イスラエルの旅
今のレバノン領を南に行き、イスラエル領に入ったところで、海寄りから少し、東の山沿いに向かう.途中にナザレの街がある.
ここは後年、ベツレヘムで生まれた、イエス・キリストが育つ場所である.
もちろんゼウスは知るよしもない.
レバノンから海沿いは、オリーブの畑が続く.
ナザレの方に向かう石灰岩の丘陵にも地中海気候特有の風景が続く.
「おや、この街・・・・」
「旦那どうかされましたか・・・」
「いや、しかし、誰かが私を見たような、気がした・・・・」
「へえ、そうでがすかい.でも誰も怪しい、奴はいねえみたいですぜ」
「うん、今この時、私を見ているのではなく、遠い時間の向こうがわから・・・見られているような・・・そんな気がしただけだ」
「へえ、旦那みたいな、偉い神様の御子様ともなると、いろんなものの感じ方、複雑でしょうがねえすね、あっしはラクダで良かったすよ」
「はははは、ラダーは面白いことを言う.誰に見られているかよくわからないが、あまり気にしないことにするよ.でも、親父の監視が入るかもしれない、クレタにいる時にもあまり感じたことのない視線だったな・・・」
ナザレの街を過ぎて、ヨルダン川の西岸に出た.ここからは、谷間をずっと南の死海の近くまで緩やかな坂を降っていく感じ.そして、南に行くに従って草花が少なくなってきた感じがする.
「そう、この辺りはだんだん砂漠になってくるところでさあ」
ラクダたちは、我々の出番とばかりに張り切り始める.
死海の海抜はなんと、マイナス430mだと言う.谷の底に、湖ができたと言う感じらしい.
ラクダたちとこの、死の湖の近くに来てみた.
あちこちに塩の柱が立っている.それはまるで、街が一つ消える時、取り残された、人が生きたまま塩の柱になったような形である.穿ち過ぎかもしれないが・・
「そもそもですね、あのヨルダン川、ミネラルがすごく多い川なんです.
そこから絶えず水は流れ込む、しかし、死海からは流れ出る川がない.つまり、水は流れ込むだけ、蒸発するけど、塩分はそのまま、ってわけで、死海の塩分濃度は、なんと海水の10倍にもなるってことらしいすよ」
「ほお、ラクダなのによく知っているね.でも面白い現象だね、世界中でここだけなんだろうか・・・・またギリシャに帰ったら偉い先生に教えてもらおう・・」
「そうしてくだせえ、旦那の知恵、あっしが授けたとあっては、旦那の名折れになりやさ」
死海の北部を横切る形で、今度はまた、西に向かって進路を取る.今度はずっとエルサレムまで、上り坂が続く.なんとエルサレムに行くには、1200m登らないとダメらしい.
ゼウスはラクダから降りて、その手綱を引いて、坂道を先に歩いて行った.
「えっさ、ほいさ、えっさ、ほいさ・・・・・・」
石灰岩、所々削れた山道を、登り切ったところで、崖の下を見渡すと、白い街が広がっていた.すでに、太陽に西の空に傾きかけた頃である.夕日に照らされた、白い街は、「蜂蜜色」に燃えて、なんとも幻想的に見えた.
標高800mにできた人間が築いた街.
「これがエルサレム!」
とうとう着いたね、疲れたろ、
ラクダたちは、ブルブルと「違いまさあ」と言う仕草をしてみせる
「そうか、お前たち、元気だな、私は結構疲れたよ」
(今夜はここらで野宿していくとするか・・・・)
と言うとゼウスはドッカと石灰岩の石の上に座り込んでしまった.
そして飽きることなく、夕日に照らされたエルサレムの街を眺め続けた.




