「ちょっくら、世界を見に行ってくらあ」
と言うことでね、あの子は、洞窟から家出してしまったのさ.
その日も友達が遊びにきたのだけど・・・
「ゼーウース、あーそーぼ」
いつもの男の子、女の子、何人か.
「ごめんね、あの子、どうやら家出したみたいで・・・・」
レア様が子供たちの応対をする.
友達は、皆「ぐえ!」と驚いた.
亡命、あるいは逃亡中?
潜伏している隠れ家から家出なんかしてみつかりでもしたらどうすんだ?
赤ん坊の時、鳴き声さえ、外に漏れたらえらいことになるなんて言ってなかったっけ?
「まあ、そんなこと考えないのが、あの子のいいところでもあって、めちゃクチャなところでもある・・・・」
この母親は、時におおらかで時に、時に息子をライオンの餌にしそうになる程厳しいが、まあ総じて、自由放任主義の子育てらしい.
「まあ、なるようになるさ、それに母親のあたしが言うのもなんだけど、あの子なら意外となんとかなりそうな気がする・・・」
「ええ、おばさん、ちょっと危険じゃないですか、そこまで放任は、彼の身体の安全をもうちょっと考えてあげないと・・・」
「まあ、それもそうだけど、言ったら聞かないからね、あの子・・・」
そして母親はくちゃくちゃに丸めたパピルスを取り出して、
「ねえみんな、あの子の書き置きがあるから読んでみるかい・・・」
子供達が皆、ゼウスの書いたと言う手紙を囲んで読む.
「・・・・・・」
「おばさん、僕たち皆、文字読めません、なんて書いてあるのか教えてもらっていいですか・・・」
「あ、そうだったかい・・・
なになに
・・・・・
みんな、この前話したろ、僕には夢がある.夢の正体を確かめに、世界を旅することにしたから、よろしく.僕のこと好きな女の子、この手紙読んだら泣くかな?
しかし、女の子が誰も泣かなかったらちょっと寂しい・・・」
「なんだ、それ・・・」
しかし、そこにいた女の子たち、皆しくしく泣き始めた.
男の子たちにも泣いている子がいる.
「ゼウス、ゼウスと遊べないってことは、もうあの美味しい、アンブロシア、食べられないってこと・・・・」
「あ、そのこと・・・続きを読むね・・・
あ、アンブロシア、母さんと、アマルテイアにはよくよく言っておくから、僕がいない時にも洞窟に行って食べるといいよ.いくらでも出てくるからその辺は心配いらないと思うよ・・・・」
「なーんだ、じゃよかった」女の子も男の子も泣いている子供たちは途端にニコニコして明るいいつもの顔に戻った.
みんな、あの子を見送っておくれよ・・・・
レア様とアマルテイア、友達の数名は高台にのぼり、遠い、地中海、南の方を眺めた.
遠くて見えないけど、あの海の上にゼウスが・・・・・
しかし、その頃、ゼウス少年は、東に向かう船の上であった..
母親は友達に説明するのを忘れたが、ゼウスもティタンの神々も、皆時間と空間を自在に超えることができる.
だから世界一周の旅も、想像の及ぶ限り、可能であると言うことは、説明しなかったのだ..この前の「夢語りの」時もゼウスはそのことは友達には言わなかったのだ.
しかし旅の楽しみは、多少の苦労もしたほうがいいと言うことで船で、シリアからレバノンのあたり、つまり地中海の東岸を目指しているのであった.
クレタ島から優しい西風「ゼピュロス」に吹かれて、地中海の上を優雅な船の旅である.
ゼウスの目的地は、イスラエル.「ユダヤの地」である.




