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ホメロスと、琵琶法師と、ソクラテス

「ああ、わかった!」

ドクトルがいきなり大声で叫んだ.


「おお、どおした・・、びっくりした」ルシフェルと、ポセイドンがこっちをみた.

大声を聞いて、はるなと、静香と、海丸くん、愛染の母ちゃんも図書室にやってきた.


「どおしたの?」はるながきく.


「いや、ソクラテスが、文字を使うことを頑なに拒否した理由ですよ!」

ドクトルが答える.


「ソクラテスがどおしたの?」静香も話の筋がわからないがとりあえず聞いてみた.


「いえね、今、私が小説の続き書くのに、アルゴーの50人、誰が誰の子供でどこ出身で、どの港で何をしたか、って話、ホメロスとか、稗田阿礼に記憶のコツを教えてもらいたい、って話をしてたのです・・・」


「ほお・・・」皆がキョトンとして続きを促す.


「稗田阿礼って私昔日本史で習った時に盲目だと習ったような気がするのですが、ネットで調べたら、見たもの全て記憶し、聞いたこと皆覚えるとされているみたいで、盲目ではなかったらしい」ドクトルは自説を熱弁する.


「しかし、ホメロスは目が見えなかったというし、後の世の琵琶法師、盲目の語り部・・・・だから文字を読む必要がない.それによる膨大な、記憶力、そして、記憶のために文字を拒否したのが、ソクラテス・・・」


ホメロスも、琵琶法師も、音楽に乗せて、膨大な情報を暗記し、それを歌って聴かせて回った・・・・

ギリシャの吟遊詩人も、膨大な物語、歌って聴かせることが仕事だったのではないか?


「歌の歌詞は、なんかそのまま名前の羅列も覚えられるって、ないですか?

ほら、あるじゃない

ゆうこ

あいこ

りょうこ

けいこ

まちこ

かずみ

ひろこ

まゆみー

(なんて歌でしたっけ?中島みゆきさんの「あの娘」と言う歌だ)

って、ネット歌詞を探すと、その通りなんですよね.小学校の校歌とか、歌詞は意味がわからないうちから覚えて、そのうちにああ、こう言うこと言ってるのだ、ってわかるし・・・歌に乗せると言葉を覚える.意味より先に・・・・みたいな」はるなの意見である.


「確かに・・・」水商売が長い、愛染の母ちゃんも納得である.歌で何回も聞けば、場所なんかも覚えやすいかも.続けていうのは、

「メロディー忘れると、歌詞も忘れちゃうしね.流星という歌、・・トラックの運ちゃんが、訪れる先、か旅のシンガーが訪れるところ?・・・袖ヶ浦・・っていう歌、メロディー忘れたから、街の羅列忘れてしまった.また今度聞いてみよう.CDあったと思ったけど、今度カラオケ行った時に見ればわかるか・・・」

(後でネットで聞いてみたら、香川、新潟、大阪、宮城、姫路、山口、袖ヶ浦)だった.


そう言えば、ギリシャでも、音楽の女神のムーサは皆記憶の女神である、ムネモシュネの娘たちである.


「いろんな言葉の羅列を覚えるのは、歌に乗せてって言うことが合理的だってこと?」静香の疑問.


「うーん、どうなんでしょうね?」ドクトルどうですか?と海丸くんが話をドクトルのところに戻してきた.


「歌、記憶、盲目、文字を使わない・・・なかなか興味深いテーマに辿り着いてしまいましたね・・・」ドクトルは戸惑っている.

「アルゴーの歌とか、ギリシャになかったですかね?」神々に聞いてみたが、皆さん、


「さあ?」である.

オケアノスさんに、聞いてみたいですね、娘さんの名前どうやって覚えたか、なんて.ヘシオドスの「神統記」には載ってるのですよ・・・


「おお、それは一度俺、御隠居のとこ行くことあったら聞いとくぜ、でもあのじいさん、娘の川の名前、覚えてるか、っつうと疑問だけどな.3000人娘がいて、それを覚えてますかって話だからな.それにあの爺さん、争いが嫌いな人だから、のほほんとした暮らしが好きだからな・・・・」オケアノスの後を引き継いで海の支配者になったポセイドンの親父である.


「オリエントの歴史研究の大家で、本村凌二先生が書いた『多神教と一神教』という本があります.

副題が

古代地中海世界の宗教ドラマ

とあります.

 エジプトとかアッシリアといった大国の狭間で、イスラエルとか、シリアとか、レバノンあたりのことですか?アルファベットの元が作られて、文字の集約化に伴って、そしてそこで同時に多神教の神々の集約化で唯一の「神」が生まれたという考えが書かれています.」静香が最近読んだ本の紹介をする.

(お、静香もなかなか勉強してるね・・・)


「歌で、名前の羅列を覚えてしまいましょうというのは、一つの単語、単音が連なる言葉に、リズムとかメロディーという一つ次元ディメンションを加えることによって、大脳の情報処理が、滑らかにできるとか、言葉に音楽を加えることで、情動回路を活性化して、ついでに記憶回路も活性化してしまいましょう、的な?」

これもバリバリ理系女子の静香の意見である.文系の女の子に、ディメンションなんて言葉は出てこない.最近ドクトルに神経の生理学のようなことも教えてもらっているから、情動と、記憶の回路は、共通していることも彼女は知っている.


「ディメンションを追加するということで、形と意味という音以外のディメンションを加えることで、情報の深みを与えたということでしょうか?日本の漢字、現代に残る、象形文字?文字が音だけでなくて、「意味」を持つ言葉の体系、アルファベットの簡略化とはまた違った文字の体系、それを保持し続ける日本民族が、これまた、無数の文字を使ったエジプト人と同様、八百万の神々を信じる多神教信者であることも興味深いですね・・・・」


ドクトルが一人で納得して、まとめてしまった.続けて、

「そして、文字は情動回路を刺激しない、だから記憶の定着には、役に立たない、そのようにソクラテスが考えて文字の使用を拒否したとしたら・・・・」


「おいおい、そんなに簡単にわかったような気になったら、ダメじゃないのか」

最後にルシフェル釘を刺した.

「そうですよ、勉強の記憶、そんなに簡単じゃないんだから・・・」これから受験とか、いろんな勉強をしないとダメな海丸くんもそう思った.

 

アルゴーの乗組員、50人の名簿の整理から、なんか横道に逸れた感じがないわけでもないが、言葉の羅列、記憶のメカニズムに関してなんか新たにわかることがある、かもしれない.




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