ベイルートの街にて「教えて、砂漠の旅の心得など・・」
ゼウスを乗せた船はシケに見舞われることもなく、地中海の東海岸、今でいうところのレバノンの大都市、ベイルートあたりに流れ着いた.
ベイルートは、古代エジプト王朝の昔から、人が住んでいた街で、フェニキア人が開いて発展させた街と言われている.
フェニキア人は、ギリシャ人と同じく、地中海を自分の池のように、交易しまくった民族である.
船を降りると、変な生き物が歩いている.
背中に大きな瘤がある.顔は間抜けだが、足腰は強そうである.足の蹄は二股に分かれているから馬とは別の生き物なのだろうか?
土地の人に聞いてみた.
「あの動物はなんですか?馬ですか?ロバですか?」
若造のゼウスが聞いても、大人たちは教えてくれない.
少し通りすがりの商人のような、若者に聞いてみた.
「え、おめえラクダを知らねえのかい、そもそもおめえどっからきたんだい?その顔つきだと、ヘラスの国のもんかい?ラクダはな、馬とかロバとは全然違う動物だぜ、でも砂漠に暮らす者にとっては、なくてはならないもんだ」
「へえ!」
ゼウスは初めてみる動物に興味津々である.
「蹄の数が、二つですね、すると、牛の仲間ですか?馬とは違うみたいですけど・・・」
「はあ?おめえ何言ってんだ、ラクダが牛の仲間のわけなかろ!格好が全然違うだろうが、ラクダはな、牛とも馬とも全然違う、砂漠の生き物だ.そもそも砂漠の中、牛やら馬やらで旅するなんてのはそもそも正気の沙汰ではあるめえ!」
「あの、ちょっと街に行く道順教えてもらっていいですか?イスラエルの王様が住んでいる、エルサレムという街にはどうやっていけばいいですか?」
「はあ、エルサレム?おめえ、エルサレムつったら、あのソロモン様って偉い王様の都じゃねえかい?ほんとにあんのかね?おとぎ話の話でねえんかね・・・」
「この前もシバって国の女王様が、それはそれは派手な行列仕立てて、ソロモンの王様に会いに来たって話だが、それも本当の話かね?」
イスラエル王国のソロモン王はすでに生きる伝説となっているようであった.
「お、エルサレムに行くんかそこのお若えの、わしは昔、あそこで商売したことがあるが、今でもえんらい賑わいみたいだな」
少し年配の商人はエルサレムのことを知っているらしい.
「ラクダを使って、この街、ベイルートからエルサレムまで、どれくらいかかりますか?」
「さあ、道がどうなってるかとかによるからな、今はどうなっているか、よくわからねえが、ゆっくり歩かせて、7日か8日くらいでねえか?」その商人はいう.それほど遠くはねえかもしれねえが、何せ、砂漠が多い土地だ.ラクダはあったほうが無難だな.
「恐れ入りますが、そのラクダを一頭、できれば二頭ほど、私に譲ってはくれますまいか?」
「ううん、それは代償次第だな、おめえ、みたところ、交換できるもの持ってねえみたいだが・・・」
ゼウスは背中に担いだ、荷物の中から、コルヌコビアを取り出した.
(あれ、家にひとつあったので、アンブロシア、友達に出してあげるはずでは?)
彼はいくつかあるコルヌコビアの一つを母上に内緒で持ってきたのだった.これさえあれば食うのには困らない.しかし、それを渡して、ラクダをもらうとなると・・・
コルヌコビアをそのまま一つ渡してしまうと、その後自分の食べ物も無くなってしまう.
ゼウスは思案して、まずはアンブロシア、味見をしてもらおう、そして気に入ってもらえたら、樽でアンブロシアをまとめて売りつけてその代償としてラクダをもらおうと思って、商談を始めた.というより、路上販売を始めた.
「さあさ、お立ち合い、ここにとりいだしたるは、かの、ハラスの国の、コルヌコビアという魔法のツノだ!そこから泉のように湧き出すのは、なんと神の食べもの、アンブロシア!!」
「さあ、そこのご老人、ひとつ、味を見てくださいませ、このアンブロシア、えも言われるこの香り、そして深い味わい、おまけに滋養豊富で、これをいっぱい飲めばその後、10日間は飲まず食わずでも大丈夫だという、まさに砂漠にこそ必要な、神の食材!」
スーパーの味見コーナーの如く、小さいお猪口にほんの少したらしたアンブロシア、何人か、味見したところ
「う! これは・・・・」
「おお、うまい、そしてなんともいい匂いだ・・・」
「それに俺、すごい腹減ってたのが、なんと元気が身体中からみなぎってくるようだ・・・」
「俺、買った、樽で、頼む、2樽!」
「お、お、俺はたる、4つだ!」
「俺は今、持ち合わせがないから、すぐとってくる、一樽るくらい残しといてくれよ・・・」と大金を取りに帰る商人までいる.
「どころで、なあ、若いの、そのツノみたいな水筒は売らないのかい?」
「ああ、お客さん、これはね、世界にふたつとない宝、コルヌコビアと言いやして、私の母のところにひとつ、そして私がひとつ.だから世界に二つか、それをお売りしてしまいましたら、あっしがおまんまの食い上げでさあ、だから、お売りできるのは、中身のアンブロシアだけ!」
「さあ、皆の衆、買うか、買わねえか、買わねえと大損、買って毎日のめば滋養もついて、元気百倍!」叩き売りの如くにゼウスはアンブロシアを売りまくる.
ゼウスの巧みな商売で、ラクダ2頭は容易に得て、
それに加えて、
青銅製の飾り物、
金やら銀の「貨幣」、真珠やサファイヤ、翡翠、琥珀に、
ダイヤモンドとかいうアフリカの大陸で撮れるという光る石.
これらの財宝を袋いっぱいにせしめることができたのであった.
そして、小アジアの商人から、「鉄」という金具で作った、ナイフを譲り受けた.この鉄製のナイフ、青銅とは比べ物にならないほどの切れ味で・・・
これが砂漠の道行にもちろん、さらにゼウスが世界を旅するときに、重要な道具になったのだった.
意気揚々と、ラクダに跨り、腰には、鉄のナイフを刺して、エルサレムに向かおうとする、ゼウスに向かって、先ほどの年寄りの商人が教えてくれた.
「お若いの、砂漠の夜は冷える、これを持っていけ・・・」
どさっと、けももの革でできた、袋をくれた.口が縛ってある.
「ご老人これは?」
「油じゃよ、油.オリーブの油で、夜は焚き火をするといい.ダイキンは出世払いじゃ、元気に帰ってきた時でいいよ・・・」
「ご老人・・・ご親切にありがとうございます」
「あ、それとじゃ、鉄のナイフは、あまり人には見せない方がいい.危険なやつと思われるでな、どっか見えないところに大事にしまっておけ、すぐ取り出せるようにはしといた方がいいがな」
「色々とありがとう!では、行ってまいります.」
「さあ、エルサレムに向けて、出発!」
(はて、あの若者、いったい何者だろう・・・)
のちに老人は、ゼウスの正体を知ることになる.次の再会の時か、あるいはもっと後か、それはまだわからない.




