跳ね馬は絶好調
準備が終わったフェラーリは、早速コースインしていく。無論、フラッシュのシャワーはIZUMOの比ではない。さすがに名門は違う。
そして、一番乗りしたのは黄色。即ちチーム・モデナである。ハンドルを握るロレンツォは、ある決意を秘めていた。
「富士では自分のペースを見失ったのが失敗だったな。かといって、アイツは侮れん」
過剰なマークが敗北の原因の一つであることを、ロレンツォは正確に掴んでいた。だが、それでもあのマシンに不安を拭いきれていないことが窺える。
しかし、その走りはやはり冴えていた。元より当時のセブリングとフェラーリの相性は抜群で、まるでフェラーリのためにあるかのようでもあった。
尚、史実に於いて1972年以降、セブリングで連戦連勝できなくなったのは、1973年にワークスが撤退したのもあるだろうが、プライベーターでは参戦を継続しており、2026年現在、95年、97年、98年しか勝利していないのは、1983年以降コースレイアウトが変更され、特に真北のセクションがストレートと直角カーブから、緩やかなカーブで構成されたテクニカルセクションへと変更されたためではないかと推測される。
過剰なスピードを抑え込む安全策のためであり、またこのレイアウトによって、一掃面白味が増したのも事実だが、フェラーリは、実はこういったテクニカルセクションは苦手とする傾向にある。
確かにフェラーリもハンドリング自体は素晴らしい。それは今も変わらない。
だが、フェラーリはグリップ走行では本領を発揮できない。
F1でもミハエル・シューマッハの引退、キミ・ライコネンがタイトルを獲得した2007年以降、再びチャンピオンから遠ざかっているのは、レーススタイルの変化と無関係とは思えない。
そして、WECに於いてあのトヨタを相手に無敵を誇っているにも関わらず、ルマンには勝利できてもセブリングは鬼門となっている。
現在、ドリフト派にとって、モータースポーツは冬の時代と言えよう。
だが、この頃は時代も間違いなくフェラーリに味方していた。その振り回すような走りは、現地入りしていたプレスや観客を魅了する。
更にIZUMOでも、
「跳ね馬は絶好調といったところか。あの走りを見る限り、死角はなさそうだな」
正直、その走りには戦慄すら感じる。それは、自分たちの自信とはまた別物だ。
このセブリングでもまた、フェラーリが厚き壁となって立ちはだかることは確実であった……




