症候学④「腹痛・腹部膨満」
ドクトルが、朝倉内科(朝倉出版 第11版)の教科書を見ながら、「腹痛」の勉強をしようと思って、目次を見て、おやっと思った.
なんと、腹痛の詳しい記載は、「治療学」のところに記載されていた.
治療学の中でも「救急治療」の一項目である.
心肺停止
急性心不全
急性呼吸不全
腹痛(急性腹症)
消化管出血
昏睡(意識障害)
とある.
心肺停止は別に置いといて.どおりで症候学の中で、意識障害の記載が、病態の大まかな説明に終わっているはずだ・・・・
すると、ドクトルが規定した、5大症候、
つまり.
意識障害
胸部痛・胸部苦悶
呼吸障害
腹痛・腹部膨満
発熱
いうのはあながち的外れではなく、救急治療が必要になる疾患の診断と、そのまま治療に直結するという意味で重要であるということになるか.
ただし、発熱をきたす疾患については、症候学を参照ということになるか.
急性心不全と急性呼吸不全をまとめて、胸部苦悶、胸痛、呼吸困難でまとめて
腹痛は、腹痛(急性腹症)、消化管出血でまとめて
厳密には心不全の症状と胸部苦悶は違うのだが.
昏睡(意識障害)
としていいわけか・・・・
「腹痛」については、治療学で、その症候学と診断学を勉強しなさいという趣旨で編集された教科書であると理解して、そのようにする.
腹痛の診断、決めては?
「急性腹症」として緊急開腹手術の適応になりうる病気かどうかの診断のようだ.
外科の特別講義で、赤十字病院の先生が、開腹手術の適応は「お腹を触って決める」と言われていたのが印象的だ.その先生はおそらく戦前の生まれだろう.ドクトルの大学時代の恩師の教授先生たちは、大体は昭和一桁から10年代のお生まれで、ドクトルが卒業の頃からその後医者になって10年くらいの間にぼちぼちと定年退官になられるという方が多かった.地方の中核病院の指導的な先生方もそうだったと思う.CTが普及し始めるのが、1980年台以降だとすると、画像診断にあまり頼れない時代だったということになる.この内科の教科書にも、開腹手術を回避できる場合も画像の進歩で多くなっているという記載があった.
腹部を9箇所の部位に分け
右季肋部、心窩部、左季肋部、
右側腹部、臍部、左側腹部、
右腸骨部(右下腹部)、下腹部(正中)、左腸骨部(左下腹部)
に分けて、それぞれの部位で、疾患の鑑別診断の参考とするというものだ.
例えば、右季肋部が痛む時は胆嚢炎とか.心窩部が痛む時は、胃十二指腸潰瘍とか、狭心症・心筋梗塞、大動脈瘤破裂なんかも考慮すべきということが書いてある.
急性胆管炎なんていうのもなんとなくわかるし、急性胃炎、胃がんはこの辺りはいたくなるだろう.
左季肋部も、胃とか膵臓の病気による痛み、あってもいい気がする.脾臓梗塞?見たことがない.脾曲症候群は、この本の索引には載っていない.
伝染性単核球症で脾臓が破裂することがある、というが、その時は左季肋部痛が起こるのだろうか?しかしこの脾臓破裂はまれにしか起こらないとされている.患者さんに聞くと、大体はお腹をぶつけないようにという注意をされているらしい.
脾臓が破裂すると、痛いらしい.昔、跳馬に激突して、腹部を打撲して、脾臓を破裂させた後輩がいた.かなり痛かったらしい.触られた手を離されると、ズキンと痛かったと言っていたから、腹膜刺激症状なのだろう・・・
外傷は、腹部外科だから内科診断学とは違うということだろう.外傷については書かれていない.あくまでも内因性疾患による症状ということなのだろう.
右季肋部の痛みで考えられる疾患・・・
胆石症、胆嚢炎、胆管炎はわかる.じゃなんで十二指腸潰瘍?十二指腸、右の方に偏っているのだっけ?しかしPUD:peptic ulcer diseaseのepigastiric tendernessが見られる患者は、正中より右寄りは、20%だと書かれている.
下腹部の痛みが、産婦人科的な疾患であることが多いのは、なんとなく想像できる.
卵管炎、異所性妊娠破裂、卵巣腫瘍茎捻転・・・は右、真ん中、左にありうる.
子宮付属器炎は、真ん中にのみ記載があるのはなんでだろう?両側に起こりうる病気なのだろうか?
虚血性大腸炎は、左の下腹部はなんとなくわかるし、右の下腹部にCrohn病というのは回盲部病変ということでなんとなく理解可能である.
イレウスは、ど真ん中、臍部にだけ書かれている.
臍の周り、右から真ん中、左の側腹部、急性腸炎・・・
左右の側腹部に尿管結石・・・・・
ハリソン(21st edision)を見たら、腹部は上下、それぞれを3分割した、6分割である.
ほお、心窩部に、心嚢炎か・・・
卵管炎、子宮外妊娠は左右の下腹部に、
炎症性腸疾患は左右とも下に記載がある.
腎梗塞の記載はない.イレウスの記載もない.
痛みの性質が
内臓痛
体性痛
関連痛
かによって疾患の本質に迫る、というのが診断学の手順らしい.
疫学は以下のようになっている.
一般診療で腹痛を訴える患者は、2.8%
腹痛の原因は、
胃腸炎 7.2〜18.7%
過敏性腸症候群 2.6〜13.2%
泌尿器系疾患 5.3%
胃炎 5.2%
胆嚢・膵臓疾患 4.0%
憩室炎 3.0%
急性虫垂炎 1.9%
1/3は原因不明だった.
「へえ、意外と虫垂炎って多くはないんだな」ルシフェルはいう.
「胆嚢、胆管、膵臓の疾患が腹痛患者に占める割合が結構高いということになりますね・・」ドクトルの印象である.
「あと、憩室炎が虫垂炎より多いってのは驚きだな.一般的な知名度は圧倒的に虫垂炎、いわゆる盲腸だもんだ・・・」ルシフェルの言うことはもっともな気がするが、が腹部の疾患、腹痛を扱う先生方にとってはそれが常識なのかもしれない.
初期の虫垂炎は臍の周り、そこそこ進んだら、右の下腹部?内臓痛あるいは関連痛が、体性痛に変わります、ということでしょうか?
腹痛の部位による分類を見てドクトルが言うには、
「ほら、この表の中に潰瘍性大腸炎、載ってないでしょ・・・あの病気、腹痛がなくて、いきなり真っ赤な血便が出るからびっくりするんです・・・」
「ほお、Crohn病は右の下腹部が痛くなるってちゃんと書いてあるもんな・・」ルシフェルもなんとなく納得である.
「あと、腎臓梗塞が一覧に出てませんね、あの病気、めちゃくちゃお腹痛がるんですよ、心源性脳梗塞の患者で一人だけ見たことがあります.ワーファリンしかない時代です.PT -INRが、1.2くらいだったとおもう、あまり上がっていなかった・・・ある時突然、冷や汗をかいてお腹を痛がる.腸間膜動脈閉塞?と思って造影の腹部CT.所見が特徴的で、腎臓梗塞の部位が、ケーキを切り分けたみたいに造影されないのです」ドクトルの経験例である.
「あの所見は一度見ると忘れませんね・・・」
しかし幸いその後腎臓梗塞の患者は経験しない.一度見たら、その後は見ない珍しい病気?だといいかもしれないが・・・
「大動脈からの分岐の角度なんかも関係しているのでは?」とは、ルシフェルの考察である.確かに、塞栓症で、肋間動脈の閉塞、そもそも診断がつかないだろうし、吻合が多いから、一本くらい詰まっても症状が起こらないことがほとんどなのだろうが、あと、下肢の動脈や、上腸間膜動脈閉塞は多くて、腎臓やら、脾臓の梗塞をあまり見ないのは、動脈が大動脈から分岐する角度が、直角に近いからとか、流体力学的な、理由とかきっとあると思う.深部静脈血栓の左右差と同じで、大動脈の枝で、どの血管がつまりやすいか、なんてこと書いた一覧表なんか教科書に載ってるのを見たことがない.
「あとは下腹部の病気、特に婦人科関連、ほぼ未経験ですね.これも幸か不幸か、という感じなのでしょうか・・・・・」
「それとね、自分のことで申し訳ないのですが、一度左の側腹部痛、かなり強い痛みで、潰瘍性大腸炎がらみか、あるいは癌でもできたか・・・ちょっと心配になりました.下血をするわけではない.朝早くに出勤して、当直の外科の先生にお願いして、腹部CTをとってもらったら、尿管結石だった.一旦良くなって、その後また痛くなったりしたのですが、泌尿器科の先生に一日水を1500ml以上飲みなさいというご指導で、その後は痛みの発作は無くなりました.」
その前に肉眼的血尿が見られたことがあったのが、関係しているかどうか・・・
しかしその時は、5kmくらい、夜中に散歩したあとだったから、溶血で、ヘモグロビン尿が出たかもしれませんね.
わからないことが多いです.




