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海丸列伝.「人の心、日本の心」


「父上に問う、人の心とは如何に、日本の心とは如何に?」

「それはおめえ、一緒に同じ家で住んで、飯食って、寝て、農作業は、田植えから草取り、稲刈りまでを手伝って、海開きにもちゃんと出て、釣りの仕方と、とれた魚、何が食べれて、何が食べれないかを教えてもらって、捌き方、うまい焼き方全部教えてもらって、そこの神様にはかかさずお参りして、地引網は皆と一緒に力の限り引っ張って、祭りの時には準備を手伝って、一緒に踊って、騒いで、あ、でもがっこはサボったりすんじゃねえぞがっこもタダじゃねえんだ、それに勉強が本文だからな、とそれでどこまで話したっけな、そうだそうだ、悲しい時には一緒に泣いて、笑って時には喧嘩したりしてな、それをしないとわからねえんじゃねえの?よその国のこととか、そこに住んでる人のことはよ」

 国を離れてわざわざよその国で暮らして、勉強することを、留学とかいうらしい.学問をする人たちの間ではこれをしたがる人が多いという話である.


「というわけでここに連れてきた」という事情らしい.


 出会いはこんな感じだったらしい.


 「ごめんよ」、太く低く、しかし家中に響き渡る声で、誰かが呼ぶのではるなは玄関に出てみた.見上げるばかりの大男が立っている.背が高いだけではなくて、でっぷり太っている.脂でぷくぷくと言うのとは違う、立派な体格.顔は赤く陽に焼けて、剥き出しの手足には鱗がはえているようにも見える.三又の矛を持っている、乗ってきた車はフェラーリで馬のマークがついている.玄関に横付けされている.エンジンはかけっぱしである.」

「あの、車、エンジン止めたらどうですか?ガソリン勿体無いでしょ、それに排気ガスも出るし」相変わらずはるなはそういうことに厳しい.

「おっといけね、そうだった」と大男は車に戻って、エンジンを止めてきた.

「それとあとなんですか、それ、さすまたですか?危なっかしいからしまってください」矛のことを言ってるらしい.

「あ、これは三叉の鉾と言って俺のトレードマークなんだけど、漁師の大事な道具なんだが・・・」

「危ないからしまって!」

「そうか・・・」大人しく車の中に片付けてきた.

脇を見ると、小さい男の子が立っている.おかっぱの稚児姿で、顔は色白で一重瞼だが、ふくよかなほっぺは結構可愛い.しかし、この大男の子供にはとても見えない.

「それで、あなたさまはどちら様で、この子は?まさか、その子を攫ってきたのでは・・・」誘拐犯が、攫ってきた子をよその玄関で見せるか?ということは、まずないだろう.はるなにはわからない常識のようだ.玄関には、鬼丸こと、ルシフェルの親父が立っていた.


「よお、久しぶりだな、元気にしてたか?」

「おお、にいちゃんも元気そうだな、相変わらず悪さ、してんのか、うー?」と悪戯っぽく聞く.


「おう、海坊も久しぶりだな、相変わらずちっちえな.うーん、そうでもないか、ちっとは大きくなったか、親父と並ぶと誰でもいつまでも、小さく見えるか、ははは」


 大男は、海の神ポセイドンである.ルシフェルと、冥界の王様、ハーデスにとっては弟に当たる.海と大地と地震の神様と言われている.七つの海を支配する、まあ言ってみれば、漁業組合の会長と、気象庁の長官と、海上保安庁長官と、海上自衛隊の幕僚長と、まあつまりは、海に関すること全ての元締めと言っていい.そうそう「海丸水産」と言う海鮮居酒屋の社長さんは何を隠そうこのポセイドンの親父である.あと地震が起こった時は真っ先にテレビに引っ張り出される、そう言う立場の神様だ.連れてきた子供は、誘拐されてきたわけではなくて、ポセイドンの息子の海丸くんであった.ルシフェルのおじさんとはもっと小さい頃にあったきりで久しぶりの再会である.海丸くんは人見知りらしい.お父さんの影に隠れてなかなか出てこなかった.と言うか、あのお父さんの影にいると、子供がいるのもわからなくなるかもしれない.


 応接室に通されて、はるなはお茶とお菓子を出す.海丸くんはお菓子に手をつけない.お茶も少し口にするだけである.ちょっとお茶をこぼした時、小さい声で「あちち」と言っただけである.あまり表情は変わりなかったが、その時だけちょっと顔を顰めたように見えた.

「この子、まあ子供の頃だからなのか知らねえけど、俺に似ないで、本読んだり、色々考え事するのが好きな子でな、ある時ボソッと、父上、て、さっき言ったようなこと真顔で聞いてくるもんでさ、それで、まあ、外国とそこに住んでる人のこと、その人たちの気持ち、知ろうと思ったら、一緒に住んでみるのが一番でねえの、ってことで連れてきたわけでさあ」


「じゃ、俺が日本の心、人の心を教えてやっから、まあ心配するな」ルシフェルが言うと、即座に大男がいう.

「いやいや、にいちゃんにはあまり余計なこと教えないでもらいたい、いや、きっぱりお断りだ!そんで、はるなさん、ドクトルさん、なんとか、うちの子に人の心、日本の心、教えてやってはくれませんでしょうか、お願いいたします」

 見かけによらず、律儀なお父さんで、息子に対する愛情が溢れている.はるなとドクトルはこの海の神様に好感を持った.

「私たちに教えてあげられること、あまり大したことできないと思いますが」ドクトルが言うと、

「何をおっしゃいます、あなたは腕の良いお医者で、しかも我々と精霊の気持ちをよくわかってくださるとか、どうか、息子を一人前にしてやってください.」


 めずらしくはるなが乗り気のようである.「じゃ海丸くん、色々お手伝いとかできる?勉強だけじゃなくて.お皿洗いとか、洗濯、に掃除、お買い物・・・・」

 なんのことはない、自分の家事の負担が少し減るかなと思っただけのことらしい.

「なんでもお申し付けください.全て勉強と思って頑張ります」子供ながら、天晴れな口上である.

「おお!」皆が感心した.

 

 こうして別館の居候はまた一人増えた.しかし、今度の居候はなかなかできた子供のようだ.頭が良さそうだし、お手伝いも期待できそうだった.

 それと、海丸くんが来てからと言うもの、はるなのうちには、海、川、湖で取れるありとあらゆる食材が、山のように、あるいは湧いて出るように運ばれてくるようになった、そうである.




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