腹痛と動脈硬化「患者の声、聞けただろうか・・・」
ドクトルの経験談である.話し相手は、海丸くんと、ルシフェルである.
60代くらいの男性でした.糖尿病が長く、脳幹梗塞の患者さんでした.脂質の異常症もあったのではないでしょうか、喫煙、飲酒歴については資料が残ってないのでわかりません.意識障害はなくて、医師の疎通はできました.発語は不明瞭でしたが・・・・
嚥下障害が強くて、経口で食事を取ることはむづかしい人で、経鼻経管栄養をしていました.
経管栄養を初めてどれくらい経ってからのことかはわかりません.
看護師さんが、経管栄養剤のパックを患者さんの前に持ってきて、始めようとすると、患者さんは、
「やめてくれ」と必死で訴えるのです.回診の時に、私に拝んで、どうか経管栄養を止めてくれ、というのです.真剣な表情です.
「しかし、栄養をやらないと・・・」
なんとか患者さんを説き伏せて、経管栄養を継続した.
ある時、時、高い熱が出て、お腹が張ってきた.患者さんはぐったりして、反応が鈍い.血圧も下がっている.
胸部、腹部のレントゲンとCTを見ると、腹腔内にフリーエアが見られる.
「腸管穿孔、それによる、汎発性腹膜炎・・・・」
数日のうちに患者さんは亡くなった.
病態の理解が追いつかない自分は、患者さんの家族に頼んで、なんとか病理解剖をさせていただくことになった.
小腸に壊死があり、小さな穿孔がある.
大動脈を取り出し、縦に切開すると、内腔はアテローマ血栓で満たされて、本来お血管の内腔の平滑ですべすべしたろがほとんど残っていない.
「これを見てください、腸間膜動脈の分岐部です・・・」病理の先生に言われてみた.
「腸管膜動脈が、起始部で詰まったことによって起こった、腸管梗塞、腸管壊死・穿孔です.心原性塞栓症ではなくて、アテローマ血栓性でしょうね・・・」
・・・・・・・・・・・・
内科の教科書には、mesenteric anginaという病名がある.なかなか日本語にしにくい、病名だと思う.
動脈硬化性の狭窄で、長官に、心臓の狭心症と同じような病態が起こるというものである.
「経管栄養をしているとき、腸が動くと、すごく痛かったんだと思います.それで、栄養を始めようとすると、必死になってやめてくれって言ってたんでしょうか・・・
申し訳ないことをしました.それがわかっていれば、抗血小板治療を強化するとか、脂質に対する治療を強化して、アテローマを安定させるなり、退縮させるなりを考えるか、栄養を慶長にしないで、中心静脈栄養にするとか・・・・
申し訳ないことをした、と思います」
ドクトルの昔話である.海丸も、ルシフェルも黙って聞くだけである.




