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アテナと四天王②「初めてのフランス料理」



「ああ腹減った、早く食いてえ」

弟子たちはギリシャの遠いところのしかも時間も超えて大昔から来たものだから腹ぺこだ.それにしつけというものをされたことがないから本能のままに足が動くし、欲望のままに手を出すし、思ったことはそのまま言葉にしていってしまう.

 まず最初に運ばれてきたのは牡蠣のポシュだ.キャビアが添えてある.フランス人は牡蠣を生で食べたりしないのだろうか.ギリシャの人たちは牡蠣を食べるのだろうか?日本で食べられるようになったのはいつから、興味は尽きないが彼らには関係ない.皆、牡蠣は気に入ったらしい.

「こらなんだ?貝殻がついてらあ、でもつるっと入ってうめえ.」

その脇にキャビアが乗っている.

「へー日本のフランス料理ってちっちぇえんですね.なんだこれ、けし粒みたいな黒いのは?」ここでドクトルの解説が入る.

「それはね、キャビアと言ってカスピ海にいるチョウザメの卵を取ってきて塩漬けにしたものなんですよ.美味しいですよ.何しろ世界の三代珍味と言われていますから」

「おー、」と弟子たちが食らいつく.続いて「?」という反応をしている.「なに?」「これが飯?」

「ふざけんじゃねえぞ、この日本人、何食わせてんだよ」ドクトルは冷静に応対する. はるなは、荒ぶりそうな神々と冷静にそれを鎮めようとするドクトルのやりとりを楽しそうに眺めていた.

「はいはい、それはさっき言ったようなキャビア、と言って、珍味なんですよ」ドクトルは、荒くれがいても一向に慌てることはない.あんな湖水のような目をした奴らがいくら、凄んでも、全然怖くない.落ちついて解説を続ける.ほらそんな口の中にいっぺんに入れて飲み込んだら味も何も感じないでしょ.一粒か二粒、小さく取って、舌の上に乗せて、噛んだり、飲み込んだりしないで、ゆっくり味わってみてください」一同の沈黙の後、アテナが、「わかんない」弟子たちも「味ねえ」.ルシフェルまでが、「全然わかんねえ」と言っている.チョウザメってそもそも食えんのかねとまた弟子たちが騒ぎ出した.

 「白虎、玄武、青龍、朱雀、こら、おめえら、もっと行儀良くしねえか.」とうとうヘパの親方の雷が落ちた、4人の弟子たちは黙った.


 今では知恵と戦争の女神のアテナを四方から守護するのが主な仕事で、四天王と呼ばれる.鍛冶屋のヘパの四人の弟子は、元はと言えば、皆それぞれに由緒正しい神様であるのだ.持国天青龍は東、増長天朱雀は南、広目天白虎は西、多聞天玄武は、北を守る.

 特に、玄武は、インドの古い神様で毘沙門天として日本と呼ばれることが多い.由緒正しい神様で、上杉謙信が彼の祠を作って深く信仰したことは有名である.インドの出身で牛肉は食べてはいけないことになっている.多聞天が、玄武と言われていて、牛を食べたらダメだという史実もちろんない、歴史考証はどうなっているのだ、参考文献は、と文句を言う人がいたら、言い返したい.そもそもこの話が作り話です、と.作り話に歴史考証もクソもあるまい.


 続いて、オードブルだ.「オーど、・・何?」ヘパが聞き返す.彼ももちろん知らない.こんな食べ物は初めてだ.「オードブル(Hors-d'œuvre)」と表記するらしいが、フランス語わかる人しか知らないよね.

「あ、オリーブ、アテナこれ知ってる、ギリシャにあるから」アテナのシンボルの一つはオリーブの木である.


 オードブル(前菜) 、エゾシカと丹波の猪のテリーヌ、ほろほろ鶏の減圧ハム、オーロラサーモンのマリネ.お、この赤いのは鮭か、とか、鹿と猪に、ゼラチン?がかぶったテリーヌを、「おお、なかなか凝った料理だな」と感心しながら食べている.      

 

 スープはカボチャの冷たいポタージュだったと思う.メニューの紙には書いてなかったかもしれない.

 

 オマール海老のソテーが続く.身と殻はあらかじめ外してあるから食べやすい.

 

 魚料理は、真鯛のポワレとムール貝、マッシュルームソース.皆ナイフとフォークをすでに上手に使えるようになっている.いつの間にかおとなしくなっている.喋るのも無駄だと言わんばかりの、集中である.ソテーとポワレの違いはね、と遠くで、ドクトルが話している、そんなのは関係ない.どっちも美味しい.そもそも羊とか牛を大雑把に焼いただけのお供物で怒りを鎮める方々だから、美味しい料理は彼らを鎮めまいらせるには十分であると言うことか.

「なんだ少ねえ」だの、「味しねー」だの、「食べた気しねー」など散々に文句を言っていた弟子やらアテナが、パンが出て、スープが来て、オマール海老が出て、真鯛のポワレが出る頃から黙り始めた.時々出る言葉は「おー」とか「うめ・・・」とか多くを語らないが満足しているような口ぶりだった.アテナは何も言わない.でも目は輝いている.アテナの目の色は特徴的で、灰色のような青いような目をしている.     

 次の皿が運ばれてくる時はウェイターの手の上の皿に視線の中央をロックオンしており、まるで敵艦を狙い撃ちするかのようだった.イージス艦が敵の艦船を狙うが如き目で、アテナはウェイターの手元を追跡した.ちなみに最高神から、神の楯と呼ばれる「アイギス」を唯一貸し与えられたのは、アテナである.アイギスを英語読みすると、「イージス」である.標的は逃すまじの目つきだった.ドクトル、はるな、ルシフェル、アテナの順に皿が運ばれる.自分のところに来た魚の料理にアテナの目は釘付けである.元々地獄の帝王の娘であり言わばお姫様なので生まれついての品格がある.ガツガツはもちろんしない.動作はあくまでも緩やかな食事の所作で、料理を楽しむ優雅なお嬢様だった.ナイフとフォークをいつの間にか使いこなしている.背筋を伸ばし、ナイフで切り、フォークで口に運ぶとアテナはうっとりと恍惚の表情を浮かべる.そして、改めておドクトルとはるなにお礼を言う.

「ドクトル、はるな 今日はありがとう、私、こんなに美味しいもの食べたの初めて.またきたい.また今度連れてきて」

「アテナ、まだまだこれからだよ、もっと美味しいのが出てくるから、お礼はそれからでもよくないかな」ドクトルは、優しく言う、隣ではるながにっこりしている.

「可愛いお姫様と一緒に食事ができて光栄よ」はるなは神々との付き合いが結構長いから、このような食事の時の会話で何を話すべきか知っている.すごいのはドクトルで、どこで習ったのかもわからない、上流の、しかも神々の世界の王室クラスと普通に会話ができるのだから.そんなドクトルを潤んだ瞳で見つめるはるなは「好き」と心の中でドクトルに話しかけていた.アテナはびっくりして、「え、はるなって、ドクトルのこと・・」皆までいう前にドクトル以外の他のみんなが慌ててアテナの方を向いて指を立てて「シー」という仕草をした.皆神様だから人間の心の声などだだ聞こえなのだ.それでも大人の対応で、知らないふりをしているのに、その辺まだアテナは子供なのだろう.ルシフェルやヘパのおじさんだけでなく、弟子たちも皆、指を立てて、シーと言っていたから.ガサツでやかましく、行儀は悪いが、彼らはすでに大人の階段を上り始めていると言っていいだろう.

 アテナはパンを手にして、これは?とはるなに聞く.それはね「パンよ、小麦粉をこねて、イーストで発酵させて膨らませて焼くの.いつできたのでしょうね.」パンの歴史を知らないはるなはチラリと助け舟くれとドクトルに目くばせするがドクトルは知らんふりだ.

「(この人いつもいじわる)」心の中で文句を言う.

「ねえドクトルってはるなのこと嫌いなの、だから意地悪するの」

「え、アテナ、なに?」ドクトルは聞き直す.その時、向こうで大きな声で、

「あら、よよいのよい、パンダパンダ、ほれほれ」弟子たちが手拍子で歌い始めて、アテナの声はかき消されてしまった.店の人が出てきて「お客様、お静かに」と注意された.「はい、すみません、」ヘパの親方が謝る.弟子の方向いて「こら、お前ら、行儀良くしてろって言ったろ」

 はるなはボソボソと言いながら下を向いて指でテーブルの上にハートを何回も書いていた.ドクトルはそれをみてみぬふりをした.

 パンを小さくちぎって、バターを塗ってパンを少し口に含んだアテナはまた上品な恍惚の表情を浮かべる.母親を知らず、父親家庭、しかもその父親というのがルシフェルで、育ての父親、みたいな立場があのむさ苦しいヘパで友達といえば、荒くれの鍛冶屋の弟子たちだ.男に囲まれて育てられたにもかかわらず、アテナにお姫様の品格が備わったのは不思議なことではあるのだろう.


 いよいよ、肉料理が運ばれてきた.「ニュージーランド産牛ひれ肉のステーキ フォアグラ添え マデラソース」と書いてある.

 多聞天玄武が、掟により牛肉を食べられないこと、このことはあらかじめはるなとドクトルが、シェフに伝えてある.彼には鴨肉のローストが出てきた.四天王、他の三人、「おっ、そっちもうまそうだな」と.しかし、皆は、玄武の鴨は取らなかった、なぜなら彼らの牛肉を玄武には分けてやれないので.


 皆の前に料理が運ばれてから、今度ははるなが説明してくれた.

「これはね、ロッシーニ風ステーキっていうの、かな?(正確にはどういうのか著者は知らないが.マデラソースの中にトリフを入れた、ペリグーソースをかけたのもロッシーニ風ステーキなのだろうか?)フィレのステーキにフォアグラ、これはね、ガチョウの脂肪肝なの.餌やって動かさないで太らせたガチョウの肝臓を取ってきてスライスしたの、上に乗っているのはトリフっていうキノコなの、ドクトル、猪だっけ、豚だっけ、探すの上手なんでしょ.」

「そうですねトリフは雌の豚に探してもらうそうですよ.なんでもトリフの匂いが雄豚のフェロモンの匂いに似ているからだそうですね、先程のキャビアと、フォアグラとトリフは、三つ合わせて世界三大珍味って言われているのですけど、それどうでしょうかね.二つまでがフランス料理ですからね、私は好きですけどね.」

「じゃドクトルは何が美味しいと思うの?」はるなは聞いてみた.

「私は、まあなんでも食べますけどね.あんまり変わったものを食べたいとは思いませんが.やっぱり戻るところは日本料理なのかもしれませんね」ルシフェルはしゃべらない、鉄丸も黙ったままだ.さっきまであれだけ騒がしく文句を言っていた弟子たちも黙ってステーキを食べている.アテナを真似して口に含んだステーキを恍惚の表情で味わっている.美味しい料理の前に、ガサツな言葉を発する余裕など、この田舎者たちにはあるまい.

 戦争の女神、アテナを調略する最終兵器は、デザートである.白いバニラのアイスの他にシャーベットがオレンジと、桃と梨から選べる、さらにケーキもチーズケーキと、モンブラン、ティラミスの中からを選べる.アテナはどうしようかと悩む.どうしようかな、うーんと悩む姿はたまらなく可愛かったので、ドクトルとはるなは同時に言った.(私のケーキあげますよ)(私のシャーベットあげますよ)と.ドクトルとはるなはケーキもアイスもどちらもあげたので、アテナはシャーベットとケーキを全種類食べることができた.じゃ俺のもやろか、とルシフェルはクッキーとケーキをくれたし、ヘパもアイスをくれた.「俺はこんな冷たいのいらねえ」もちろん弟子たちは自分の領域を侵されるのを警戒してケーキとアイスは自分で食べてしまった.

「あ、お嬢いいな、アイスとケーキもらってやんの」と弟子の一人は悔しそうにいう.食べ終わったアテナは目をつぶり、日本風に両手を合わせしばらく黙って動かない.

小さい声で「ごちそうさま」と挨拶をした.

「美味しかった、また、きたい、絶対きたい、絶対来る、いいでしょお父さん、ねえ、いいでしょ.お父さーん」これを可愛い娘にやられて、ダメと言える父親はいないのではあるまいか.

「まあそこまで気に入ったんならしょうがねえか、なあ?」とヘパの方をルシフェルは見た.ヘパのおじさんも満足した様子である.荒くれ弟子の4人もすっかりおとなしくなっていた.


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