「拝火教徒」の暮らし
ゼウスは、ゾロアスターに聞いた、この世は、善と悪、火と闇の二極の対立だ、という話を聞いて、眠れなくなってしまった.
しかし、考えてみれば、火がぼうぼう燃えて、燃料がもったいない、と思って火を消すことが、善の民族もいれば、悪霊が地上に放たれるから、それは絶対的に良くないことであるのだ、というペルシャの人々の考えは、彼らにとっては正しいと言える.
すると、その土地とか、民族によって、善とか悪の基準が変わりうるということなのだろうか?
親父にとって善は、子供に権力を奪われないこと、そして子供達を生まれた順に次々に幽閉してその力を奪うこと
しかし、母さんにとっては、私を逃し、後から親父の政権を奪取するというのが善だから、私をクレタに逃してそこで育てた.そして、世界を見るたびに出ることを許してくれた
ソロモンの王様は、神々のいうこと、力、それを使うことが善なのだが、民族の神は、神々を認めない、自分だけを神としなさいと強制する
そして、ミカエルはその民族の神の意見を代弁する・・・・
「要するに、私の生まれた国、旅してきたところ、いろんな土地で、いろんな人がいて、それぞれに善があって、悪があるということ、なのでしょうか・・・」
目が覚めて、ゼウスは台所の方に行ってみた.いい匂いに誘われたからだ.
肉を焼く匂い.そして、なんだろう、この香ばしい、いかにも元気が出そうな匂い.
卑近な例えで申し訳ないが、ほら、焼肉屋の排気孔の近く、関西の貧乏芸人、
「あの匂いかいどったら、なあ、ご飯、どんぶりで三杯はいけまっせ・・・」的な匂いであるか?
ゾロアスターに聞いたところ、それは、ニンニクの匂いらしい.彼らはニンニクをいろいろ工夫して食べるらしい.
ギリシャよりも、エジプト、メソポタミア、ペルシャの方が、ニンニクが食材として、普及するのは早かったらしい.
肉食中心で取れる食材の限られた、ペルシャ高原では、ギリシャよりも早く普及したのだろうか?
ニンニクは、火を通さないと、食べることができない(厳密には違う.おろし生ニンニクなんてもあるくらいだから).だから人間以外の生き物には毒でしかない.
中世以降、インドや東南アジアから、香辛料が入るまでの西アジアや、ヨーロッパ地域の人々にとっては、羊の肉のように独特な匂いの肉を食する人々にとってはなくてはならないものだったのかもしれない.
台所の前でゼウスが、肉とニンニクの香ばしい匂いを大きく息をして吸い込んだ.
古代のペルシャは肉食、ニンニク食は禁忌ではなかったようである.しかしゾロアスター教とにとっては死んだ肉、腐敗した肉に対する禁忌は強かったらしい.
「おや、ヘラスの方、お早いですね、もうすぐ朝ごはんの支度ができますから、もう少しお待ちください・・・」
ゾロアスターのお母さん?兄弟姉妹?あるいは、下女として働いている、奴隷なのだろうか・・・・
「ありがとうございます、いい匂いですね、なんか朝から食欲が湧いてくるような」
「そう、私たちにとっては羊の肉が日々の糧ですからね、あと乳とか、そこから取れる、チーズとか・・・」
他には、小麦や、豆が主要な食料だったようである.
ゼウスは、うっかり、大地から噴き出す神の火を消してしまった.それをゾロアスターに見つかって大目玉を食らったのだが、今度は、雷を起こして再度火を起こしたことで、土地の人々に見直されたということらしい.
客人の待遇でゾロアスターのところにしばらく泊まらせてもらうことになったのである.
皆が集まり朝ご飯を食べる広間.
ゼウスが一人で、話している.皆がゲラゲラと大笑いしている.
「それでですね、私の、母が、親父を騙して、石ころに産衣を着せて、親父に飲み込ませたんですよ.それから、クレタって島に隠れて私のことを産んだそうなんです.この母親ってのが、おっかない女で、飼ってるペットが、ライオンなんですよ、信じられます?そんでいうこと聞かないと、私のことを、ライオンの餌にしちまうよ、なんて、平気な顔していうんですよ.」
「はははは・・・」
ゾロアスターのご家族は皆ゼウスの話に大喜びである.声を出して笑っている.
「それでね、ある時のこと、私がいうこと聞かないもので母親が、とうとうライオンのクレタにお上がり、なんて、カミツキ許可の指示を出しちゃうもんでさあ大変・・・」とゼウスは続ける.
「そん時に私の雷の力が覚醒したみたいなんですよ、これがクレタに食いつかれた傷口で、ほら、歯形が残ってるでしょ・・・・」
「ほお、どれどれ、・・・」とゾロアスターのじい様の長老やら、父上やら、母上がゼウスの腕を覗き込む.
「それでですね、うちの母の信じがたい性格はは、ライオンに噛まれて、血を出してる息子のことほったらかしで、感電して火傷した、ライオンの手当てを心配そうにするんですよ・・・」
「ハハハハハ・・・」ゾロアスターの母上は、それこそ涙を流して、腹を抱えて楽しそうに笑っている.その隣で、クスクス上品に笑っているのは、ゾロアスターの姉上で、先ほど厨房で見かけた方である.
「それで、どういうわけで、世界を見る旅に出かけることに?どういうきっかけで?お母様、よくお許しくださいましたね」ゾロアスターの姉上のどこまで上品な質問である.
「はあ、私、クレタ島では、ガキ大将みたいになって、仲間に夢を語っているうちに、じっとしていられなくなって・・・・・
地中海に吹く優しいゼピュロス(あ、これは西風のことですよ)
レバノンのスギの林
パレスチナの谷底に流れ込む、ミネラルの多い川
谷底にひっそり佇む、塩の柱のたった、死の湖
エルサレムのソロモンの宮殿、
アラブの広大な砂漠、ペルシャの火を吹く高原、
インドとアジアの境の天に届きそうな、高い山
極東のオケアヌス、
そして、その入り口に漂う、神々の住む島・・・・・
見てみたくて、じっとしていられない、そんな感じでしょうかね.
まあ母は私のこと、心配なんかしないでしょうけどね、はははは」
「ゼウスさん、それは違いますよ、どんなにガキ大将の息子でも、子供のことは、母親には心配なものなのですよ」
さっきまで、腹を抱えて、大笑いしていてゾロアスターの母上が、真面目な顔をしていう.
「そうでしょうか・・・・」
「そうです.そうに決まってます.うちもこの子、火を消すようなよそ者が来たり、あら失礼、あと、ライオンが出たとかヒョウが出たなんて時は、真っ先に槍と松明を持って、出て行くから、私たち毎日ハラハラドキドキ、もお、心配で心配で・・・・」
「おや、母上が私のこと、そんなに心配してくれているなど、初耳ですね」
ゾロアスターがいうが
「私もあなたのことは毎日ヒヤヒヤしてみています.本当にいけない子です・・」姉上は例のお上品な、話し方で、少しゾロアスターの顔を睨んで見せる.
(ポーーー)
自分が睨まれたわけではない.ゾロアスターが姉上に睨まれたをみて、というか正確には、ソロアスターの睨みつける、その姉上のあまりの艶かしさに、ゼウスは恋をしてしまった.果たして本当に恋、かどうかはよくわからないのだが・・・




