ソロモンの72柱
コラン・ド・プランシー(J. Collin de Plancy)は、代表作『地獄の辞典』(1818年初版)の中で、ソロモンのことをこう述べている.
「東洋の哲学者、植物学者、占い師、占星術師たちは、ソロモンのことを守護聖人とみなしている.彼らによれば、神は、ソロモンに叡智を授けると同時に、自然・超自然のあらゆる知識おも伝えた.それらの知識の中で最も高尚で最も有用なのは、精霊や守護神を呼び出して命令するための知識であった.ソロモンは護符のついた指輪を持っていて、そのおかげで神と人間を仲介するあらゆる存在に対する絶対的権力を有していたという・・・・・・・・」
ソロモンの王様に対する反逆の罪で、宮殿建築の強制労働の刑に処された、政治犯たちは、大きな荷車にまとめて乗せられて、建築現場に搬送された.
車は数等の牛が引いているようである.
ゼウスの従者であるラクダの、ラダーと、クダーの二頭は、牛車の脇をとぼとぼと歩く.もちろんゼウスとは心の中でずっとおしゃべりをしながらである.
「強制労働」に送られる、罪人たちは、皆大体が下を向いているが、ゼウスは、街の景色が珍しく、あたりをキョロヨロと見渡している.見張りの下っ端の役人と目があるたびに叱られるが、キョロキョロと当たりを見物することはやめない.そのうちに役人も諦めて注意しなくなった.
その彼をじっと見ている若者がいる.火に焼けた、顔、引き締まった筋肉.目つきが鋭く、口元は、少し笑っているようである.
彼とゼウスの目があった.
(おや・・・)
駄々ものではない雰囲気である.心の中で話しかけてみた
(きみはどこからきたの?私はゼウス、ヘラスの国から来た、父に追われたいわゆる亡命王子のようなものだが・・・)
(・・・・・・)心の声の、返事はないのだが、彼はゼウスの方を見て、口元に指を当てて、(今は黙れ)という仕草をして、小さく首を振って、その後ずっとしてを向いてしまった.
(一体誰だろうね、ラダー、クダーはどう思う?)
(はは、誰でしょうかね、でも、旦那の心の声、ちゃんと聞こえたみたいですね)
(うん、ただね、彼の心の中、空っぽで、何も見えない・・・)
(ほお、そうでガスか、どっかの偉い神様のご指定かもしれませんね・・・・)
走行しているうちに神殿の建築現場に到着した.
労働内容の、ガイダンスみたいなことは、ない.
支給されるような道具もない.
その辺に必要そうなものは自分で調達せよということらしい.
食事の支給もない.労働時間は、日の出から、日の入りまでである.昼ごはんの休憩など、その概念すらない時代で、腹が減ったら、各自が、手持ちの小麦の団子を食べるか、空腹のあまり、倒れて、日陰に寝かせられるか、どちらかであった.
しかしあまり長く気を失っていると、監督から鞭が飛ぶか、冷たい水をぶっかけられて否応なく仕事に戻ることになった.
「へえ、すごくたくさんの人が働いているね・・・」
監督らしい人にゼウスは聞いてみた.
「あの、私、政治犯で、この建築現場で働く罰を受けたのですが、何をすればいいですか?鎖に繋いだりしなくていいんですかね?」
「おお、お前は、侍従長閣下から直々に、連絡が来ておる.まあ、何をしろということではないのだが、とにかく、喧嘩をして他の罪人に怪我をさせたりだけしないように」とのお達しだ.
「しかし、どうしても働きたい、というのなら、材木とか、是機材を運ぶのを手伝え、他の罪人たちは大助かりだと思うぞ・・・」」
「はい!」元気よく、返事をしたゼウスは、上半身裸になって、早速大きな石を押している、集団に合流して、一緒に石を押し始めていた.
「えっさ、ほいさ・・・」
映画などで、大きな石を運ぶとき、細めの丸太を何本か、石の前後において、石をその上で転がす、前に進んだら、後ろに残った、丸太をまた、前の方に持ってきて順繰りに運ぶという光景だ.
ゼウスは主に、石を押す係を買って出る.汗を書いて、「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ」と石を力一杯押している.
隣で、石を押していた若者が、石と材木の間で足を挟んだらしい.
「いてて・・・」
ゼウスはすかさずに手をあげて、「俺、医術の心得があります・・・」
というが、半分本当で半分は嘘である.別に系統だって医術を学んだわけではない.
クレタにいる時、自分とか友達が怪我をした時に、アマツテイア、や母上がどんな処置をするかをみていただけである.自分が放電して、やゲドをした、ラオイオンのくれたに対して、母が、実に心配そうに、その治療をしていた母親のやり方をずっとみていた.息子の腕には、ライオンの歯形がついていたのを、ほったらかしの母親のである.
足関節のあたりが結構腫れている.動かそうとすると、痛がるのだが、骨の損傷はなさそうである.
「うん、これはね単なる捻挫だ.しかし、何日かは動かさないほうがいい.骨が大丈夫と思って、捻挫した足を無理に動かすと、腫れがひどくなって、全く動かなくなってしまうんだ・・・」
傷病者に対して、無理に働かせないのは、知恵の王様、ソロモンの配慮なのかもしれない.
日が暮れるまで、ゼウスは、ずっと、大きな石の搬送の仕事をしていた.今日は一体幾つ運んだのだろう・・・・
現場の監督たちが、何か話していた.
「おお、今日は捗ったね、あのヘラスの若造、結構使えるんじゃねえか・・・・」
夜は、強制労働の政治犯は、1箇所で休むことを命じられる.
ランプの光が一つだけある、暗い部屋である.岩の部屋、いわば雑居房なのだが、20人以上の囚人がいると思う.
その中に、昼間、宮殿に来る途中、荷車の中で目があった、若者が、いた.
「よお!」その若者から、ゼウスに声をかけてきた.
「ああ、君は昼間の・・・・・」
「おめえ、心の中に話すことできるな?どこからきた?俺は、ベルゼブル、雨と豊穣の神、のはずなんだが、ミカエルの野郎によると、ハエ、やろう、ってことになってるがな」
彼はのちにゼウスの生涯の友となる、「蝿の王」ベルゼブル、その人である.




