「記憶」が、遺伝すれば・・・
議論の、勉強の方向性が決まったところで海丸くんのお腹が、「ぐー」となった.時計を見ると、昼の12時近かった.
「ここらでお昼ご飯としましょうか・・」とドクトルがいうと.
「ヒャホー」と、アテナと四天王が食堂の方に走っていく.海丸くんがそれに続く.
静香とドクトル、ルシフェルと、ヘパの親方は話をしながら、長い廊下をゆっくりと食堂に向かう.
「遺伝の情報は、親から子供、さらに孫に伝わるじゃないですか、でも、その人が一生過ごした、記憶っていうか、それは、その人の一代きりじゃないです、語り継ぐの
なんか面倒ですね、教育と子育て、また1からやり直しでしょうし・・・」静香が少し不満そうに日頃思っていることをいう.
「確かにそうかもしれませんね.家業を注ぐにしても、何か新しいことをするにしても、親が覚えている、こうしたらいい、ああしたらダメだったという記憶があれば、もう少し効率的に勉強とか仕事ができそうな気もしますね」とドクトルがいうと、
「まあ、おめえら、人間はそうだけどな、俺らは、ずっと死なないから、あまり考えたことねえな」ルシフェルは例によってあまりむづかしいことはこれまで考えてこなかった感じの、意見である.
「でも、教育は大事だと思いますぜ、それが自分の子供でなくても、弟子でも、親戚の子供でも、自分の持っている技術、知識、経験、やはり、次の世代に伝えてやらないと」ヘパイストスの親方は流石に、弟子を大事に育てているだけのことはある.彼らしい発言である.
「獲得形質は遺伝しない、って誰が言ったんでしたっけ?ダーウィンですか?カエル子は、蛙でも、自分が勉強したこと、そのまま引き継げるとは限らない.」
・・・・などと話をしていると、食堂についた
先に走っていった連中はもうご飯を食べている.
今日の昼ごはん、生姜焼き定食と、唐揚げと、トンカツ、どれでも好きなのを取るようにという、ちょい、ビュッフェ形式である.来客が多い時にはそうである.
アテナと四天王は、海丸くん相手に、賑やかに食事をしている.
その脇に愛ちゃんと、健ちゃんを相手にボソッと食事を食べているのは、ヘルメスである.時々消えたりするから、今ひとつ、印象は薄いのだが、彼が神々の中ではルシフェルに次いで、別館で食事をすると言ってもいい.
「まあ、たまには、俺もはるちゃんのご飯、ゆっくり食べてえ、すからね・・」
こいつ、はるなのことを、はるちゃんなどと呼んでいるのか・・・
神々はすぐ、女の子とな仲良くなろうとするから油断できない.
彼は、とんかつと、唐揚げと、生姜焼き、満遍なく、とって、さらにサラダもたくさんとってきている.
厨房から出てきたはるなは、テーブルを見渡して、「あ、玄武さんきてたか、あ、でも牛肉じゃないからいいわね」とまた厨房に引っ込んでいった.
愛ちゃんとけんちゃんのママもはるなの手伝いをしている.子供たちの面倒はヘルメスに見てもらう.この男、結構子供たちには人気なのだ.
「おお、ヘルメス、久しぶりだな」とルシフェルがいうと、
「親父、大体、毎日会ってますぜ、今日はハーデスのおじきの兜、被ってないだけの話で・・・」
「あ、そうか、おめえ、今日はなんかあるのか?
「いや別に.なんかオリンポスも、21世紀の日本も平穏ですかね.アメリカの大統領がグリーンランドやら、ダボス会議やら、ベネズエラやら、なんか結構色々あるみたいですけどね.あとイランも騒がしいみたいですぜ」
「お、お前、テレビとか新聞に出てくることもわかってるね・・・」
静香と、ドクトルも、ヘルメスの隣に座ってご飯を食べる.
「今日は皆どんな勉強したんだい?」とヘルメスがドクトルに聞く.
「今日はですね、遺伝子の暗号の解読と、何で、運搬RNAが、20種類のアミノ酸を識別できるか、っていうのが図書室での話でした」ドクトルがいう.
「それでねヘルメス、私たち人間は寿命があるじゃない、記憶も一代きりで、記憶とかは遺伝しないじゃない、なんかもったいなくない、って話を廊下歩きながらしてたんだ」静香の説明である.
「ほお、やっぱり、人には人の悩みがあるんだな・・・」ヘルメスにもなんとなく理解できることではある.何せ彼は「魂の仲介者」と呼ばれるように、死者を冥界に送り届けたり、冥界のからそこの住人を連れてくる仕事を独占的に任されているのだから.
「記憶、遺伝すれば、ってことだな、要するにおめえらののぞみは・・・」
「まあ望みってほどでもないでしょうけど、でもいずれ、記憶もDNA記録されて、子供と孫に伝えられるとすごいのではないか、ってちょっと考えてみたのですよ」
ドクトルがいうことはもっともである.2050年だかにシンギュラリティが来て、外付けのメモリーを脳につけるとか、脳の記憶をそのまま、AIに移動させちゃいましょ、という考えも同じ流れなのだろう.
「おめえら、最近、アルゴーの仲間のこと勉強したんだろ?」ヘルメスが聞く.
「ええ、それが何か?」
「アルゴーの乗組員の中、俺の息子が結構乗ってるのには気がついたかい?」
「はあ・・・・」ドクトルは自分が書いておいて、細かい、人名がわからないとこぼして、そこからまた物語を一つでっち上げたくらいだから、細かい乗組員、50人の名前、当然、記憶しているわけではない.自作の内容をコピー・ペーストしてみた.
「ヘルメスさんのお子さんたち、ですか・・」
『アウトリュコス 牛泥棒.手で触れたものを見えなくなる技、牛の色を変え、ツノを取り替える特技がある.そしてこの人の娘が、イアソンのお母さんということになっているから、神話の時系列の(?)ということがよくわかる.お父さんのヘルメスさんの得意技を多く引き継いでいるということでしょうか?
エイリュトス カリドーンの猪狩りに参加としか書かれていません.
アイタリデース 伝令役 アイタリデースは父ヘルメースから、死後も消えない記憶力を授かったといわれています.このおかげでアイタリデースは生前から記憶力に優れ、生まれ変わった後もその記憶を持ち続けた.しかしそれだけでなく死後に経験したことや、生まれ変わったときのことも覚えていて、トローイア人のエウポルボスに転生したときに、そのことを人々に話した.さらにその後もヘルモティモス、ピュロスを経て、ピュータゴラースに転生したという.いける.記憶?それが船に乗って旅する時にどう役になったのでしょうね?大方記録係?
エキーオーンはスパルトイの一人でヘルメスの子供であるという記載はない.』
(「神統記」アルゴーの冒険②より)
おお、この男ついに、自作をしれっと参考文献みたいに引用してきたぜ!
しかも内容はほとんどがWikipediaの受け売りである.
「アイタリデースさんのことですか?」ドクトルは聞いてみた.
「そう、アルゴーの冒険に子供を参加させた神々、俺が、最多で4人だ.アポロンの兄さんもだけどな」
「へえ、そうすると、ピタゴラスも、アイタリデースさんが転生した、ってことですか?なんかすごくないですか?」
「ヘルメス、ってすごいんだ!」健ちゃんがヘルメスを見直したように話に加わる.
「ヘルメス、ってしゅごーい」珍しく、愛ちゃんちゃんにも褒められた.
「まあ、俺じゃなくて、息子のことだけどな・・・」
息子のことを褒められて、自分のことのように「えっへん」なヘルメスだった.




