誰も追いつけない……
午後4時、マシンへ勇躍乗り込むドライバー。ピットに轟音が響き渡り、次々とコースインしていくマシン群。ゴールは翌日の午後4時。
ピットを出るとすぐさまテクニカルセクションに入っていく構造のため、マシンの動きは存外に鈍い。だが、それこそが最大のチャンスでもあった。
観客席から、驚嘆の声が上がる。
その理由は、テクニカルセクションを縫うように駆け抜けていく一台のマシン。そう、IZUMOであった。その躱し様が、見事という他ない。
中団からスタートし、一時後方に落ちるものの、テクニカルセクションを抜ける頃には、既にトップグループを窺う位置にいた。
それにしても、何でこんなことが可能なのか。
理由は、今回エンジンを換装しただけでなく、前輪のモーターにも手を加えてあった。というのも、神経質極まるハンドリングのIZUMOは、これによってどうにかコントロール可能なのである。
基本的には回転数を検知して、3000回転以下の時に作動し、6000回転になるとアシストが切れるようになっており、コーナリングの際は、ステアリングともリンクしていて、舵角が5度以上になると回転数に関係なく動作し、回転数が6000回転になるとアシストが切れる。
それまでは作動条件を2000回転以下、5000回転以上としていた。
エンジンを換装した結果、高回転寄りの特性になったことへの対策でもあったが、反って扱い易さは向上している。
それでも他のマシンと比べ、パワーバンドが広いことに変りはない。
IZUMOは、今にして思えばトルクスプリット式AWDの先駆とも言えるが、まさかこれ程とは、田中でさえ予想外であった。
マシンはヒラリヒラリと躱していくが、先頭集団を走るビッグ3のV8軍団にはさすがに分が悪い。
オープニングラップを制したのは、フォード陣営のマスタング。次いでチャレンジャー、コルベットと続き、IZUMOは6位で通過した。
だが、今回のIZUMOは、作戦などというものはない。とにかく、誰よりも速く走ることしか考えてなかった。
そして、早くも二周目のテクニカルセクションで、ビッグ3組をゴボウ抜きに掛かる。その走り、観客席は激しく動揺し、また、先頭集団も、まさかという思いだった。
テクニカルセクションを抜けると、IZUMOは先頭に立つ。スプリントレース並の展開に、ピットでもさすがに動揺が走る。
デイトナは24時間もある以上、その上テクニカルセクションが加わると、見た目に反してマシンへの負担も大きいコースであるため、スローな展開となるのが常であり、大体残り3時間くらいから追い込みが掛かるのが普通だ。
それ故、如何に異様な展開であるかが理解できよう。
しかし、田中は全く動じていない。というより、あのビッグ3を早く抜き去らないと、寧ろこちらが次第に不利に追い込まれることになる。
何故ならV8エンジン、しかもクロスプレーンともなれば、排ガスは非常に高温であり、その後ろに居続ければ、こちらとてオーバーヒートの可能性はゼロではない。
そう、とにかく速く走れとは、そういう意味だったのである。寧ろ、これこそが作戦なのであった。
レース開始から3時間が経過。デイトナは漆黒に染まる中、渦海に交代してもペースは落ちることはなく、この時点で余程のトラブルがない限り、優勝はほぼ確定であった。
最早、誰も追いつけない……




