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異変

 アメリカで連勝を記録するという、自身にとっても予想外のリザルトをひっさげ、IZUMOは欧州の地を踏む。


「いよいよ、ここからが本番だ……」

 舞台となるスパ・フランコルシャンのコースを見つめながら、田中は独白する。実は、欧州でもIZUMOの注目度は高かった。

 それもそうで、意外かもしれないが、WMEに於いて、アメリカのレースで連勝したケースは今回が初めてだったのである。

 そもそもセブリングとデイトナでは性格が大きく異なっており、あのフェラーリでさえ連勝したことはないのだ。注目されて当然である。


 そして、アメリカでは思うように撮影できず、結局NBC経由の写真しか掲載できなかったことで、不本意な想いをした功も欧州に来ていた。

 WMGP効果で日本人は今や欧州では何処へ行っても大歓迎であった。

「まさか、こんなにも簡単に入国できるとはな。アメリカとは大違いだぜ」

 尚、21世紀現在、日本人はパスポートを提示するだけで少なくとも欧州や親日国ではほぼフリーパスだが、アメリカでは今も厳しい姿勢を崩していない。円安だけの問題ではないのだ。


「さて、IZUMOは何処かなあ。おっ、今からコースインするのか」


 これから、IZUMOはピットアウトしてコースインする直前であった。無論、注目していたのは功だけではない。アメリカで連勝し、更に去年の富士でもデビューウィンを飾ったことにより、三連勝したことで欧州のメディアからもフラッシュが浴びせられていた。


 尚、スパ12時間の舞台であるスパ・フランコルシャンは、これまでになく長い。当時まだ全長は14.12㎞あり、現在の倍。その上、コースの見た目以上に曲がりくねっておりバンピー。更に風も強く、何より名物スパ・ウェザーによる予測困難な天候の急変が恐い。

 これは、スパのある位置が北海から大西洋へ向かう風の通り道となっている以上、これは仕方がない。

 

 だが、その条件故、スパは毎回荒れることで有名であった。しかし、ここ数年、フェラーリの盤石振りは相変わらずであったが。

 フェラーリとしては、ここで勝利して次のルマンへ向け、弾みをつけたいところだろう。そのフェラーリはまだ、現れていないものの、恐らく今日中には到着するとの情報が入っていた。


 IZUMOは、快調に流していた。少なくとも、コースとの相性は問題ない。


 一周したところで、ピットからサインが出た。それは、レーシングスピードで走れという合図だった。尚、ピットサインは基本的に野球などのコーチ陣同様、基本的には暗号と思った方がよい。

 IZUMOでは今回から、黒地に白文字のプラカードを嵌め込む方式のサインボードを持ち込んでいた。これは、耕平がドライバーが素早く読み取れるようにすることで、余計な疲労を抑え込むことを意図して考え出した。

 それまでは、黒板にチョークで手書きしていることが多かった。映画『フォードVSフェラーリ』でも、昔のレースでのピットサインの様子がよく分かるので、その点に注目して見るのも一興であろう。


 因みに、日本人は黒地に白文字が最も早い反応を示す傾向にあるのに対し、欧米人は黒地に蛍光イエローが最も早い傾向にあると言われている。


 ピットサインを受けて、明らかにエンジン音が変わった。この時、功はスパの名物コーナー、オー・ルージュに陣取っていた。

 功は独白する。

「WMGPじゃ、ここをショートカットするようにフルスロットルで駆け抜けていく命知らずが二人いるんだよなあ。もしかして、IZUMOもやるかもしれん」

 そう、功も、あの伝説の走りの映像や写真を見たことがあり、それを見事収めた先輩には敬意を禁じ得ない。正直、映像を見ているだけでも恐ろしい。なので、実際に立ち会った時の恐怖感がその比ではないことは、明らかと言えよう。


 実は、功も密かに期待していた。IZUMOならここでそれをやるんじゃないかと。実は、当時のオー・ルージュはレ・コームまで比較的ラインが緩くスピードを回収する余裕があったことと、その上オー・ルージュにスピード抑制のためのコブ状のラインがなかったため、四輪でも理論上フルスロットルで通過可能であった。

 尤も、それをやる命知らずなど、未だにいない。


 やがて、オー・ルージュへ突入しようとしていた。功は無意識にカメラを構える。だが……


 オー・ルージュからケメルへ入るその境目、即ち下りから一転して上りに入るところで、マシンは突然バランスを崩し、スピン。芝生へコースアウトするも、回転しながらマシンはどうにかコースへ復帰した。

 だが、何かがおかしい。功は、その瞬間をモータードライブで連写していた。


 カメラを降ろした功は、顔面蒼白であった。それもそうだろう。ここでコースアウトしたら、最悪の場合死に繋がるリスクもあるのだ。

 それでもどうにか復帰できたのは、IZUMOのコントロール性の高さに辛うじて救われたのである。

「い、一体何があったんだ!?」


 それは、これからIZUMOに襲い掛かる、異変の兆候であった……

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