしれない.

 ヘルメスは誰とでもうまくやり、その心を盗んだ.一人の神を除いて.そのただ一人の神とはアレスである.「あの野郎は、俺の母さんを取った」アレスはずっとそれを恨みに思っている.


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